留「おじさんもう訳わかんないや……」真「いやせめて本人はわかって下さいよ」
秋止さんの声が一室に驚き、僕の式神が面白そうに笑いを堪えて視界の端で小刻みに肩を震わせている。
「……たし、かに……強い式神を連れているから只者ではないとは思ったが……。青年~……何故言わなかったのよ~……」
秋止さんのショックと驚きと笑いに打ちのめされた様子に僕はつい微笑みながら首をかしげる。
「なんでって言われましても…。だって秋止さん、一度も僕の名前、聞きませんでしたよね?」
僕がニコニコしながらそう言うと秋止さんはきょとんとしてから数拍置いて納得したようにへらっと笑った。……とても良い笑顔で笑うんだな、この人……。
「……。……はぁ~…! なるほどねぇ…? 確かに一度も聞かなかったわ…俺は聞かれたけど…そうかぁ、ははっ!」
楽しそうに「いやぁ、1本取られたわ」と笑う秋止さんに思わず釣られて微笑む。
「でもそれはそうとして、どうして秋止さんはここへ?」
僕がずっと引っ掛かっていた事を聞くと兄の龍が呆れたように父を見やる。
「……父さん、また伝え忘れたんですね…?」
兄の冷たい眼差しに「あー……いやぁ、そうだったか? きちんと伝えるよう言っておいたと思うのだが…」と父がいつものように気まずそうに答えると「真に伝わってないという事は伝え忘れという事になるんですよ」と兄がため息をつく。
「全く、大事な事ほど伝え忘れる性格はなんとかして下さい、本当に…! 面倒事が俺に回るんだよ……」
呆れ果てて少し敬語が無くなりかけている兄に秋止さんと二人してきょとんとしていると、兄は分厚い紙の束をドサリと机に置き、二個の黒いファイルを開く。
ファイルには文字や写真、地図などの切り抜きが所々に貼られている。…これは…「怪異被害ファイル」? ……しかも黒か。
「怪異被害ファイル」?
その名の通り妖怪や幽霊、神々が人や生活に害を成した時に作られるもの。人が行方不明になればそりゃあ警察も動くが…あちら側が関与してるとなると一般人である警察は何もできない。その為、僕らのような祓い屋に仕事が回るという仕組みなんだ。
危険度や難易度で仕事のランクがあり、分かりやすくファイルの外側の色で分けられている。
まずは緑。何も経験のない初心者祓い屋しか見れない少しレアな一番下のランクのファイル。まずは見たこともない怪異に慣れてもらう必要があるため怪異の情報収集や強い祓い屋に付き添って少しずつ慣れていく、ゲームで言うところのチュートリアルだ。
次に青。こちらは怪異になれている祓い屋一家の血筋や、そもそも怪異に体制がある人が最初に目にするファイル。怪異になれると次にこのファイルを見る。
ポルターガイストだとか笑い声がとかの小物も小物の相手をする事になるので、新人などがよく見るファイルだ。まれに小物のフリをした大型の時もあるため、暇な強い祓い屋が居ればその人と共に行く。
次に黄色、怪異にも戦闘にも慣れてくるとここら辺のファイルを見る。ここからは警察機関がこちらに回してきた仕事も入ってくるが、稀に簡単なのもある。
次に赤。危険度は高めで失踪や殺害、傷害などの怪異事件の祓いを行う。祓い屋も強く、かつ技術のある人と式神でなければ大怪我をする時も。
そして黒、危険度はさらに高い。祓い屋が赤のファイルで任務失敗、失踪または傷害にあうと黒いファイルに目にかかれる。あまり害はなくても、特定の事を踏むと黒のファイルに入れられる怪異事件も多くはない。
最後に白。危険度はMAXで怪異被害は災害レベルから時期に災害レベルになると予想されるもの。それこそ祓い屋の血筋が関わらないと怖い案件。
他にも危険度難易度共に不明のクリアファイルがあるが……これは目にしたら世界の危機なので、見ない方が世のためだ。
「……黒いファイルって事は、祓い屋に被害が出たんですか?」
祓い屋というのは、いかんせん常に人手が足りない。怪異に怯え逃げだしたり、殉職したりもするのでいるには居るが…仕事はほとんどが単独行動ではないし、個々が強いため殉職は少ない。祓い屋が居なくなれば、今後出てくる怪異に世界中が阿鼻叫喚になっても可笑しくないから収入も良い。
まぁ今は祓い屋には最強と言われる五人集がいるからそうそう阿鼻叫喚、地獄絵図みたいな事にはならないだろうけども……やはり、同業が死んだとなると心持ちが違うというものだ。
「被害が出たといえば被害が出た。出てないといえば出てない……という、なんとも不思議な状態だな。取り敢えず資料を見てくれ」
……兄である龍が、訳のわからない事を言い出した。……はい? 哲学? 意味が分からない。
「取り敢えずファイルを読んでくれ、話はそれからだ」
意味が分からないままとりあえずファイルを手にして開く。いつもの力量を見誤るな、や単独行動厳禁という注意喚起のページをめくり早速問題の資料に目を通す。
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東京都渋谷、明治神宮近くの商店街の奥にある古本屋にて、とある妖怪が記した本が発見された。
その本には色々な妖怪の名と、ある程度の詳細が書かれており姿見も書かれていると予測されていた。
その本には軽い縛りのような呪いがかかっており、とても強い妖力を持っていると本を開いて閲覧ができるため強力な祓い屋に開けてほしいと依頼していたが強力な祓い屋は忙しいため今まで誰にも開かれていなかった。
今回はその本を強い妖力を持つ一般人が開けてしまい、起きた。本には他にも呪いがかかっていた事、中身の状態を我々が見抜けなかった、我々のミスだ。
本にかけられていた呪いは7つ
1 妖力が強い者しか開く事も閲覧も不可能
2 本の妖怪達は全員真っ黒なシルエット
3 閲覧したものは真っ黒な妖怪の本体に会い、本に封印、または「現し」と言われる方法で本にその姿をうつさねければならない
4 本に封印、または現しが出来るのは本を開けた者のみ
5 この本と対になる本は一体、対の本が更新されれば反映する
6 もしこの本を燃やそうものなら開いた者が燃やされる。
7 尚、一年以内に一つでも姿見を会得できない場合本を開いた者の魂をもらい受ける
この呪いという名の「制約」の代わりに常に妖怪達の新しい情報や噂話の進み具合を確認できる。噂話しだいで妖怪の狂暴性や出現が変わるのでかなり優位。
ただ今回は何も知らぬ一般人がそうなってしまったため我々の不手際、今後手厚いサポートと各地への派遣などー
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「……そんな呪いがかかっていたのか、あの本…」
僕は読むのを途中で止め、兄と父の顔を見て「これが報告されたのは?」と聞くと父が「2日前だなぁ、これでも早い方であろう」と頷きながら答える。
「何にせよ一般人が思いっきり祓い屋に来た事の報告に変わりはない、だが元々妖力が強い、つまり『見えてる側』の人という事……そしてこの内容ではすぐにでも祓い屋にならないといけない状態だ……ややこしいが、一応祓い屋への被害として受け取り黒いファイル判定になった」
はぁ……とため息をつく兄の顔は申し訳なさとやるせなさからか複雑な影を落としている。
呪いは制約と似ている。大きな買い物をする時も人は制約をもらう「転売はできない」「身分証明書が必要」…だがその代わり、大きな買い物が出来る。これが分かりやすい例だ。
大きな事柄を決めるにはそれ相応の条件と縛りがある。それは呪いもしかりで、呪い事態が相手に跳ね返される事もあるが縛りや条件を満たした呪いだとどれだけ相手に体制があっても呪いの副作用である「条件と縛り」は確約される。
つまりは―――「呪った者勝ち」。
「しかも今回はその一般人が、元々妖力が強いからか我々の認識してない程度で妖怪の勉強をしていてな……追い返す、どこどこには入らせないなどの結界を使用してたようで…祓い屋の事も少しだが知っていたので割とこの世界向きなのだよ
なぁ? 秋止 留さん
」
父の言葉に思考が止まる。「妖力が強い一般人」、「自己勉強」、「呪われた」。その理由が、この隣にいる人の「この家に訪れた理由」。
―――次の瞬間、常人には見えない刃物が交わされた。僕が出した霊刀、兄の霊鎖、そして……本。
僕の霊刀は彰止さんに向かっており、兄の霊鎖は僕の刀を止めていた。そして秋止さんは本で僕の刀を受けている。本には傷一つなく、達筆な昔の漢字で「霊手帳」と書かれている。――これが、呪いの本。
「こら、真。これから過ごす相手にそんな事をしてはいけないぞ」
父の言葉に大人しく霊刀を消すと兄も鎖を消した。秋止さんだけはやや顔が青ざめてたが。
「っ……くりしたぁ……!! 何よ青年! さっきまでほがらかだったろ! いきなり刀とか鎖とか!!
おじさん寿命縮まっちゃうからな!? 手帳が守ってくれたからいいけどさぁ!」
秋止さんの言葉にシン、と部屋が静まった。さっきの手帳は手帳の呪いの一つ、持ち主の危害は出来るだけ守るというのが発動したのだろう。つまり秋止さんは受け止めてない、ただ怖くて固まった。
「……大丈夫なんですか、この人」
心から出た言葉だった。こんなへっぴり腰にあの手帳の主が勤まるのやら……かなり心配だった。
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