プロローグ
新連載です!
初日は3回更新、しばらくは1日2回更新していきます。
完結まで毎日投稿予定です。よろしくお願いします。
シャンデリアが光をきらきらと反射し、音楽隊が奏でる演奏がホールに響く。
華やかに着飾った男女たちが集うこの夜会で、視線を集めているのはジゼルの横にいる美しい男性――この国の王子、ディラン・ルベライトだった。
銀色の髪に、金色の瞳。そこに立っているだけで人を圧倒する王者の風格を纏う彼の表情はいつも冷めていて、相手が有力貴族であってもはたまたどんな美女であっても、微笑み一つ浮かべることはなかった。
――本来ならば。
「まさか殿下が社交場に顔を出されるとは思いませんでした」
挨拶にやってきた貴族の男性が、そうディランに声をかける。
社交嫌いと名高い王子が夜会に参加していることに驚きを隠せない様子のその男性は、ちらりとジゼルに含みのある視線を向けた。
「……ああ。愛しい婚約者に悪い虫をつけたくないからな」
先ほどから腰に回されているままの手が、ぐっと近くにジゼルを引き寄せる。慣れないその仕草と距離になんとか動揺を押し殺してディランの顔を見上げると、彼は美しい顔に甘やかな笑みを浮かべ、ジゼルを見た。
「こうして彼女には俺がいると示して、牽制しなければ」
(なんという大嘘つき……!)
すんでのところで飛び出しそうになった心の声を、笑顔で飲み込む。ここでディランのこの『溺愛』が嘘だとバレてしまえば、すべての計画が台無しになってしまいかねない。
(平常心、平常心……! 何があってもやり遂げてみせると、決めたではありませんか)
たとえ想定していた『何があっても』の内容とはかけ離れていても。
(そのために、こうして戻ってきたのですから)
必ず目的を達成し、そうして早くこの『溺愛される婚約者役』を降りるのだ。
ジゼルは顔に笑顔を張りつけながら、心の中でそう固く誓った。