Ⅸエルフの里
「報告します!
魔王軍の数、およそ1万!こちらに向かって、進軍しております!」
先に出陣していた斥候の報告が俺たちのいる作戦会議テントに響き渡る。
ざわざわとテント内が騒ぎ始める。
「くっ、こちらは冒険者入れてもせいぜい100がいいところだぞっ。どうやって…って、バンブーパインの皆さんは何をやっているんですか?」
「?
何って、大戦の前に、栄養補給を…」
別の席で、口いっぱいに頬張りながら、軍の指揮官への疑問に答える。
「そんな悠長な!
戦力差が100倍ほどあるのですよ!?
作戦を考えないと!」
「すでに考えてます。みんなを集めてもらえますか?」
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俺達のテントの前に冒険者、兵士と今回の大戦に参加する面々が集合する。
魔王軍の軍勢を見聞きしたのか、集められたもの達がざわざわと騒ぎ始める。
ちょっと小高いところに登り、声を発する。
「冒険者、軍人諸君!ついに決戦の刻が近づいてきた!」
俺が話し始めると、ざわざわしていた冒険者、軍人が注目し始める。
「魔族達がすぐそこまで、王都を制圧しにきている!我々はこれを食い止め王都を守る大戦だ!」
「敵の規模は?聞いた話じゃ、こちらの100倍はいるって話だろ?そんなの勝てるわけがない。」
黙っていた冒険者が話を割って発言する。
「相手の兵力だが、1万ほどだ。
ここに集まった皆の100倍ほどの兵力が敵だ。
ただ、私はここに集まった兵士、冒険者の皆皆は、一騎当千の力があると信じている!」
「1万の兵力に正面から突っ込め、というただの特攻をさせようとはしていない。一つ、私が総大将の立場を与えられてから準備していたものがある。
大魔術だ。」
大魔術と聞き、ざわざわしていた広場が静まりかえる。
「この大魔術は空から神の鉄槌を下すという大魔術だ。これで魔族の大半は滅ぼせる計算だ。数の問題はこれで解決するだろう。」
「そんな大魔術、聞いたことがねぇ!その大魔術の準備のために、先に俺たちに戦えってんだろ?ないものの準備を必死に待って、死ねってのかよ!」
「諸君らには、大魔術の終了後、残った魔族が撤退をしないようにとどめを指してもらいたい。」
「信じられるか!残る魔族が俺たちより少なくなる保証がない!結局、数が多い敵の中に正面から戦えってんだろ!やってられるか!俺は降りるぞ!」
「信じられない者はここを去っていただいて、結構だ。
ただ、これだけは伝えておきたい。魔族に滅ぼされた街のことだ。魔族がどのような存在かがあまり知られていないと思う。」
「奴らは、一言で言うと残虐そのものだ。
私は魔族に滅ぼされた街を見たことがある。
人間が作った物は無惨に破壊され、その街は事前に避難が完了していたためか、人間の犠牲者はいなかった。ただ、魔族達の話を聞く限り、そこに人間がいたら、魔族達の慰め物になり、奴隷のように扱われ、非道で残酷で凄惨で残虐で暴虐で惨憺で酷薄で邪悪で無惨で凄惨で無情で鬼畜で酷惨で断酷な殺され方をする。」
「そ、そんなの俺には関係ねぇ!」
「ああ、今回は、そうだろう。
ただ、今回の王都を手放してしまった後は?
王都近くの街が滅ぼされたあとは?次は諸君らの家族や友、大切な人たちが暮らす村や街が狙われるかもしれない。」
「ここで魔族との戦いに怯えて戦えない者は、次に魔族と対峙した時にも、戦えないだろう。
今、立ち上がらないと、大切なもの達が魔族によって蹂躙される!それを許していいのか!?」
静まりかえる広場、そこにポツポツと「それだけはダメだ」「あいつのことを守らないと!」など、自分を鼓舞する言葉が紡がれる。
「改めてにはなるが、私を信じて魔族との戦いに身を投じてくれないだろうか?」
オオオオォォォォーーー
広場からは雄叫びの如く、気合の入った返事が届くのであった。
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「うっし、ちょっと腹ごなしに運動しますか!」
そそくさと出陣の準備を終わらせ、テントから颯爽と出ていくパンブーパイン。
「自由すぎる!これだから冒険者は…!勝手に国から褒賞などっ……!」
と後にしたテントから罵声が聞こえるが、無視無視。
「よしっ!始めよう!サイカ!」
「はい!」
サイカの風魔法が俺、アリス、カンナ、イオキ、サイカの順で体を包み込む。
「イオキ頼む!」
「おうよ!」
イオキが、ドラゴンフォームへ変身。
その背中にバンブーパインの全員が乗り、羽ばたく。
「あの雲だな…」
しばらく、魔王軍が進行している方向に飛んでいると、ちょうど、魔王軍の直上に大きな雲が滞在していた。
その中に、入っていく。
「カンナ!」
「はいッス!!」
カンナは、雲の中に風に浮くような細かい砂粒を発生させる。
「アリス!」
「はい!」
アリスは雲の中に細かい水滴や氷晶を発生させ、温度を低い状態を保つ。
「よし!こっからが正念場だ!」
陽隴と霖陽に風魔法を流し、カンナの砂粒と、アリスの氷晶を衝突させるようにコントロールする。
しばらくすると、徐々に雲の中は、暗くなっていき、轟音が響き、チカッチカッと光が瞬く。
「イオキさん!ゆっくり上昇お願いするッス!」
コントロールと温度の調節に集中している俺とアリスの代わりに、イオキに指示を出すカンナ。
集中を乱さないようにじっくりと上昇し、雲から脱出する。
ゴロゴロと轟音を轟かせる雲。
ドカーーーーンッ
瞬時、光の矢が魔王軍に向かって降り注ぐ。
当たったところは燃え上がり、パニックになった魔王軍は蜘蛛の子を散らすように陣形を乱していった。
いくつもの光の矢を魔王軍に打ち込み、大軍と呼ばれた魔王軍も大量に数を減らしていった。
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「サイカ!指揮官に伝達!」
「はい!」
大魔術の発動もうまくいき、ひと段落ついたところで、冒険者、軍の兵士たちに、突撃の合図をサイカに送ってもらう。
ここからは時間の勝負だ。
雷雲が収まって、撤退からの対策されたら面倒だ。
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雷雲が収まり、撤退の隙を与えず進軍。
雷のおかげで数的有利はこちらにでき、
敵1vs味方2で戦いを挑んで魔王軍の数を減らしていく。
俺たちは徐々に撤退していく魔王軍を逃がさないよう、撤退し始めている先に向かう。。
退路の前にドラゴンフォームのイオキが降り立つと、
「な、なんだぁ!?」
突然のドラゴンの登場に驚く魔王軍。
「魔王軍幹部ドーヨ!逃がさないぞ!」
「くっ、お前らやっちまえ!!」
一際大きい魔族の指示により、残っていた魔族が俺めがけて襲ってくる。
陽隴に炎属性を
霖隴に闇属性を
ありったけの魔力を注ぎ込み正面に放つ。
襲ってきた魔族もろとも、幹部ドーヨを叩き斬る。
「な、んだと……!?」
撤退していた魔族を全てまとめて焼き切る。
一人、小さい子供の背格好をした魔族を除いて…
(しまった…)
ありったけの魔力を注ぎ込んだため、一瞬気を抜いたところに逃げ延びた魔族は認識阻害の魔法でこの場から姿を消してしまった。
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パパパーーーン!!
勝利のラッパが鳴り響く。
こうして魔王軍1万vs王国軍&冒険者100の大戦が終結した。
結果としては、王国軍&冒険者の勝利で怪我人は何人か出たが、死者は0人。
開戦前に空から光の矢が降り注ぎ、魔王軍を殲滅していった。
このことを人々は神の裁きと語り継がれる事となる………