03ー14 白黒をつける
空木市の図書館は、時代や利用者のニーズに合わせ、明るく立ち寄りやすい雰囲気を意識し、本や資料の貸出にとどまらないサービス提供施設として、カフェやレストランが併設したりしている。
図書館に着くと、とりあえず端末で【赤きティンクトゥラ】と、キーワードを入力し、蔵書の検索をすると、それらの関連する本をかき集めては、資料を読み漁っていった。
その中で有力となる情報を集めると、以下のようなものが挙げられている。
【赤きティンクトゥラ】別名、賢者の石、哲学者の石、天上の石、大エリクシル、エリクサー。
ヘルメス・トリスメギストスは、世界で唯一賢者の石の生成に成功した錬金術であるともいわれる、伝説の錬金術師である。
史実上で持っていたと噂されたのは、パラケルススと、サン・ジェルマン伯爵であるとされている。
パラケルススはアゾットと刻まれた短剣の柄にエリクサーを仕込み、病気に苦しむ人々や、自身の遍歴の道中での怪我をいやしたとされる。
また、その製造に成功した人物として、ニコラス・フラメルも有名である。
【赤きティンクトゥラ】という名前からはピンとこなかったが、別名の中には覚えがある物がいくつか出てきた。
賢者の石やエリクサーといえば、創作の題材として万能性、神秘性の象徴として登場したりすることが多々ある。
勇者の伝説、史上最強のファンタジー、最強のダークファンタジー然りである。
その性質や効果は様々だが、有名なところでいえば、あらゆる物を金に変えたり、人間に不老不死の永遠の生命を与えたり、癒すことのできない病や傷をも瞬く間に治したりするなどだろうか。
(とはいえ、内容があまりにもファンタジーに寄り過ぎているせいか、なんだか現実的ではないものばかりだな)
と、まあ、これらの情報がどのように関連しているのかは定かではないが、【赤きティンクトゥラ】にこのような歴史があると知れたのは、今後の解決のきっかけになると思いたい。
「よし。調べものも済んだことだし、併設しているレストランで、飯でも食べて帰るとするか」
『(おや? いいのかね、他にも調べることはなかったかな?)』
「なんだよ、他にって?」
『(L'essentiel est invisible pour les yeux.)』
「ああ、そういえばあったな。キツネの台詞だとか言っていたが、そもそもフランス語はサッパリなんだが……」
『(ではまず、タイトルである【Le Petit Prince】で、調べてみればいいのではないかな?)』
「それもそうだな」
とりあえず、お店の名前である、ル・プチ・プランスとキーワードを入力し、蔵書の検索をすると、アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの小説【星の王子さま】だということが分かった。
星の王子さまであれば、読んだことはなくても、名前ぐらいは聞いたことはあるだろう。
【大切なものは、目に見えない】という言葉は、作品を語る上で最も有名な言葉である。
「星の【王子】さま」
王子という単語には覚えがあった。
それは、フロントスタッフから受け渡された茶封筒の中に入っていた手紙、【王子さまが最後の目的地への道標になるだろう】というものである。
「つまりは、……そういうことなのか?」
シンプルに解釈するならば、骨董品店【ル・プチ・プランス】が最後の目的地ということになる。
あのお店には、まだ知らない何か秘密があるのかも知れない。
館内にある利用者専用パソコンで、インターネットでの情報検索を使い、骨董品店【ル・プチ・プランス】を調べてみた。
だが、空木市内に骨董品店【ル・プチ・プランス】という店舗があるという情報はいくら探しても見当たらなかった。
「店舗が存在しない? だと……」
これによって、白黒をつけるという意味でいえば、グレーだった疑惑が、より黒に近づいた。
『(疑わしきは罰せずというならば、証明するしかあるまいなあ)』
「そう……、だな。あの鍵の使い道もあるかもしれない」
『(では、決まりだな。そうそう、私はこれから用事があるので、暫く席を外すことになるから。留意したまえよ)』
「ハイハイ、ソウデスカ。ゴ自由ニドウゾ」
一度ホテルに戻り、ホテルに置いてきた鍵を回収した後、骨董品店【ル・プチ・プランス】を改めて調べることにしよう。
外に出ると、空の様相は黄金色に輝く黄昏時になっていた。




