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03ー15 論より証拠

 ○月29日 (平日・午後22時)


 すっかり日の暮れた街中を、目的地である骨董品店【ル・プチ・プランス】へ向けて、進行している。

 

 これから行うことを考えるならば、なるべく目立たず、人の通りの少なくなる時間帯が好ましいと思い、このような時間帯に行動を開始した。

 

 昼間の大それたミッションをこなした後だからだろうか、不思議と緊張感は殆ど無かった。

 これが成功体験から来るものなのだろうか? 人間とはさも単純なものである。


 そうこうしているうちに、レンガの外装をした、西洋らしい雰囲気のお店が姿を現す。

 

 お店の営業は基本的に午後の17時までと言っていた通り、扉にはCLOSEDという看板が掛かっており、店内に明かりは無かった。

 

 ホテルに戻った際に回収した小さな鍵を、扉に付いている鍵穴に入れてみる。


 が、しかし。

 

 予想に反して、鍵穴に小さな鍵は入っていかなかった。


「あれっ? もしかして違った……、のか?」


 何度も試してみたが、やはり鍵が鍵穴に合っていない為か、中に入っていくことはなかった。

 

 あまり店の前で不自然な行動をしていては、通行人に怪しまれてしまうことだろう。

 一旦諦めて、路地裏の方に身を隠すことにした。


「――さて、困ったな……」


 十中八九、お店の鍵だと目星を付けていたが、当てが外れてしまった。


 途方に暮れて路地裏を眺めていた時、ふと、路地裏での出来事を思い出す。


「それにしても、この場所には碌な思い出がないな……」


 刃物で刺されたり、胃の内容物を盛大にぶち撒けたりしたりと、今となっては負の象徴を現すポイントとして、記憶された場所になっていた。


「あっ! そういえば――」


 思いにふける最中、ふと、思い出したことがある。

 

 骨董品店【ル・プチ・プランス】には、路地裏に面する裏手の扉があったのだった。


 辺りが暗かったので、スマートウォッチのライト機能を使い、扉を照らすと、鍵穴に小さな鍵を入れてみる。


 先程と違い、鍵は奥まで入っていき、鍵を回すとガチャ! と、音を立てた。


「――やった! ビンゴだ!」


 やはり、この小さな鍵は、骨董品店【ル・プチ・プランス】のものであったのだ。


 念の為だが、なるべく音を立てないように、ゆっくりと中に入っていく。


 スマートウォッチのライトを頼りに、店内に気になるものがないか? 怪しいものはないか? 隈なく調べていくことにした。


 店内に陳列されていた品物は、レプリカと言ってはいたが、精巧な作りのものばかりであった。

 気になるものでは確かにあったが、特に怪しいといったものではないだろう。

 

 他にも調べてみたものの、特にこれといった確証の得られるものは中々出てこなかった。


「そんな簡単には見つからないか……」


 相手だってそんな間抜けではない。

 

 分かりやすい場所に、そんなものは置いておかないだろう。

 相手に知られたくないものは、どこか目の付かない場所に、隠してしまっておくものである。


 しまっておくといえば、後調べてないのはバックヤードだろうか。

  あそこはものが沢山置いてあるので、調べるのは骨が折れることだろうなあ。


 渋々バックヤードを調べていると、少し気になったことがあった。


 棚が沢山置かれた部屋には、それらを占領するように古めかしい品々がぎっしりと仕舞い込まれている。

 それでも整理しきれなかった物や、壊れたガラクタのようなものが、部屋の片隅に積み重ねられているのだが、ひとつの棚だけは、さほど品物が置かれていないものがあった。

 物が溢れて部屋の片隅に積み重ねられている状況から考えると、少し妙である。


 その棚を調べてみると、棚ではなく、それに面する床の方に、何かを引きずって移動させたような形跡の擦り傷があるのを発見した。

 棚に関しても、ひとりで動かそうと思えば可能な程度の重さである。


 論より証拠ということで、試しに棚を移動させると、ずらした場所の床には、床下収納のような扉が姿を現したのだ。


「これは、いかにも怪しいです。ってものが出てきたな……」


 ここまで来て、引き返すような選択肢は無いだろう。

 元より覚悟はもう出来ている。


 床の扉に手を掛けると、ゆっくりと開いていく。

 

 するとそこには、地下に続くように階段が、奥に向かって伸びていた。

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