01. epilogue
ミーちゃんは、僕の手の中で死んだ。
真っ白なその身体は、息を引き取って、
冷たい色だけれど、一層白く見えた。
僕が3歳の時、ミーちゃんは我が家にやって来た。
それ以来、15年。
毎日、毎日、
ミーちゃんの綺麗な毛並みと、
柔らかくて温かいその体に触りたくて、
ミーちゃんが許してくれている限り、
何度でも、何度でも、
ミーちゃんを抱いて、その頭や身体を撫でていた。
そうしてミーちゃんの身体に触れたことは、
何万回あったのか、数え切れない。
それなのに、ミーちゃんを抱く指先に、
ミーちゃんの鼓動を感じたことは、
今まで全く無かった。
今日の今まで、
ミーちゃんの鼓動を感じたことがないことを、
不思議に感じたことさえなかった。
真っ白な、とても綺麗な毛並み越しに、
ミーちゃんの鼓動を指先で感じられると、
それまで一度も、気付くことさえなかった。
弱々しく虫の息になったミーちゃんを抱いたこの時、
僕は人生で初めて、
自分の指先にミーちゃんの鼓動を感じた。
ガリガリに瘦せてしまい、
脂肪や筋肉がほとんどなくなったせいで、
ミーちゃんの鼓動が、初めて僕の指先に伝わった。
そして、僕の指先から、
その小さな、とても小さな鼓動は、
すぅーっと、途絶えてしまった。
ミーちゃんが息を引き取ったことが、
僕には分かった。
ミーちゃんは、僕を待っていた。
僕が帰宅して、直ぐに、
僕の手の中で、ミーちゃんは死んでしまった。
今際の際、
僕の手の中で、
ミーちゃんは薄目しか開けられないその瞳で、
僕を見詰め続けていた。
「あんた、帰ってくるんが遅いねん」
ミーちゃんは、薄目越しの瞳で、僕にそう伝えた。
そして、息を引き取った。
ミーちゃんは、僕の帰りを待ってくれていたのだ。
僕が帰宅し、
僕の顔を見て、
ミーちゃんは逝ってしまった。
痩せこけた姿で、もう動かなくなってしまったが、
それでもミーちゃんは、
世界で一番美しい猫のままだった。
僕は、涙が溢れ出て、止まらなくなった。
こんなに悲しいことが、
世の中には存在することを、
生まれて初めて知った。