04ー3 生き様に後悔の無いようにと
地下室にあったラボに向かって、暗がりの階段をスマートウォッチの明かりが先導する。
そこに、一筋の光明を見るように、指し示す方角へ足を運んでいく。
背負った重荷で足取りは重く、一歩先に進むごとに、覚悟の決まった僕の心を、悪戯に揺さ振りかけてくる。
――これで本当によかったのかと。
自問自答を繰り返しては、また一歩前に進む。
人生とは、そんな地続きな選択の繰り返しである。
だからこそ、選択肢に立った際に思うのだ。
選んだ先で失敗することはあっても、生き様に後悔の無いようにと。
それが、白河流星なのだと。
僕は、目の前にある扉を開けた。
地下室のラボには明かりが灯されており、正面には卜部操が、僕を出迎えるように立っていた。
[お待ちしておりました。どうぞこちらへ]
誘導されるように、中央にある検査台が置かれている場所まで連れて行かれる。前に来た時は首より上の無い人間と思われる体が置かれていたが、今はそれが無くなったいた。
[担がれた背中の方を、こちらに仰向けに置かれて下さい]
言われた通りに検査台に仰向けに置いた。
改めて自分と同じ顔と対面するのは、なんというか妙な気持ちにさせられる。
『やあやあ、この瞬間が訪れるのを首を長くして待っていたよ。とは言ったものの、今の私にはその首は無いんだがね。はっはっはっ』
音響機器でも仕込んでいるのかという具合に、響き渡る笑い声が、部屋全体を包み込んだ。
僕は、噛むようにして咥えていた短剣を、手に持ち直した。
「以前来た時に、検査台に置かれていた、あの体はどうしたんだ?」
『ああ、アレのことかい? 最早必要が無いからね、卜部操に処分してもらったよ。それがどうかしたかね?』
「……そうか」
『それにしても、よく殺さずに連れて来られたね。また首を刎ねてしまわないかと、ヒヤヒヤしたものだよ……』
「――また、ということは。やはり、こんなことを何度も繰り返していたんだな」
『その通りだよ。私のメッセージである【全てを揃えし時、その赤き力が、迷える魂を在るべき場所へ帰すだろう】を、どういう解釈をしたのか。無くなった頭だけを持って来た時には、果たしてどうしようか……。と、文字通り頭を抱えたものだよ』
「……で、今回はそうはならなかったみたいで、上機嫌というわけか」
『私は、この瞬間の為だけに尽力してきたからね。その感動もひとしおってことさ』
「そいつは良かったな」
『ありがとう! 相棒も喜びたまえ、互いの願いはようやく叶うのだ!』
「願いが、――叶う。か……」
『そうだとも! 舞台の役者は出揃った。今こそフィナーレを迎えるのだよ! 相棒が手に入れた【赤きティンクトゥラ】があるだろう。それを手に持っているアゾット剣の柄の先にある窪みに嵌め込みたまえ』
ポケットから【赤きティンクトゥラ】を取り出すと、短剣の柄にある窪みに押し込む。
すると、石はピッタリと収まり、短剣は本来の姿を取り戻したようであった。
『それでいい。後はその短剣で心の臓を突き刺せばいい。これで永遠とも思える物語に、ようやく終止符を打つことができるのだ!』
僕は、検査台に仰向けに置かれている、自身の体の心臓の上に、短剣を高々と掲げた。
『さあ! やりたまえ!! さあ! さあっ!!』
言葉に煽られるように、掲げた短剣を振り下ろした。
――しかし、短剣は心臓を貫くことはなかった。
何故なら、切先は体の寸前でピタリと動きを止めたからである。
「……やめだ」




