不思議なふしぎな縁の繋がり
古くも新しいでかでかとした日本家屋に、ほんのりと見える木々は松や紅葉の葉が丁寧に伐採され青々と日に当たっている。
手入れされているのか、古めかしくも生き生きとした門構えと古くなって文字の彫りが少し擦れている葉倉の表札がアンバランスだがそれがまた味をだしている。
「これは凄いなぁ……」
俺は思わず感想を言うも、それは家の凄さに言った言葉だけではない。…普通の人なら、これは見えないのだろうなぁと思いながらも屋敷に張られている結界の強度やそこに仕える人ならざるもの達を見て、改めて「凄いねぇ…」と呟いてしまう。
人も人ならざるものも出入りしてくる玄関前はより厳重な結界が張られ、門番らしき妖怪が玄関前の灯りに見事に化けている…しかもこの感覚……この妖怪、かなり強いなぁ…こんな野良妖怪、どこで手に入れたのやら?
「そういえばまだ、お名前を伺っていませんでしたね」
ここまで案内してくれた青年がとたんに振り返り、俺を見つめる。……あぁ、そういやしてなかったなぁ。
「ごめんごめん、俺は秋止 留。変な名前でしょ? これがねぇ、役所申請通っちゃったんだよね~、ふふ。本当は違う名前のはずだったんだけどねぇ…」
あははと軽く笑い流すように自己紹介をしてからうやうやしくお辞儀をし「宜しくお願いします」と言うと羽織ってる着物が少し肩からずれてしまった。……まぁいっか。
「……。…私の方は宜しくお願いしないでおきます」
胡散臭いので…と小声で言いつつ目を反らす青年に最近の若者は警戒心高いなぁと目を細めて微笑む。
「では行きましょうか。貴方もこの家に用があるのでしょう?」
俺をちらりと視界に映したかと思えば、ふいっと葉倉家の方へ進んでいく青年の後を歩きながら何となく「青年もここにお呼ばれしてるって事は、同業者かな?」と聞くが数秒の沈黙が流れ、あぁそういえばと思い出し咄嗟に「あぁ、言いたくないのなら別にいいんだよ? おじさん気遣い下手でごめんねぇ」と謝る。
こういう「払い屋」仕事はまさに人ならざるものと関わる事になる。他には見えないものが見える故の孤立、そういう類いにちょっかいをかけられたり食べられそうになったり呪われたり……という切っ掛けで自分が「払える側」だと知り払い屋になるケースも多くない…同業者か? なんて軽々しく聞いちゃ駄目だったかなぁ?
「別に構いませんし、同業者ですよ。代々そういう家業なんです」
淡々と話す青年にそういうパターンか、と納得した。こういう「払う力」「封印する力」などは遺伝するパターンもあるのだ。特に力が強い者同士の子となれば遺伝する可能性はほぼ100%だ、そういう場合はその子も「払う側」の職になる。
否、「払う側」になった方がいい、と言った方が正しいか…。
「とりあえず家へ入りましょう、私も貴方も話はそれからです。」
青年はそう言い靴を脱ぎ、人も人ならざるものも闊歩する日本屋敷へと入る。……言われてみれば少しの作法でも動きが綺麗だ。靴を脱ぐ動作、揃える時の姿勢、歩き方…きちんとしつけられ育ったのが分かるし、顔や存在が怖い顔だけや明らかに変な生き物みたいなあやかしが近くを通っても微動だにしない。まさに「払い屋家業の人」という雰囲気だなぁ……と感心しつつ、俺も後を続く。
こちとらぽっと出の庶民払い屋なんでね、作法とかないので見逃してもらおうと思いつつもせめてもの抗いで下駄を揃えついていく。
頭だけのあやかし、蛇の霊や人魂、道中すれ違う紙の面を着けた現代服のあやかし……本当に沢山いるものだと驚いていると、目的の部屋についたようで一般人らしき女性が襖を開け「こちらへ」と言う。
青年と俺は案内された客室用らしき部屋に入り、座布団に正座しこの家の主、つまり葉倉家の長であり二人の息子の父、葉倉 轟さんと長男であり時期当主の葉倉 龍さんを待つ。 次男に真という人もいるらしいが、後々会うことになるらしい。
いやぁ、ぽっと出の庶民払い屋だから本当どんな顔してるのかなんて知らないんだけども、皆さん貫禄凄いんだろうなぁと気の抜けた事を考える。
そうこう考えているとふすまが静かに開き明らかに貫禄がある髪型にヒゲを携えた和服の方……ではなく、跳ねぎみな黒髪を適当に結んだ無精髭の和服の方が苦笑しながら入ってきた。年齢は四十そこらといったところだろうか、ちらほらと白髪が見える。
「すまんすまん、少々雑務が溜まっていてな……出迎えも出来ず申し訳ない」
ほがらか~な雰囲気でどさりとあぐらをかいて座る人……おそらく轟さんの方であろう人に「いえいえ、こんな胡散臭いおじさんを信用してくれてありがとうございます」とお礼をいうとまた誰かが入ってきた。
「全く、父さんはすぐそうやってサボる……だから毎日弟子達に怒られるんだろう、いい加減弟子達に示しがつかなくなるからやめてくれ」
呆れながら座布団に正座する黒髪の青年はおそらく龍さん。
父である轟さんの彫りの深さと切れ目を少し受け継いだのか少し彫りが深くすっと通った目鼻立ちでとてもイケメンだ。父とは違い跳ねずにサラサラとしている髪はおそらく母譲り、ウルフカットのように整え後ろ毛だけ伸ばし結んでいて洋服なのもあいまってアニメから出てきたかのようだ。
「改めましてワシは葉倉 轟。この葉倉家の現当主だが…まぁ堅苦しくせず気を抜いてくれて構わないよ。こっちは龍。葉倉家が誇るイケメンだ」
微笑みながらほがらかに自己紹介をしてくれた轟さんに会釈をするとイケメンな龍さんを紹介しつつ少しふざけてくれた。そこは「葉倉家が誇る時期当主」じゃないんだな、と思い思わずくすっと笑ってしまう。
「父さん、それやめて下さい。恥ずかしいので……葉倉 龍です、宜しく思いします」
丁寧に正座したままお辞儀をする龍さんにお辞儀を返し「秋止 留です、改めまして宜しく思いします」と言う。さっきの轟さんの笑いで少し緊張が溶け、目の前のお茶を飲む。麦茶だ、しかも香ばしくてきちんと美味しい麦茶……さすが葉倉家というところか。
「今回の協力の話、とても嬉しかったです。私も突然巻き込まれてぽっと出の庶民払い屋していたので、とても助かります……」
改めて深々と頭を下げ、感謝を伝える。人づてに流れ、葉倉ならと周りから言われて手紙を出したがまさか全面的に協力してくれるとは思わず驚いたものだ。
「いやいや、大変なのは秋止さんの方でしょう。あやかし達に関わる仕事をしてる以上、秋止さんの特例が明日は我が身に起こっても不思議ではないんだから」
龍さんの言葉にそれはそう、とうなづきながらふと隣の青年を手で示す。
「所で、この青年にもその話聞かせていいんですか? 少し中学生に聞かせる内容ではない気も……」
俺がそういうと轟さんと龍さんはきょとん、とした顔になり、轟さんは豪快に笑いで龍さんは顔を背け笑いを隠した。…なんだ?
「はっはっは!! なんだまだ自己紹介してなかったのか? サクサク話が進むと思ったんだがなぁ!」
豪快に笑う轟さんに俺が「?」という顔になっていると「秋止殿、敬語はいい敬語は。今後ワシらに関わるんだからな、フランクに話そう。所でとっとと挨拶したらどうだ? 真」と、俺の隣に座る青年に話しかけた。……真? 真って、まさかと驚きながら青年を見るとふ、と青年が微笑む。
「改めまして、葉倉 真です。面白かったですよ、何も知らない貴方を案内してるのは」
……ここにて、でかい式神を仕えさせている青年の正体を知り俺は宇宙猫みたいに思考が止まる。
……葉倉 真? 葉倉家の次男の? 長男に負けず劣らず強いと言われるあの?
「……。
……?
はっ…………!!!?」




