02ー2 シチューにカツ
郵便受箱から取り出した茶封筒を持って、自宅まで戻ってくると、改めて見返してみる。
「霧崎――朱? いや? 朱か?」
『知っているのか相棒!?』
「いいえ、知らない名前ですね。郵便受箱に茶封筒が入っていまして、氏名らしきものだけが書いてありました。朱色の朱って名前的に朱と、朱どちらだと思いますか?」
『そんなものは好きに呼んだらいいだろう。ルビを振らなかった奴が悪い。とりあえず、朱ということにしておけ。それよりも肝心なのはその茶封筒とやらだろう』
「確かに。それもそうですね」
『で、他に気になることはないのか? 貴重な手掛かりになるかもしれんのだぞ、詳細に調べていけ』
れもんさんのいう通りである。
今は些細な手掛かりさえ、喉から手が出るほどに欲しいのだ。
「茶封筒の表面には、何も手は加えられていませんね。切手も貼られていませんでした。裏面にはボールペンらしきもので、霧崎朱とだけ書かれています。他に気になるところは、特にはありません」
『切手が貼られていないというのであれば、少なくとも郵便配送されたものではないな。何者かが直接投函したに違いないだろう』
「つまり、霧崎朱は、僕の住所を知っているという訳ですね」
『だろうな。交流関係が狭そうな相棒なら、相手を絞り込むことも、容易く出来るんじゃないかね?』
「――狭そうなって、勝手に決めつけないでくださいよ! ……確かに、多い方ではないですけど」
『――まあ、そんなことよりだ。重要なのは中身であろうよ。さっさと確認してみようではないか』
「……そんなことって。――今、開けますから待ってて下さい」
ここで口論を行っても先に進まなそうなので、渋々喉まで出かかった言葉を飲み込むことにした。
ハサミを取り出して封を切り取ると、中身をテーブルに取り出してみた。同封されていたのは、主に3つである。
1つは写真である。
その写真には暗赤色の丸い石が写っている。
1つは地図である。
空木市周辺を取り上げて載せてある簡略した地図だ。
1つは手紙である。
二つ折りにされた便箋に、文字が書き綴られている。
「中身は、写真と地図と手紙らしきものでした」
『ほう。して、それぞれに気になることは何かあるかね?』
テーブルに取り出したものを一つ一つ手に取って、よく観察してみる。
「ますば写真ですが、これは先程ニュースで観た盗品であろう展示品の写真だと思います」
『それは、相棒が持っている赤い石ということで間違いないだろうか?』
「……はい。間違いないと思います」
『となると、その赤い石とやらが、この話の鍵となるのは明白であろうな。他はどうだ?』
折り畳まれた地図をテーブルに広げて、何か気になる点がないか探してみる。
「地図ですが、自宅のある空木市周辺の簡略した地図ですね。✕印が路地裏に付けられています」
『そいつは意図的であるな。残りは手紙らしきものとやらだが、何が書かれているのかね?』
「はい。その手紙の内容を、今から読み上げますね」
書かれた内容を再度確認するかのように、ゆっくりと読み上げる。
【奴らに捕まれば全てが終わりだ! 今すぐにその場から離れろ! 例のブツを持って、印の場所にて落ち合おう】
『んー、こりゃあアレだな。共犯者の手引き書だわ。他に事件に関与しているヤツがいるに違いあるまい。一応聞いておくが、身に覚えは?』
「ありません!!」
力一杯の言葉で断言してみせた。
『だよな。でもこれはチャンスだとは思わないかね?』
「チャンスですか?」
『ああ、わざわざ核心の方から手招いてくれているんだ。その手を掴みに行くしかないだろうさ』
他に手掛かりかない現状を考えれば、確かにそうではある。だが、不安が無い訳ではない。
「――罠ということはないでしょうか?」
『作為を感じるのはいうまでもあるまい。だが、今はシチューにカツを求める行動こそが、マンネリを打破する手立てになるに違いないだろう。カツにはカレーといったセオリーをぶち破るのと、そう変わりはしないさ』
「あのー、もしかして。食べ物の話をしてます?」
『いやな、明日の献立にシチューにカツといった冒険をするのもアリだなと思ったまでよ。どうだ、相棒も明日は一緒にシチューにカツと洒落込もうではないかね!』
「――その為にも、まずはこの問題を解決しないとですね」
二の足を踏んではいられない。現状を変えてやるんだ。
改めて決心を固めると、✕印が付いた目的地である路地裏に向けて、自宅を後にした。




