03ー5 野となれ山となれ
○月28日 (平日・午後18時)
美術館が閉館する為、とりあえず館内から外に出た。
その後、道すがられもんさんと情報共有をする。
『(つまり、時間が戻っていて、今が○月28日だから、赤い石は盗まれていなかった。と、言いたいんだな)』
「信じられないですが、どうやらそうらしいです」
『(時間がループしたかと思えば、次は逆行するとは、中々に飽きさせないのう)』
ケタケタと頭に響くれもんさんの笑い声が、否応無しに神経を逆撫でする。
「全っ然笑えませんよ!! 一体どうなってるんだっ!!」
『(そうカリカリしなさんな。感情に突き動かされては、物事を正しく判断出来なくなる。【分かる】が増えると【分からない】も増える。これはとても、自然なことだ)』
「――何が、言いたいんですか?」
『(とりあえず、落ち着けってことだよ。それに、これはチャンスだとは思わないか?)』
「チャンス? ピンチの間違いでは?」
『(いいや、ピンチはチャンスだよ! 時が遡るということは、つまるところ、原因が過去にあったという導きに他ならない。思い返してみるがいい、過去に何があったのかを)』
過去に何があったのかなど、そんなものは分かり切っている。
「――【赤きティンクトゥラ】の、盗難事件か!」
『(その通り! その事件が発覚したのは)』
「――〇月29日の、午後18時頃」
それは、朝の報道番組で流れてきたニュースで確認している。
未来で確定された、確かな情報だ。
『(であれば、やらねばならぬことは、自ずと見えてきたであろうよ!)』
「そうか!【赤きティンクトゥラ】が、盗まれなければいいんだ! 事件が起こらなければ、警察に追われることもない!」
元はといえば【赤きティンクトゥラ】が、美術館から盗まれたことが、事の発端である。
ならば、その事実を変えてしまえばいい。
『(確かにその通りではあるが、いいのかね?【赤きティンクトゥラ】を手に入れる。といった事実が改変されれば、その後はどうなるか分からないぞ)』
「そもそも、疑問だったんですよ。どうして、僕が【赤きティンクトゥラ】を手に入れなければならなかったのか? それが原因で襲われたのであれば、僕が盗みさえしなければ、それらを回避出来るはずですよね!?」
『(――相棒の考えは理解した。私はいわば、人生の荒波から迷える者を導く水先案内人。といったところだ。所詮は相棒の航海が上手く行くように声をかけるだけの存在でしかない。相棒がそう決めたのであれば、後は野となれ山となれだ)』
「れもんさん……」
『(だから、これは私からの忠告だど思って聞いて欲しい。己の判断に後悔を持たぬこと。決して諦めないことを心に刻んでおけ)』
「はい。僕なりに答えを出してみせます。必ず!」
やることは決まった。
きっと上手く行くはずだ。
後は信じて事を成すだけである。