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襲撃と王子



 そんな軽口を叩いているうちに目的の場所につき、馬車が止まる。先に馬車から出たエルヴィスの後に続いて馬車を降りると、妙な空気を感じた。


(……?)


 違和感を覚えて顔を上げた瞬間、悲鳴が聞こえる。


「!」


 即座に兄がジゼルの前に立ち、腰の剣に手を伸ばす。

 その後ろから悲鳴が聞こえた方向を覗き込むと、そこには武器を手にした屈強な男性たちが、一人の男性を取り囲んでいる様子が見えた。

 どう見ても仲良くお話をしているという雰囲気ではない。

 周りの通行人たちは皆恐怖に表情を強張らせて逃げていき、今にも一触即発という緊張感が辺りに満ちていた。


(襲われている方は……銀髪?)


 陽光を反射してキラキラと輝く髪は、見事な銀色だ。どう見ても穏やかではない男たちに囲まれているというのに、怯む様子はまったく感じられない。


(……! 速い!) 


 その銀髪の男が、前世でジゼルを看取った第二王子のディラン・ルベライトだと気づいた時にはもう、剣を抜いたディランの手によって武装した男たちは一瞬にして倒されていた。


「!」


 倒れた男たちを無感情に見つめるディランが、剣を持ったまま一歩足を踏み出した瞬間、ジゼルは咄嗟に駆け出した。

 一拍遅れて兄が剣を抜き、凄まじい速さでディランと倒れている男の間に割り込む。

 ディランが振り下ろそうとしていた剣は、兄が両手で構えた剣とぶつかり鋭い音を立てた。


「……」


 ディランの金色の瞳がエルヴィスに向けられる。微かに眉を寄せたその表情に、エルヴィスはギリギリと音を立てて剣を斬り結んだ状態のまま、口を開いた。


「殿下。王族の殺人未遂は重罪ですが、既に殿下ご自身の手で刺客は無力化なさっています。これ以上は尋問することを優先されてはいかがでしょうか」

「無意味だ。どうせ何も知らない小物だろう」

「それでも、です。妹に血を見せたくありませんので、恐れながら私も引く気はありません」

「……」


 ディランが、無感情にジゼルに視線を移す。

 肌が震えるような緊張感があたりを満たした。その空気の中でジゼルがディランの目をまっすぐに見返すと、彼は微かに眉を上げて、剣を鞘に納めた。


「捕縛しておけ」

「かしこまりました」


 エルヴィスも剣を納め、一礼する。倒れている男たちをひょいっと一纏めにし、どこから取り出したのか縄でぐるぐると縛り上げた。

 そうこうしているうちに騒ぎを聞きつけて兵士たちが駆けつける。


 兵士たちに指示を出している兄に、とりあえず死者はいないようだとほうっと胸を撫で下ろした瞬間、ぐいっと顎を掴まれた。


「!」


 目の前に、恐ろしいほど整った顔立ちが迫る。

 いつの間にかそばに来ていたディランがジゼルの顎を掴み、冷めた瞳でジゼルを見下ろしていた。

 低く冷ややかな声が、重圧を纏って鼓膜を震わせる。


「ジゼル・イグニス。――つい一年ほど前まで、大した才はない凡人と言われていたそうだが。……ここ一年ほど、今まで隠していた才を惜しげもなく発揮しているそうだな」

「恐れ入ります。若輩者でございますゆえ、身に余るお言葉ですが」


 少しでも返答を間違えた瞬間、すべてを見抜かれる――そんな錯覚を覚えるほど何もかもを見通しそうな美しい金色の瞳を、ジゼルはまっすぐに見返したまま、柔らかく答えた。


「隠していたわけではなく、凡人なりに学んできた成果がようやく出てきたものかと」

「――学んだ成果、か」


 ディランの唇が弧を描く。

 興味深いものを観察するような表情で、淡々と言葉を続ける。


「大したものだな。殺気も出していなかった俺の殺意を、一介の令嬢がいち早く見抜き動こうとした。どのような学びを受けたのか、ぜひとも教えてもらいたい」


 緊張感が、最高潮に達する。

 空気すらも重く震えるように感じる中、ジゼルが口を開こうとすると――


「殿下!!!!!!?????????」


 凄まじい速さでやってきたエルヴィスが、ジゼルの顎にかかったままだったディランの手を引き剥がした。

 急いでジゼルを自分の背に隠したエルヴィスが「何をなさっているんですか⁉︎」と噛み付くように吠えた。背後からでもわかる。エルヴィスは今、すぐにでも再び剣を抜きそうな形相をしているはずだ。


「お、お兄さま⁉︎」


 相手は王族だ。エルヴィスの態度に焦るも、ディランはさして気に留めた様子もなさそうだった。

 興味を失ったように冷めた表情で背を向け――少し振り向き、ジゼルに再び金色の瞳を向ける。


「――……庇ったとて何の益もない人間を庇おうとしたところは愚かとしか言いようがないが。勤勉しか取り柄のないようなスミス子爵令息に嫁がせるには、惜しい人材だ。……食わせ物のイグニス伯爵にしては、随分と利の薄い縁談を結ぶ」


 そう言ってディランが今度こそ背を向け、去っていった。





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