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「バンブーパインの皆さん!いらっしゃいますか!?」
エルフの里から帰還後、何日か依頼を受けながら経過したある日、拠点にしている宿屋に突然ギルドの受付嬢が訪ねてきた。
「どうしたんですか?そんなに慌てて。」
「魔王軍幹部ドーヨが進軍を始めました!
至急、各パーティに召集命令が出ています!」
「「ドーヨって確か…」」
「イオキ達には向かいながら説明する!今はすぐに出れる準備をしてくれ!」
「「「「(おう)はい(ッス)」」」」
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魔王軍幹部のドーヨの説明、
以前ギルドでのドーヨ討伐が失敗していたことを
サイカ、イオキに説明しながらギルドに到着。
ギルド内では、何やら言い争いが起こっていた。
「前回戦ってる俺が指揮をとった方が効率がいいだろうが!」
と、クジのリーダー、デントが怒鳴っていた。
「前回、失敗したんだろう?
しかもお前ら以外、協力したパーティは今も動けないらしいじゃねぇか。
そんなやつに命は預けられねぇよ。」
と、どうやら、今回のドーヨの件で、誰が指揮を取るのかを言い争っているようだった。
「同じ幹部を倒した主人様が指揮をとった方が良いだろうよ。いっちょ参戦してくるか!」
「イオキ、いいよ。
別に誰がなろうが、興味ない。
与えられた役割を淡々とこなすだけだよ。」
(やばい、非常に嫌な流れを感じる…)
腕まくりしながら、デントの言い争いに参加しようとするイオキを止め、召集したメンバーが揃うのを待った。
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「召集に応じてくれて感謝する。
今回は、非常事態だ。集まってくれたパーティ全員参加の依頼を出させてもらう。」
ざわざわとその場に集まったパーティが喋り出す。
「依頼の内容だが、
噂で聞いているものも多いと思う。
魔王軍幹部ドーヨがこの街に向かって進軍している。
その討伐が今回の依頼だ!」
ざわざわがさらに大きくなる。
「今回の指揮を取る総大将だが……」
その言葉が発せられると、あたりが急に静かになった。
(はぁ…)
大きくため息をつく。
「バンブーパインのリーダー、ユージに依頼しようと思う。」
(まぁ、そうなりますよね!)
こちらを見ながら、発表するギルド長。
それに釣られて、他のパーティもこちらを見る。
「いやいやいや、俺より適任なんて沢山いただろうよ!なんで!?」
と、とりあえずは物申してみた。
するとギルド長の目の前から
「なんでそいつなんだよ!」
叫んだのは、デントだった。
「そいつは魔力適正もなくて、サポートしか出来なくて、お荷物なんだぞ!」
「しかも、作って間もないパーティのリーダーがこの大戦の指揮を取るだぁ?俺だったら、そんなやつに命は預けられねぇなー。」
「ギルド長。そんなやつより、このクジのリーダーの俺がやってやるよ!実績もあって、指揮の経験だってある。俺が総大将の方が相応しいだろ?」
捲し立てるデント。
「実績か…。
確かにユージはパーティを作って間もないし、実績の数も少ない。」
「だったら…」
「しかし、その作って間もないパーティで、同じ幹部のリバストンを打ち倒している。
その実績だけでは、足りないかね?」
驚きの実績だったのか、周りがざわざわと騒ぎ出した。
「そんなのただのまぐれかもしれないだろ!?
俺たちクジの方が実績も経験もあるんだから、
総大将に相応しいだろ?」
「相応しい…か…
そのユージが抜けてから、クジの依頼達成率が落ちていることは気づいているか?」
「そ、そんなこと…」
「パーティの方針だから、口は出さなかったが、今回は別だ。はっきり言わせてもらう。」
一拍置いた後、ギルド長が口を開く。
「お前のパーティは個々の力に頼りすぎてる。
パーティの橋渡し役がいないし、お前自身もリーダーとして他のメンバーのことを気にかけることもない。
ユージがいた時は、その役割をユージがやっていたから、問題なかったが…。
ユージ脱退後は、パーティで依頼をこなしているというより、個人個人で依頼の対応をしている感じだった。
そのため、一人で対応できないちょっと難しい依頼になると途端に失敗続き。
少しは反省して、自分達のことを見直すと思ったら、自分のせいじゃないと責任転嫁の言い争い。
それをギルドの酒場でやるもんだから、最強パーティからただのわがまま集団に、成り果てたって噂されんだよ。
そんなやつに街の住人の命は預けられねぇよ。」
「っ……!
そんなの、あいつらが悪いんだ!
俺のいう通りに出来ないあいつらのせいだろ!?
俺の責任じゃねぇ!!」
さっきまでざわざわしていたギルドがデントの言葉を聞いて、静まり返った。
各冒険者から、視線を受けるデント。
「………っっっ!
勝手にしろ!俺は参加しねぇよ!
俺がいねぇことに後悔するんだな!」
そう捨て台詞を吐いてギルドから出て行くデント。
「……
他、反対意見があるものはいるか?」
沈黙が流れるギルド。
「いないようだな。
では、今回の総大将から一言でももらおうか。」
この空気を切り替えたいのか、話を俺の方に振ってくるギルド長。
全く。やってくれる……
ギルド長がいる、ちょっと上がったところに登る。
「あー、先ほど紹介に預かったバンブーパインのユージです。
先ほどのやり取りからもあったように、まだ新規パーティのリーダーなので、至らないところも多いかと思います。」
一拍置いて、改めて口を開く。
「しかし、この街を守るため、自分ができることを精一杯やりたいと思います!
そのために、ここに集まった冒険者さん達が何をやれるのか、何が得意なのか教えていただけないでしょうか?」
少々ざわめきが起こる。
「相手は魔王軍幹部です。
向こうは統率をとって進軍してくる軍隊だと思われます。
そのためにはこちらも力を合わせて、それに対応して行く必要があります!
力の合わせ方は、僕の方で考えます。
どうか力を貸してください!一緒にこの街を守ってください。お願いします!!」
そう頭を下げる。
隣から、手を叩く音がする。
多分ギルド長だろう。
そのギルド長に釣られてか、ギルド全体に拍手が鳴り響いた。
その後は、急ぎ各パーティとの情報交換。
作戦立案など、魔王軍幹部ドーヨ討伐に向けて、準備に入って行った。
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ドーヨの進軍が王都に近づくギリギリのところで準備が整い、出陣しようとしたところで、王城から呼び出しがかかる。
「おお、ユージよ。
忙しいところすまんな。」
「いえ、大丈夫です。」
正直のところ、早く出立したかったが、しょうがない。
「して、ドーヨ討伐の準備はどうじゃ。」
「はっ、準備は整っているのですが、魔王軍にどれだけ通用するか…というところです。」
「そなたは同じ幹部のリバストンを破っている。
今回も期待しておるぞ。」
「はっ。」
「我が軍も出陣するため、何か助けが必要な時は言ってくれ。」
「承知しました。」
「急な呼び出し、すまなかったな。
どうかこの街を頼む。」
「はい。」
国王の謁見も終わり、王室を出て行こうとする。
「ユージさん、どうかお気をつけて。」
姫様からもお声がけしていただき、その場を後にする。