Ⅳフェアリー
「先日ぶりであるな、ユージよ。最近はパーティでなかなか成果を上げているようだな。」
「国王陛下のお耳に届いているとは、恐縮です。」
先日会った時より、なんか厳しい目を向けられている気がするんですが…
「して、ユージよ。其方は、魔王軍のことには詳しいか?」
「恥ずかしながら、そこまで詳しくはないです。」
「ここから東にある魔族領レクス、魔族たちは、周辺の街を制圧し、徐々に勢力を拡大していっておる。
特に今問題なのは、魔王幹部のドーヨ。
こいつが先遣隊として、周囲の街を制圧していっている。
ドーヨについては、先日お主も知っている「クジ」に討伐依頼を出させてもらった。」
先日会ったので、知ってはいるけども…
王からの依頼だったのか…
「しかし、斥候からの連絡だと、また別の幹部も動き出しているらしい…」
ん?この流れ、、、ちょっと、話の雲行きが怪しいぞ??
「レクスから少し離れた鉱山地帯に魔王軍幹部・リバストンの軍が進行していると情報が入った。お主たちには、周囲の街と協力しつつ、魔王軍の妨害と、可能であれば討伐を頼みたい。」
「陛下!自分たちはまだまだ未熟な出来立てのパーティです。そのパーティに魔王軍幹部の依頼は荷が重すぎます。自分たちよりもっと適切なパーティがいるのではないでしょうか?」
「実は名のある冒険者達は皆、ドーヨ討伐に参加している。また、今回の鉱山問題はまだ公に出回っていない情報だ。魔王軍幹部が動いているとなると、近隣国から援助をしてもらう必要もある。
そこでお主に渡したものがあるだろう?」
渡したもの?
まさか!
ふと、先日ギルド長からもらった謁見手形を取り出す。
「その手形は、シェーブルの王族が認めた証としても広まっている。その手形は発行するのにもそれなりに時間がかかる。そこで既に手形を持っているお主のパーティにこの重要任務を頼みたい。」
「……」
なるほど…。はめられた、、、
でも、まだアリスたちに魔王軍幹部は早すぎる…
どうする?ここで断ると後々面倒ごとになりそうだし……
よし、少し妨害だけして、救援を呼ぼう。
幹部との鉢合わせは絶対に不味い。
「承知しました。ただ、一つお願いをしても良いでしょうか?」
「ほう、申してみよ。」
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ユージ達が立ち寄ったのは、高温の空気と鉄と鉄がぶつかり音が響く、鍛冶屋の工房であった。
「ここがあの有名な鍛治師・カリマサの工房ッスか!?」
やはりドワーフ、カンナは工房に入るなり、目をキラキラ輝かせ、周りを見回している。
「カンナ!迷子になるなよー。」
ふらふらとどこかにいってしまいそうなカンナに一声かけながら、工房長らしき人に声をかける。
「すみません。武器の作成をお願いしたいのですが……」
そう言いつつ、謁見手形を見せる。
「あぁ、王から紹介ってのはお前らか。」
そこには、カンナとはまた違った、いかにもドワーフというような、背丈が低く、ただ筋肉はしっかりとついている、いかついおじさんが佇んでいた。
「カリマサだ。
王からの依頼で費用も王城持ちだったな。
どんな武器を作ればいいんだ?」
「僕からは二振り一対の剣を」
「私からは長距離用の弓と、魔法矢をお願いします。」
「ハンマー!カリマサ印のハンマーが欲しいッス!!」
三者三様に他の要望をカリマサに伝える。
「双剣に、弓、魔法矢に、ハンマー…
おい、材料は足りるか!?」
そう言いつつ、後ろに佇んでいた部下に確認を取る。
「なんとか足りるかと!!」
そう返事が返ってきて、ホッと胸を撫で下ろす。
「やっぱり、鉱山の影響で?」
「あぁ、上質の鉱物が取れる鉱山は今のところ、
ミカミだけだからな。
魔族共め、戦争でも始めるんじゃねぇだろうな…
うちは、まだ在庫があるからいいが、小さい鍛冶屋なんかは在庫がすっからかんで、商売にならねぇって聞いてる。うちの在庫を分けてやってるが…」
「にいちゃん達が、鉱山奪還のために動いてくれるんだろ?武器は今できる最高のものを用意する。
だから、頼むぜ。」
7日後には武器を仕上げるとの事で、僕たちは工房を後にした。
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僕たちは最後の調整として、任務をいくつかこなし、武器ができる7日間を過ごし、再びカリマサさんの工房に訪れていた。
「待たせたな。こっちに来てくれ。」
そう言いながら、工房の奥に案内される僕たち。
工房の奥は、武器の調整用なのか、試し切り、試し打ちが出来るほどの広さがある部屋になっていた。
「まずはエルフの嬢ちゃんからだ。」
そう言いつつ、縦に長い場所の手前に置かれた台に向かうカリマサ。
「これ、弓…ですか?」
アリスが見た台には、ガントレットのような弓には見えないものが置いてあった。
「こいつは折りたたみ式の弓でな。
所有者の魔力を流すと、開く仕組みになっておる。」
「アリスさん専用の武器ッスか!?
いいなぁ〜!!」
「弓の持ち運びや、狭いところでも使えるようにとの要望だったからな。魔力を登録したら使い方を説明する。」
その後、魔力の登録もすぐに終わり、早速試し撃ちが始まる。
「弓自体に魔力を送る事で、展開する幅を調整できる。小さく送るとハーフ、多く送るとロング、その間ぐらいでショートとその場その場で変形できる弓だ。」
おおおお!変形!いいなぁ〜。
と、カリマサの説明を聞きながら、ロマンある武器に感激していた。
そうしているうちに、魔法矢などの矢を受け取り、
それぞれの変形を試して、アリスが戻ってくる。
「変形自在の弓。転化弓・月華!」
「転化弓・月華……」
「さぁ、次行くぞ。」
「ハイハイ!次、ウチのがいいッス!!」
「わかったわかった。そうせかすな。」
次のカンナの武器があるところに向かう。
「おおお!カリマサ印のハンマー!すごいッス!
どんな機能が!?」
テンションが上がっているカンナにカリマサから説明が入る。
「つかの部分にいくつかスイッチがあるだろ?
そのスイッチを押しながら、魔力を流すとそれぞれ対応した箇所から流した魔力が吹き出す。」
「????」
魔力が吹き出すだけ?
「そうか!」
カンナが何か勘付いたのか声を上げる。
「これで、攻撃後の隙をなくせるんッスね!」
「それだけじゃねぇ。ハンマーの間合いにはいられて、鍔迫り合いになっても、こいつがありゃあ、隙ついて再度こっちの間合いに離せるってことよ!」
「ハンマーの隙と起動力、単純な攻撃力アップ!
すごいッス!!」
「ブーストハンマー、剛嵐
少しここで試してみるといい。」
「ありがとうッス!!」
そう言いつつ、早速、剛嵐を早速手に取り、試行錯誤を開始する。
「さぁ、最後にお前さんの武器だな。」
カンナが何をしでかすかわからなかったので、
アリスにカンナを見てもらいつつ、自分の武器を確認しに行く。
「こいつがお前さんの武器だ。」
そう紹介された台の上には、2本の短剣が置かれていた。
1本はショートサイズの長さ。
もう一本はちょっと長いダガーほどのサイズ。
「長い方は、陽朧。
短い方は、霖朧。
魔力をよく通す金属で作られている分、武器に魔法を纏うことができる。
強度も今できる最高の仕上がりだ。
お前さんの魔力でも壊れないと思うぞ。」
「注文通り、戦術に応用が効くようにギミックは何も入れなかったが、よかったのか?」
「大丈夫です!いくつか試してみたいことがあるので、下手にギミックつけるとそれが邪魔になりそうなので!」
そう言いつつ、ひとまず仕上がりの確認をしたくてうずうずしている自分に気づく。
「ちょっと試し切りさせてもらってもいいですか?」
「ああ、気になったところがあったらすぐ調整するから、細かいことでも言ってくれ。」
試し切り用の金属で出来た人形に向かって斬りかかる。
炎の魔力を剣に乗せると、抵抗力が全くなくスパッと人形が二つになった。
「「・・・」」
あまりの切れ味に僕だけでなく、カリマサも唖然としていた。
(すごいな…これ…)
ちょっと楽しくなり、色々と魔法を纏わせて人形に切りかかった。
パーティの武器も揃ったので、いよいよ魔王軍幹部の元へ向かう……
戦力も増強したけど、調子に乗らずに慎重に行動しよう……
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武器の調整も完了し、いよいよ魔王軍幹部の調査に出発する。
鉱山は、ここから妖精が出るという噂のミナミの大森林を抜けて、竜人族が住まう渓谷を渡った先にある。
道中、別の任務をこなしながら、それぞれ武器の扱いを学び、ミナミの大森林へと足を踏み入れた。
しばらく進むがなかなか森を抜けられない。
「ちょっと待ってくれ。この道、さっきも通ってる。」
「なんでわかるの?」
「違和感があって、あそこの池の手前に目印を付けておいたんだ。」
そう言いつつ、池の手前に、道中に余分に狩った魔物から剥ぎ取った皮を指差す。
「これじゃあ鉱山まで進めないッス!」
「もう一度、今度はただ真っ直ぐに進んでみよう。」
再度森を進んでみる。
するとまたしても同じ目印が置いてある池に突き当たる。
「う〜、なんなんスかこの森!」
「意図的に迷わされている可能性がある。
二人とも、周囲に警戒を怠らないように。魔王軍の仕業かも知れない。」
「「はい(ッス)!」」
しばらく警戒し、辺りを見回してみるが、襲ってくる気配はない。
「………ふぅ。」
そう一息つき、野営の準備を進める。
「ユージさん!?何してるんですか?」
「野営の準備。」
「え?警戒は?どうするんスか?」
「こちらが気づいたのに手を出してこないってことは、多分警戒をといた所で襲ってくるんだと思う。」
「それなら警戒を解かない方が良いんじゃ…」
「ずっと警戒し続けることは出来ないし、朝から動きっぱなしだろ?襲ってこないうちに少しでも休んでおかないと。ただ、戦闘にすぐ入れるようにだけはしておくこと。」
渋々、野営の準備を手伝い始める二人。
しばらく時間が経ち、日も落ち始めたため、食事に入る3人。
まずい携帯食料を食べながら話をしていると、
突如、池の方からドサッと音が鳴る。
僕たち3人は音が鳴った方へと顔を向ける。
先ほどまでは無かった本が出現していた。
「なんでこんなところに果物が??」
「果物?本じゃなくて??」
「え?とっても美味しそうな果物に見えるけど…」
「カンナは?」
「ウ、ウチには、美味しそうな肉料理に…」
ジュルリと涎を垂らすカンナに待ったをかける。
(全員見えているものが違う!?)
「罠かも知れない!警戒態勢!」
その一言に、気を引き締め直すアリス達。
「ふーん、欲望に負けない理性もありっと。」
しばらく警戒態勢をとっていると、
本の後ろの湖から声が発せられる。
その後、突然湖の一部が光り輝いた。
「うん。合格!私たち妖精の助けになる事を許可するわ!」
そう言いながら、小人サイズで羽の生えた、俗にいう妖精が胸を張りながら登場した。