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僕たち結婚しました!魔王と始める異世界生活  作者: ヒカリ
第1章 馴れ初めは、魔の森でばったり会ったことでした!
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第2話  初めての共同作業

こんにちは、ヒカリです。

第2話は、異世界転生なのにチートなし!? という理不尽(?)な現実と、魔王とおっさんの初めての共同作業です。

※タイトルに「結婚」って入ってますけど、まだプロポーズから進展してません。

松明の群れが迫る。

枝葉を裂く音と、金属がぶつかる重い響きが森を満たす。


「マキトさん! 真面目にやらないと死にますって!」

リスが俺の肩で飛び跳ねる。


「やる気はあるよ。ただ、俺、戦ったことないんだよな」


「ないんですか!? 今さら!?」


「いや、会社員だったからな。戦う相手なんて上司くらいだ」


「それ戦闘じゃなくて社内政治ですよ!」


魔王が前に出て、剣を構えた。月明かりを受けた銀髪が揺れる。


「足を引っ張るなよ、人間」


「そっちこそ、もう魔力ほぼ空っぽだろ」


「……黙れ」


足音が近づく。影が木々の間を抜ける――。

心臓が嫌なほど跳ねた。やばい、死ぬ。死ぬって!

俺、まだ何もやり直せてない。


俺は思わず叫んだ。

「チート! 俺のチートは何!?」

俺はリスに叫ぶ。


「え? ありませんよ? 強いて言えば……私ですかね?」

リスが肩で尻尾を揺らす。


「お前、あいつら倒せんの?」


「倒せませんけど? 何言ってるんですか? リスですよ、私」


「えーーー! 異世界転生でチートなし!? 何それ? 俺、サラリーマンだよ! しかも40過ぎのオッサンだよ!」


「ほら! とりあえず隠れましょう!」


お、いいこと思いついたぞ。

俺は魔王から剣を奪って藪に押し込み、地面に転がって、自分の腕に浅く傷を入れる。


そこに勇者の仲間たちが現れた。


「ううう……」


「どうした! 大丈夫か!?……見かけない顔だな。東洋系の冒険者か!?」


「銀髪の女に……切りつけられて……」


「なに!? そいつは魔王だ! どっちに行った!」


「あっち……暗い森の方を……」

反対方向を指差す。


「勇者パーティの皆様……あっしのことはいい。世界を救っておくんなせい……」


「うむ。魔王を倒したら戻ってくる。それまで気を確かにな」


「へい……」


追っ手たちは松明を掲げ、森の奥へ消えていった。


アカデミーだ! アカデミー賞をくれ!


俺は藪から魔王を引っ張り出し、ドヤ顔を決める。


「いい演技だっただろ?まさか人間が魔王をかばうとは思わないだろうな」


俺はにやりと笑った。


魔王は呆れ顔のまま、それでも少しだけ口元を緩めていた。


いてて。ちょっと切っただけなのに、やっぱり痛いな…。

「これを使え」

魔王が無造作に緑の液体を渡してくる。


「おー!ポーションだろ!?ファンタジーっぽい!」

異世界転移したって実感するな!

……これ、毒じゃないよな?


そう思いながら、魔王からもらった液体を飲む。草っぽい味……フレーバーは……パクチー!

おじさん、大好きな味!普段飲みしたいね!


飲んだ瞬間から、傷はみるみる塞がる。


「そういえば、これ、勇者パーティと戦ったお前が使った方が良かったんじゃないの?」

ふと疑問になって聞く。


「私は既に傷は塞いでいる。ポーションは傷を塞ぐことはできても体力と魔力は戻らん」

そっけなく言う魔王は、明らかに憔悴している。


「ここ、魔王城の近所の森だろ? 何かないのか? 隠し通路とか、洞窟とか」


「……あるにはある」

魔王が気乗りしない声で答えた。


「え? あんの? なんで使わなかったの? なんでなんで?」


「そこは古からの洞窟で、森の外……ドワーフの国へ通じている」


「おお、ドワーフとかファンタジーっぽいじゃん! 行こう行こう!」


「……お前は、この世界のドワーフを知らぬからそんなことを言えるのだ」


「え? 背が低くてガッチリしてて、鍛冶が得意でビール好きなやつらだろ?」


「それだけではない。あの国に入るには、まず“血の杯の儀”を受けねばならん。

 相手の血を酒に溶かして飲み干し、異種族間の契りを結ぶ儀式だ。拒否すれば……即処刑だ」


「え……ちょ、それ怖っ……」


「そして宴では、地酒を限界まで飲まされる。断れば不敬罪だ。度数は……魔族の間では治療用の薬として扱われるほど強い」


「それ、消毒液じゃん! “飲んではいけません”って書いてあるやつじゃん!」


魔王は月明かりを背に、低く呟いた。


「私は何度か部下をドワーフの国に使いとして送ったが……戻ってきたやつはいない」


俺の背筋を、夜風より冷たいものが撫でた。

その洞窟の中で、何が待っているのか――考えるだけで喉が渇いた。


二人と一匹は、しばし無言のまま森を歩き続けた。

時間の感覚が薄れるほど長い道のりだったが、不思議とリスだけは涼しい顔をしていた。


読んでいただきありがとうございます!

次回はいよいよドワーフ国への入り口。

血を飲まされ、酒を飲まされ……その前に無事たどり着けるのか!?

次もお楽しみに。

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