204 星界編 ―虚空の王と“星の檻” ― part10
無限に広がる虚無の空間に、星々の残滓が渦を巻く。
アリスと虚空の王の周囲に、
“存在”と“無”がせめぎ合う光の嵐が生じた。
アリス:「――来い、クロノス!」
(時空神の魔方陣が展開し、青白い光がアリスの背後に浮かぶ)
アリス:「時間跳躍・式一三、転界相転写!」
(時空が崩れ、虚空の王の攻撃が反転する)
虚空の王:「小賢しい……だが、“無”は因果を拒む!」
彼が右手を掲げると、
空間そのものが砕け、アリスの存在が“消滅”し始める。
サラ:「アリス! 身体が――!」
アリス:「大丈夫……! 私は、“観測される限り存在する”!」
ノーム:「ならば――!」
(地の精霊陣を発動)
「アリスの存在を“観測”し続けます!」
ディネ:「風の流れを固定する! アリス、今よ!」
アリス:「ありがとう、みんな!」
アリスの手が輝き、
時空と虚無の境界に“星の環”が展開される。
アリス:「――創世詩篇、第零節!
虚空をも照らす、“始まりの光”を!」
虚空の王:「なに……!? この力は……!」
アリス:「神が恐れたのは、滅びじゃない。
“次の命”が自分たちを超えていくこと――
それが、あなたたちの“真の罪”よ!」
虚空の王:「……我々の、罪……?」
光が炸裂し、“星の檻”が崩壊していく。
封じられた空間の奥から、
かつて創世を支えた“純粋な星の意志”が解き放たれた。
虚空の王は崩れゆく空間の中で、
静かにアリスを見つめ、微笑んだ。
虚空の王:「……ならば、行け。創世の継承者よ。
我らの願いを、超えてみせよ。」
そして、彼の身体は光の粒となって消えていった。
崩壊した虚空の空間を抜け、
《アステリア号》は再び光の海へと浮上した。
サラ:「……終わったの?」
アリス:「うん。でも、“始まった”んだと思う。」
ディネ:「あの王も、止まりたくなかったのかもね。」
ノーム:「滅びを恐れた神々も、また“生きよう”としていたのでしょう。」
アリスは空を見上げた。
そこには、闇を払うように無数の新しい星が瞬いている。
アリス:「さあ、行こう。“次の航路”へ。
この宇宙の果てに、まだ知らない真実があるはずだから。」
《アステリア号》が再び動き出し、光の奔流の中をゆっくりと漂っていた。
周囲は星のような粒子が渦を巻き、静かな音を響かせている。
それはまるで、宇宙が呼吸しているかのようだった。
ノーム:「……ここが、“星暦の記録庫”か。」
ディネ:「見て、アリス。光の粒一つひとつが、世界の記憶を宿してる……。」
サラ:「なんか……キラキラしてて、ちょっと落ち着かないなぁ。」
アリスは前へ進む。
彼女の足元に、無数の“過去の光景”が映し出されていた。
――異界の門の崩壊。
――勇者の少年の涙。
――聖女マリーの祈り。
――そして、初めて精霊たちと出会った日の記憶。
ディネ「懐かしいね。あの日、あなたと私が会った瞬間……」
アリス:「……全部、ここに記録されてるんだね。私たちが生きた軌跡。」
だが、その中心に――ひとつだけ、“空白”があった。
ノーム:「……記録が、抜けている?」
アリス:「……いや。これは、“未来のページ”よ。」
アリスが手を伸ばすと、光の粒が舞い、
一つの像が浮かび上がった。
それは――“星の巫女”のような少女の姿。
少女:「――やっと、ここまで来たのね。アリス。」
アリス:「あなたは……誰?」
少女:「私は“星詠の巫女”。あなたが生まれるよりも前に、星々の未来を読んだ者。」
ディネ:「巫女……まさか、創世の時代の生き残り?」
巫女:「いいえ。私は“記録”そのもの。
創世の光が世界を形づくる前――この宇宙を見守っていた《観測者》。」
巫女はアリスの瞳をまっすぐ見つめた。
巫女:「アリス。あなたの中にある“原初の核”――それは、
精霊王が転生の時に授けた《創世の種》。
あなたは、“新たな宇宙”を生み出す存在。」
アリス:「……私が……新しい世界を?」
巫女:「そう。でも、選ばなければならない。
“今の宇宙を救う”か、“次の宇宙を創る”か――」
アリスの胸が熱くなった。
これまでの戦いの記憶が、全て心をよぎる。
仲間たちの笑顔、守ってきた世界、人々の祈り。
アリス:「私は……ひとつしか選ばない。
“この世界を救って、次の世界も創る”。
そのために生きてきたから!」
巫女は静かに微笑み、アリスに“星の杖”を差し出す。
巫女:「ならば、創世の継承者として――星を継ぎなさい。」
その瞬間、空間が震えた。
光の海が崩れ、遠くで巨大な影が蠢き始める。
ノーム:「アリス! 時空波が乱れています!」
ディネ:「これは……何かが“干渉”してる!」
サラ:「まさか……また敵!?」
巫女:「いいえ――これは“あなたの影”よ。」
現れたのは、アリスと同じ姿をした“光の幻影”。
だがその瞳は冷たく、理そのものを宿していた。
幻影アリス:「創造と滅びは対。
お前が世界を創れば、等価の“終焉”が生まれる。」
アリス:「……また、それ?
虚空の王も、神々も、みんな“終わり”を恐れていた。」
幻影:「恐れではない。均衡だ。
お前の創造は、“現実の書き換え”――神々が踏み越えられなかった領域。」
アリス:「なら――私はその先を行く!」
両者が同時に杖を構え、
光と闇の螺旋が激しく衝突した。
周囲の星の記録が一斉に弾け、
過去と未来が入り混じる幻想の戦場。
ディネ:「アリスが……二人いる……!」
ノーム:「いや……あれは“創造と反転”の具現化です!」
アリス(本体):「あなたは、私の“理”の部分。
でも私は、“祈り”でできてる!」
幻影:「祈りは、世界を動かせぬ。」
アリス:「動かせるわ――この手で、何度でも!」
杖が輝き、アリスの背後に三つの精霊の紋章が現れる。
ディネ:「精霊合成陣、展開――!」
サラ:「行くよ、アリス!」
ノーム:「今こそ、我らが力を――!」
アリス:「――精霊統合魔式、“創世三界律”!」
三つの光が一体化し、
アリスの身体が銀白に包まれる。
彼女はゆっくりと手を掲げ、宣言した。
アリス:「創造は終焉を生まない――
“祈る限り、命は続く”!」
杖から放たれた光が幻影を貫き、
その身体はゆっくりと霧散した。
幻影アリス:「……ならば……次の世界で……また……」
声は消え、空間に穏やかな静寂が戻る。
巫女:「あなたは……選んだのね。
滅びでも、永遠でもなく、“継承”を。」
アリス:「ええ。私は創り続ける。
命も、夢も、祈りも――終わらせない。」
巫女は頷き、アリスの胸に手をかざした。
そこに“原初の核”が光を放ち、
世界全体に新しい星の輝きが広がっていく。
サラ:「……きれい……!」
ノーム:「これが、“再創世”の瞬間……。」
ディネ:「アリス……あなた、ほんとうに……。」
アリス:「みんながいたから、ここまで来られたんだよ。」
巫女:「さあ、行きなさい。新しい航路へ。」
光が溢れ、《アステリア号》が再び動き出す。
アリスたちは、“神の領域”を超えた先の宙へ向かっていった。




