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秋止留の霊手帳怪日記  作者: 夜野月人
1/1

出会いはまるで

「すみませ~ん、インタビューいいですかあ」

 よく晴れた何気ない昼間に、突然古めかしい黒の長羽織と真っ白なワイシャツ、雑なのか整えられたのかわからないほどの癖毛に見えてないんじゃないかと疑うほどの真っ黒なサングラスというアンバランスな衣装の男性に声をかけられてしまった。

 ……。


「ファッションセンスとは……?」


 普通に断ろうと返事をする前に僕は思わずそう呟いてしまう。あ、つい……。

「あー、これは気にしないでぇ? 好きで着てる訳でもないんだけどこの方が何かと『都合』がよくてさ」

 男性は聞こえたのか、そういって長羽織をちらりと見てから微笑む。…都合が良い、とは?

「それよりさぁここら辺で何か『変なもの』、見なかった?」

 こてんと首をかしげてくる男性に顔をしかめながら「変な宗教かオカルトマニアならお断りです」と言い本能的に数歩距離をとると男性が「あー、違う違う。変な宗教でもオカルトマニアでもヤバイおっさんでもないから」と言い口角を上げる。……笑った、のかな? サングラスが真っ黒すぎて目が見えないから表情が分かりずらい。てか僕「ヤバイおっさん」とまでは言ってない。


 ……幽霊、妖怪、神がいるかもしれないこの世界ではオカルトマニアやら変な宗教やらはそういうのが見える、祓えると嘘をつく詐欺師は多い。……そして僕 葉倉(はくら) (しん)は幽霊、妖怪などなど「そういう類い」を、本当に祓う家系に生まれた。もちろん僕もそういう類いを祓えるし封印もできるし、僕だけの式神も居る。


 式神とは、陰陽師が使役する鬼神のことで人心から起こる悪行や善行を見定める役を務めるもの。式の神または識の神ともいい、文献によっては式鬼(しき)、式鬼神ともいう……らしい。


 ゴグール検索だけどまあ大体合ってる。僕の家系は陰陽師ではないけど、まぁ……それに近いって事でいいらしい。父も母もそこら辺適当な人なので詳しくは知らないんだよね……それに、代々祓ったり封印したりしているからかそっち系の詐欺師や悪霊、悪い妖怪にも僕らみたいなのは目をつけられやすい。

 もちろん、逆もしかりでそういうのに絡まれた大半の「見えない」人間達も寄ってきやすい。変な妖怪から身を守るためにも祓い屋などの職業の人は自分だけの式神はいて損はないんだよね。


 ……今回はその詐欺師パターンかな……? と半場呆れ気味にため息をつくとその人は口角を上げてにこりと笑顔になってから僕の後ろを指差した。









「ところで君、そんなおっきい式神連れてどうしたの」









 ……もう一度言おう。僕、葉倉真は式神を「連れている」。そして、そういう類いのものは大半の人には見えない。少し素質があったりする人もいるけれど、見えるとなると話しは変わり大体人間側が偶然現象が重なり見た場合とそういう類いが脅かしや呪うために姿を見せる。

 ……今は昼間、黄昏時。「()彼時(かれとき)」とも言い日が落ちて暗くなる中、前を歩く相手の顔が見えず「あれは誰」と聞きたくなる…そういう意味から出来た言葉。朝と夜が混ざり、曖昧な時間帯。彼方と此岸の境界もあやふやになり、あやかしやらの類いも見えやすくなる…普通の人でも素質がかなりあれば僕の式神が見えても可笑しくはない。


 ……でも、何故僕の隣にいるのが人ではなく幽霊でもなく「式神」だと分かり、僕が「連れている」なんて分かるんだ?


 …いや、答えは明白か……この男、「同業者」だ。

 最初から僕が同業者と分かった上で話しかけてきていたのか……なら用件は? 仕事の手伝い? それとも葉倉家への逆恨みで僕に何かするつもりか……?

 どっちにしろ面倒くさい。同業者であるならこの男も「そういう類い」を祓える側……いい人もいるが、悪い人もいるのがこの世のお決まりっていうもので。

 僕の家である「葉倉」は昔から名だたる祓い屋一家。あの安倍晴明ほどの力はないにせよ、同業者の間では有名な名前であり……同時にそれは葉倉家のお手伝いという立場でさえも訳の分からない逆恨みをされたり嫉妬、執着をされるという事でもある。僕も葉倉家の次男、幼少期からそういう人にも沢山会ってきた。

 …この男は葉倉に取り入りたいのか、執着なのか、逆恨みか……どれだ? と頭を回しながらもいつでも逃げられるように体制を整える。

 ピリっとした空気の中、男は首をかしげ笑顔のままで何かを取り出し、刃物か何かと思い反射的に身構える。


「君、一般人でしょ。最近ここら辺物騒だし黄昏時だから早く帰った方がいい。最も、どこで付いてきたか分からないけど…そんなでっかい式神に気に入られて守られてるならいらぬ心配かもしれないな」


 …男性は微笑みながらそう言い、さっき取り出した棒つき飴を口にいれ笑った。……一般人? 誰が? …僕が?

「ほらほら、インタビューは終わり。若者は早く家に帰りなさい、あちら側のやつらに連れていかれるよ~」

 まぁ君の場合式神が守ってくれるか~と笑う男性を見ながら、僕は思わず通学カバンを落としそうになる。


 ……この人、同業者(祓い屋)のくせに葉倉家次男の顔を知らない……!!?


 葉倉は割と大きい家だ。祓い屋界隈でも有名だし、長男でない次男の僕でさえも嫉妬や嫉妬の視線は感じた。取り入ろうとする人や人ならざるものももちろん寄ってきやすい……というか、昔から運悪くそんな人達ばかり寄ってきた。なのに、この男…僕を……いや、「葉倉」を知らない?

 困惑してると、ふいに僕が居る所が陰る。何となく気配を感じ振り向くと、鯨のような形をした悪霊というべきものが空を泳ぎ僕の方へ視線をやった。……しまった、今は黄昏時。「あちら側」が活発になりだす時間帯だった!

 完全に不意を付かれ、鯨のような形の悪霊に思わず見とれ食べられる瞬間になってもなお立ち尽くしていると男性が僕を庇うように鯨の正面に立つ。



           【留まり止まれ】



 どこからか声が聞こえた瞬間、まるで魔法に掛かったように鯨の動きが完全に止まる。……な、これは……一体……!?

「ほら~、君みたいな若者はこういうのに狙われやすいんだから。気をつけなさい?」

 呆れたように僕を見て方をすくめる男性を見て、僕はようやく気付いた。鯨を止めたらしきあの声は、言葉は……この男性がやったのだと。

「な」

 何なんだこの状況は、この人、たったあの一言だけで人を食おうとした悪霊にいうことを聞かせた? ありえない、人を食う悪霊だ、たかが一言で言うことを聞くなんて…ありえない……! ……あ、そう言えば前に祖母がそれっぽい事を……。

―――――――――――――――――――――――――――――――

「いいかい真、言葉には力がある。傷つけも出来るし癒すことも、守ることもできるんだよ」

 祖母が僕にそれを教えたのは、小学三年の頃だった。

「物にも、言葉にも魂が宿る。言葉だと言霊、ものだと付喪神や式神のようにな。だから真、私達のような力あるものが無闇に力を込めて言葉を発したり願いを込めてものを作ったり使ったりしてはいけないぞ?」

 わかったか? と微笑む祖母に、よくわからないままはーいと答えた……大好きなかっこいい叔母との記憶。

―――――――――――――――――――――――――――――――

 ……なるほど、さっきのはその言霊というやつか。

 言霊…言葉に魂が宿りその通りになること。心理学では自分や他人に何かを言い聞かせることを「自己暗示」や「マインドコントロール」と言うらしいそれは、力があるものが文字通り「言葉に力を込める」だけで「言葉通りのもの」が発動する。

 範囲は機械ごしでも声が届く距離ならどこまででも。ただしそれを言った祓い屋がその言葉を制御できなければそれを聞いた人も妖怪も幽霊も全て等しく影響を受ける。


 ……つまり制御できない祓い屋がテレビを乗っ取り「死ね」と命じた場合そのテレビを見た、もしくは聞いた生きとし生けるもの全て、死ぬ。

 それだけ言霊は扱いずらい。そのため戦後くらいになって言霊を扱うのにも規制が敷かれ、今は確か自分の名前に関係のある言霊と命令しか下せないがその扱いずらさは変わらない。

 ……つまりこの人は、祓い屋の世間知らずで才能ありまくる祓い屋さん(仮)って事? ……だめだ考えれは考えるほど訳がわからなくなる……。


「所で君~、葉倉って人のお家どこかわからない? お呼ばれしたんだけど今朝から迷子でさぁ~……」

 ……男性はそういってかしかしと頭をかきながら鯨のようなものを操作しどこかへ行かせる。……葉倉…十中八九僕の家だろう。この人、僕の家に呼ばれてるくせに住人である僕を知らない…?? ダメだもう本当に訳がわからない。

「かなり豪邸らしいんだけどさぁ、俺方向音痴な上にスマホ電波入ってなくてさ」

 けら、と笑う男性に「あぁやっぱり僕の家だ」と確信すると共に「何でこの人祓い屋やれてるんだ?」と思う。


 ……ならもういっそいつ気付くか試してやろう。

「…いいですよ。僕も()()()()()()()()、案内します」

 にこりと満面の笑顔でかえすと男性は表情がぱぁっと明るくなり「助かるわぁ~♪」と声を弾ませる。

 僕は「こちらです」と笑顔で歩きながら、この人いつ気付くかな~と思いつつ自宅への帰り道を歩いていく。……なんだか、まるでこれからこの人をドッキリにあわせるような感覚だ。ワクワクしてる。

「ほんと助かったわ~、ありがとねぇ」

 嬉しそうに後をついてくる男性の前を歩き、ドッキリを仕掛けてるようでにやける顔をなんとか抑える。

 最初は話しかけてきた男性がインタビューしてきて、今度は僕がドッキリなんて…面白すぎる出会いだな。

 僕は帰り道をそわそわしながら歩き、もういっそテレビの企画なんじゃないかとすら思った。

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