VIII プリンセスの一日
「ん、ん〜〜〜」
大きく伸びをして、窓からの朝日を気持ちよく浴びながら目覚めた。
昨日の夜ずっと依頼をこなしていたので、本日は、休暇を取るようにとパーティメンバーに伝えた。
一応、次の日の予定を決めるため、夜の食事には全員集合する予定だ。
他メンバーは、それぞれ買い物や遊びに朝から出かけているようだった。
「俺は…どうしようかな。」
宿の食事場で朝食を摂りながら、どうやって過ごすかを考える。
「もう一眠りするか。」
特にしたいこともない上、休むよう伝えたので、一人で依頼や修行などをするわけにもいかず、悩んだ結果、体を休めることにした。
部屋に入ると背後から何者かに羽交い締めにされた。
自分の部屋だからといって、気を抜きすぎたか?
……なんだ?
徐々に意識が……
まずい…
………
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「はっ!!こ、ここは?」
意識を取り戻すと、そこは見慣れない豪華な部屋のベッドの中であった。
「あ、気づかれました?」
ベットの横から、声をかけられる
振り向くとそこには、王女殿下が座っていた。
「申し訳ありません!
ユージさんの許可なく無理矢理連れて来てしまいました……」
焦った様子で、頭を下げながら謝罪する王女殿下。
何か王族に対して失礼な態度をとってしまったかと恐縮してしまったが、どうやらこちらの不手際ではないらしい。
「王女殿下……ここはどこなのですか?」
「ここは、私が内密な視察する時に使う宿になります。
今回はユージさんに少々お願いがあって、お呼びしました。」
「は、はぁ…」
王都にこんな豪華な宿があったとは驚きだったが、
王城ではなく、宿ということは、公に出来ない依頼か?断ることも視野に入れないと…
「わ、私と一緒にお出かけしていただけませんか!?」
ん、んんん?お出掛け?俺と姫様が?なんで???
何故か、顔を赤くしながら、俯いて返事を待っている王女殿下。
「ご、ご迷惑でしたでしょうか?」
返答に困っていると、残念な顔で、聞き返して来る。王女殿下。
(ああ、今回は王女回なのね。)
「い、いえ。少々、理解できなく言葉に詰まってしまいました!それで、お出かけとは?」
「実は、月に一度、内密に街の様子を視察しているのです。それで、今回、ユージさんにも一緒に視察について来ていただけないかなぁ…なんて……」
(なんだ?このかわいい生物は?こんなお願いされて断る男がいるのか!?
いいや、いない!!)
「この不肖ユージ、粉骨砕身、姫様の視察にご同行させていただきます。」
そう答えると、王女殿下はパッと満面の笑顔になる。
内密の視察ということは、兵士と一緒に回ることはできないだろうし、王女殿下の護衛の依頼ということかな。
と、あまり深く考えず、依頼を受ける。
「でも普段の視察では護衛はどうしてるんですか?」
「ほ、ほほほ本日は、た、たたたた体調を崩されてしまって、
急遽、来れないことになりまして……」
何故か気まずそうに喋る王女殿下。
自分もあまり街を見回ることもなかったし、いい機会かな。
「それでは、早速出発しましょうか!」
「承知です。」
「あ」
部屋から出ようと、扉の取手を手にかけるところで、王女殿下は元気に振り向いた。
「内密な視察なので、私の名前はカスミと呼んでください。あと、敬語もなしでお願いしますね!」
そう言いつつ、可愛らしい笑顔で、部屋を出るのであった。
今日は、何かと大変そうだ。
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街に出かけると、いろんなことに興味を持つカスミに引っ張られながら、市場での買い物や劇場での観劇など、王都に拠点を置いていたが、体験したことがない事ばかりで、新鮮で護衛の依頼と忘れて楽しんでいた。
「うわあああん、おかぁさんどこーー?」
一息つき、外のテラスでお茶を飲んでいると、
近場で子供が泣いているのを見つける。
「おー、どうした?お母さん見つからないのか?」
なるべく優しく、子供を不安にさせないように声をかける。
「ゔ、ゔん。」
「よし、一緒にお母さん探そうか!」
「ぅん。」
子供を安心させるために手を繋ぐ。
「カスミ!ごめん。この子の親御さん探して来る。依頼を途中で投げ出すのはアレだけど…」
カスミの目的とは別になると思い、別々の行動を提案しようとすると、カスミはもう片方の子供の手を繋ぐ。
「領民が困ってるんですよ。私にも助けさせてください。」
そう言いつつ、迷子の親探しを手伝うことを了承してくれる。
「よし、そうと決まれば!」
子供を抱え上げ、肩車する。
「きゃ。」
「そこまで背が高いわけじゃないけど、この方が親御さんも見つけやすいだろ?」
突然の出来事にカスミが驚いたので、説明をしつつ、子供にも語りかける。
「お母さんと一緒にどこのお店に行ったかわかる?」
「あっち…」
肩車に乗った子供が、指を指す方に歩いて行く。
お菓子屋、服屋、露店など、子供の指差す方に次々と向かう。
途中、泣き出しそうな子供に色々と買い与え、気を逸らしながら行く店行く店に子供の親御さんのことを聞きながら、回って行く。
しかし、なかなか見つからない。
「うぐ、おかぁさぁん……」
頭の上でまた子供が泣き出しそうになる。
すると、
「ダニエルー、どこ?どこいったのー?」
遠くから、誰かを探す声が聞こえた。
「お母さん!」
子供がその声に反応するのを聞き、その声の元へ。
無事、再会を果たした親子に何度もお礼を言われながら見送った。
「あ、カスミ!時間大丈夫?」
気がつくと、すでに日が暮れて人通りも少なくなって来ていた。
「そうですね…少々寂しいですが…
最後に、宿までお願いしてもいいですか?」
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帰りの道中も色々と話をしながらも、気づくと朝の宿に到着していた。
別れを告げるタイミングで、王女殿下が声を掛けてくる。
「あ、あの!」
モジモジと言い淀むカスミ
「?」
「また、私とお出かけしていただけませんか?」
「僕でよければ!」
「わ、私、実は……」
(なんか、告白されそうな空気……
告白されたことないけど…でもこういう時って…)
「ユージさーん。やっと見つけました!」
(まぁ、ですよねー。)
後ろから、アリスの声が聞こえる。
振り向くと、アリス、カンナ、イオキ、サイカの全員が揃って、僕を待っていた。
「じゃあ、そろそろ行くね!」
「あ、そうだ。」
僕は、再度カスミの方に振り向き、
手を引き、ネックレスを渡す。
「今日は楽しかったです!
姫様はもっといいものたくさん持ってそうですが、今日の思い出として受け取ってください!」
渡したネックレスは、迷子の子供の親御さん探しの時に、露店を巡った時に、カスミがずっと見ていたネックレスだった。
形がちょっと俺がつけてるネックレスに似てると思うのは、自意識過剰かな。
「もう、ずるいですよ…」
小声過ぎて、よく聞き取れなかったが、
そのネックレスを胸に抱きしめ、満足な表情をしていた。
その表情を見つつ、アリスたちの元へと向かった。