表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/33

01ー2 見知った天井

『な、なんだってー!?』


 わざとらしく驚いてみせた声が、スピーカーを通して聞こえてきた。


「あのー、まだ何も話してませんけど。一体何してるんですか?」


『リハーサルだよ、リハーサル。聞く側にだって、事前の準備が必要だとは思わないかね?』


「……はあ。そうですか」


 れもんさんのイマイチ掴み所の無いやり取りは、言説の主導権がこちらにあるのにも関わらず、相手の強烈なノリのせいで、無理矢理押し流されてしまっていた。

 

 ――このままでは埒が明かない。


「そろそろ、話をしてもいいですかね?」


 意を決したように声を上げて、こちらの意図を示した。


『どんとこい超常現象!』


「分かりました。では、――お話しします」


 一旦深呼吸するように息を整え、緊張感を持って言葉を放つ。


白河流星しらかわりゅうせいは、○月31日、午後12時1分、二人組の警察官に自宅にで取り押さえられ、警察署に連行されます」


『――何、……。だと……?』


 一拍の間を置いた後、驚きの混じった声が聞こえてくる。


「リハーサルの意味、ありませんでしたね」


『――つまり……、アレかな? コレは、もしもしポリスメン案件てな訳かい?』


「誓って犯罪には手を出していません! 本当です! 信じて下さい!」


 相手の言葉を打ち消すように、食い気味で強い言葉をもって訴える。


『ああ、もちろん信じているとも。泥酔状態の人の言う「全然酔ってませんよ」ぐらい信じてるさ』


「――それ、ほぼ信じてもらえてませんよね?」


『まあ、こんなことを言うのは犯罪教唆になるかもしれないだろうが、逃げたりなどは考えなかったのかい?』


「もちろん考えましたよ。――実際に、何度も、何度も、何度も試みました。でも、決して逃げることは出来ないんです……。もう、何が何だが、僕にも分からないんです……」


『――ん? いや待ちたまえ。なにか妙じゃないか? さっきから相棒の発言は、結論が出たものばかりだ。これではまるで、起こり得る未来を知っているかのようではないか?』


「――はい。知っています。――何度も体験してきたんです。この終わらない一日を、ずっと繰り返してきましたから」


 力無く、脱力するような声は、疲れ切った僕の現状を表しているように、徐々に小さくなっていった。


『――ははっ、驚かすなよ。私は気が小さいんだ』


 冗談めいた言葉であしらわれてしまった。どうやら信じてもらえてはいないようである。当然だ。こんな話を急に聞かされても、僕だって信じないし、信じたくもないだろう。

 

 とはいえ、どうにかして、信じてもらわなければならないのだ。

 

 ――僕なら、どうすれば信じられるだろうか?

 

「では、こうしましょう。――実際に僕が言った、午後12時1分に、二人組の警察官が自宅に訪れれば、この話を信じてはくれませんか?」


 少なくとも、発言の本意を示すことぐらいは出来るかもしれない。

 今の僕に出来ることは、精々これぐらいだろう。


『――それが事実なのだとしたなら、少なくとも酔狂な戯言の類ではないと信じ、今までの話をまるッと聞き入れようではないか』


「約束しましたよ」


 その後は、ただただその時が来るまで、じっとソファーで祈っていた。

 1秒が、1分が、まるで引き延ばされた生地のように薄く伸びていくようであった。

 だが、それはあくまで感覚の話であり、実際には正確に、確実に時は進んでいる。


──────


 ○月31日 (休日・午後12時)

 

 スマートフォンの画面が、無慈悲にも、約束の時刻の直前を知らせてくれる。


「――時間です。間も無くチャイムが鳴る音が聞こえる筈です」


『まさに、今際の際といったやつだな』


「はい。今回はこれでさよならです」


『おいおい、別れ際にさよならなんて、悲しいこと言うなよ相棒。この話が本当ならば、また会えるさ。そうだろ?』


「――そうですね。その通りです」


 スマートフォンに映し出されるデジタルの時間表記が0から1に変わった瞬間。


 部屋には、終わりを告げるチャイムの音が鳴り響いた。


 僕は意を決して、玄関まで足を運んでいく。

 

 後は、スマートフォン越しから聞こえてくるやり取りを聴かせれば、この話が本当だったということを報せるには、充分事足りるはずであろう。


『8時に待ってる』


「うん、すぐ行く。ダッシュでいく」


 このやり取りを最後に、この白河流星しらかわりゅうせいの話は、結末を迎える事となった。


 この後の事は、正直よく覚えてない。

 

 二人組の警察官に身柄を拘束された後、パトカーで搬送されてる最中、僕の意識は酩酊するように歪みだし、ぷつんと意識を失った。


──────


 ○月31日 (休日・午前6時)

 

 目を覚ますと、そこには見知った天井があった。


 何度も見てきたその光景は、僕が自宅で目を覚ました際に、初めに目にする光景だ。

 

 ――ただ繰り返される、このふざけた日々に絶望していた。


 そんな絶望の中に、今回はほんの少しの希望がある。


 なにかが変わる、兆しがあるのだと。


 ベッドから起き上がり、ソファーに項垂れるように座り込み、時が来るのをじっとして待った。


──────


 ○月31日 (休日・午前8時)


「後4時間で、どうせ僕は終わりなんだ……」


 つぶやいったーに、諦めるようにして書いた辞世の句。


 ――その文章に希望にも似た、救いを求めて投稿する。


 直後、ピコン! という着信音と共に、メッセージが届いた。


『よろしければ、私とお話しをしませんか?』


 目にじんわりと、涙が滲んでいく。

 

 スマートフォンの画面に映し出されたメッセージに、感情が溢れて流れだす。

 

 僕にとっての英雄の登場に、縋るようにして通話機能に手を伸ばした。


『もう大丈夫! 何故って!? 私が来た!!』


 その声に、その言葉に全身が高揚した。

 

 奮い立つ気持ちを抑え込むようにして、第一声を口にする。


 言葉はもう決まっていた。


「はじめまして、れもんさん」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ