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03ー8 言うは易く行うは難し

 ○月28日 (平日・午後14時)


 現状の確認を兼ねて、美術館へと足を運んでいた。

 

 とりあえず【赤きティンクトゥラ】が、館内にあるのであれば、僕が今、過去にいるという証明になる。

 

 そういった意味でも、日付を確認するだけではなく、事の中心である【赤きティンクトゥラ】を、直に確認するのが一番であることに間違いないだろう。


 路地裏から去る際に、卜部さんにお礼を言いそびれたのが気掛かりではあったが、そうも言ってられる状況ではない。

 

 優先するべき事がはっきりした以上、それ以外のことには、多少ばかり目を瞑ることも致し方がないだろう。


 ――手段は問わない。

 

霧崎朱きりさきしゅう】が、残したとされる手記の通り、どんな手を使っても今度こそ、為すべきことを、為し遂げるのだ。

 

 そのことだけを念頭に置き、今一度、改めて話を整理しておこうと思う。


【赤きティンクトゥラ】が、美術館にあるだけでは、現状を変える事が出来ない。

 

 それは前に経験して確証した、生きた情報である。

 

 ○月31日の自分が、【赤きティンクトゥラ】を所持していた経緯から考えるに、美術館から持ち出すことに意味があるならば、警察官に追われるというリスクを承知でも、やらねばいけない理由があったと考えられるだろう。

 

 それが、美術館から持ち出すことが目的だったのか、【赤きティンクトゥラ】に、何かしらの用途があってなのかは、残念ながらまだ判断が出来ていない。

 

 だが、結論として所持していたとするならば、同じ状況を作り出すことが、答えに違いないともいえる。

 

 ――それは、お前になくてはいけない物だ。

 

 手記が意味することを前提とするならば、僕自身に、何か重要なものなのだということはよく分かる。


 だからこそ、これから僕がこれからやらねばならない行為は、自ずと決まっていたのだ。

 

 ――目的を変えずに、結果だけを変える。


【赤きティンクトゥラ】を手に入れるという、目的を変えずに、警察官に追われるという結果だけを変える。


 つまりは、完全犯罪を成し遂げろというわけである。


 言うは易く行うは難しとは、正にこの事だろうよ。


(……んだよ、これ。無理ゲーじゃないのか……)


 とはいえ、導かれる結果に文句をいっても、現状を変えられるわけでもなく、どのみちやることには変わりないのだ。


 美術館に着くと、早速館内に入場する。

 

 迷うことなく、一直線に市長の集めたコレクションの展示場へ向かい、【赤きティンクトゥラ】があることを確認した。

 

 これで、僕が今、過去にいるという証明は無事に済んだといえるだろう。


 これから行われるのは【赤きティンクトゥラ】の奪還作戦である。

 

 ――奪還で合っているのかは、正直よく分からないが、名分として自らの大義を勝手に持つことぐらいは、大目に見てもらうとしよう。


「とりあえず、今出来ることは、これ以上は無いだろうな」


『(ほほう。出来ることならまだあるだろうに、お忘れですかな相棒よ?)』


「なんだよ? その出来ることっていうのは?」


『(手記には、拠点としてホテルの312号室を使ってほしいと記載されていた筈だが、そちらについてはスルーしていいのかね?)』


 確かに、そのような内容が記載されていたことは記憶している。

 

 だが、わざわざ相手の指示に従う理由もない。


「今までその通りに行動して、碌な目にあった覚えがないんだがな。またどんな目に遭うか分かったものじゃないぞ」


『(少なくとも、霧崎朱きりさきしゅうの目的も【赤きティンクトゥラ】だとするならば、相棒が手に入れるのを邪魔する手立てを打つとは、考え難いのではないかね?)』


「それなんだが、なぜ、霧崎朱きりさきしゅうは、自ら【赤きティンクトゥラ】手に入れるという手段を取らない? こちらが手に入れるのを待ってから、奪い取るだなんてまわりくどい手立てを打つんだ?」


『(考えられることは、盗むというリスクを避けているのか、又は、そうしたくても出来ない状況にあるかではないかね? 前者は、殺してでも奪い取る手段を選ぶことをみれば、そうとは考え難いだろうよ)』


「なら、後者だというんだな」


『(それは分からないさ。私はあくまでも、そう考えられると言っているだけだからね。勘違いしないでくれたまえよ)』


「ハイ、ハイ。そうでしたね」


 まあ、こんな安い挑発で口を滑らせるほど甘くはないか。


『(実際に殺すだけならば、いつでもやれたに違いないだろうよ。だが、相棒が○月31日まで生きている事実は、既に証明されているのだ。逆を言えば、○月31日までは死ぬようなことがないとはいえないかね)』


「それは、……確かに」


 理屈はまあ、分からなくもない。

 

 なら、確かめてみてもいいのか?

 

 もしかしたら、何か新たなヒントが得られるかもしれない。


「一応、……確かめるだけはしておこうと、思う。――勘違いするなよ! アンタに言われたからやるんじゃないからな!」


『(素直じゃないなあ。まるで、遅れてきた反抗期のようではないかね。面白いから、私は一向に構わないよ)』


 いちいち、煽られているようでなんか腹立つが、これから向かう先が、たった今、ホテルへと決まったのであった。

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