表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/33

02ー2 シチューにカツ

 郵便受箱から取り出した茶封筒を持って、自宅まで戻ってくると、改めて見返してみる。


霧崎きりさき――しゅう? いや? あかか?」


『知っているのか相棒!?』


「いいえ、知らない名前ですね。郵便受箱に茶封筒が入っていまして、氏名らしきものだけが書いてありました。朱色の朱って名前的にしゅうと、あかどちらだと思いますか?」


『そんなものは好きに呼んだらいいだろう。ルビを振らなかった奴が悪い。とりあえず、しゅうということにしておけ。それよりも肝心なのはその茶封筒とやらだろう』


「確かに。それもそうですね」


『で、他に気になることはないのか? 貴重な手掛かりになるかもしれんのだぞ、詳細に調べていけ』


 れもんさんのいう通りである。

 今は些細な手掛かりさえ、喉から手が出るほどに欲しいのだ。


「茶封筒の表面には、何も手は加えられていませんね。切手も貼られていませんでした。裏面にはボールペンらしきもので、霧崎朱きりさきしゅうとだけ書かれています。他に気になるところは、特にはありません」


『切手が貼られていないというのであれば、少なくとも郵便配送されたものではないな。何者かが直接投函したに違いないだろう』


「つまり、霧崎朱きりさきしゅうは、僕の住所を知っているという訳ですね」


『だろうな。交流関係が狭そうな相棒なら、相手を絞り込むことも、容易く出来るんじゃないかね?』


「――狭そうなって、勝手に決めつけないでくださいよ! ……確かに、多い方ではないですけど」


『――まあ、そんなことよりだ。重要なのは中身であろうよ。さっさと確認してみようではないか』


「……そんなことって。――今、開けますから待ってて下さい」


 ここで口論を行っても先に進まなそうなので、渋々喉まで出かかった言葉を飲み込むことにした。


 ハサミを取り出して封を切り取ると、中身をテーブルに取り出してみた。同封されていたのは、主に3つである。


 1つは写真である。

 その写真には暗赤色の丸い石が写っている。


 1つは地図である。

 空木うつぎ市周辺を取り上げて載せてある簡略した地図だ。


 1つは手紙である。

 二つ折りにされた便箋に、文字が書き綴られている。

 

「中身は、写真と地図と手紙らしきものでした」


『ほう。して、それぞれに気になることは何かあるかね?』


 テーブルに取り出したものを一つ一つ手に取って、よく観察してみる。


「ますば写真ですが、これは先程ニュースで観た盗品であろう展示品の写真だと思います」


『それは、相棒が持っている赤い石ということで間違いないだろうか?』


「……はい。間違いないと思います」


『となると、その赤い石とやらが、この話の鍵となるのは明白であろうな。他はどうだ?』


 折り畳まれた地図をテーブルに広げて、何か気になる点がないか探してみる。


「地図ですが、自宅のある空木市周辺の簡略した地図ですね。✕印が路地裏に付けられています」


『そいつは意図的であるな。残りは手紙らしきものとやらだが、何が書かれているのかね?』


「はい。その手紙の内容を、今から読み上げますね」


 書かれた内容を再度確認するかのように、ゆっくりと読み上げる。


【奴らに捕まれば全てが終わりだ! 今すぐにその場から離れろ! 例のブツを持って、印の場所にて落ち合おう】


『んー、こりゃあアレだな。共犯者の手引き書だわ。他に事件に関与しているヤツがいるに違いあるまい。一応聞いておくが、身に覚えは?』


「ありません!!」


 力一杯の言葉で断言してみせた。


『だよな。でもこれはチャンスだとは思わないかね?』


「チャンスですか?」


『ああ、わざわざ核心の方から手招いてくれているんだ。その手を掴みに行くしかないだろうさ』


 他に手掛かりかない現状を考えれば、確かにそうではある。だが、不安が無い訳ではない。


「――罠ということはないでしょうか?」


『作為を感じるのはいうまでもあるまい。だが、今はシチューにカツを求める行動こそが、マンネリを打破する手立てになるに違いないだろう。カツにはカレーといったセオリーをぶち破るのと、そう変わりはしないさ』


「あのー、もしかして。食べ物の話をしてます?」


『いやな、明日の献立にシチューにカツといった冒険をするのもアリだなと思ったまでよ。どうだ、相棒も明日は一緒にシチューにカツと洒落込もうではないかね!』


「――その為にも、まずはこの問題を解決しないとですね」


 二の足を踏んではいられない。現状を変えてやるんだ。

 

 改めて決心を固めると、✕印が付いた目的地である路地裏に向けて、自宅を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ