203 星界編 ―星暦の黎明 ― part9
黄金と群青の金属が螺旋状に組み上がり、
中心には脈動する“星の心臓”――アステリオンの核が輝いている。
リュシエ:「これは、“星暦の書”を記す装置。
あなたの選択によって、新しい宇宙の時代が始まります。」
アリス:「私が……時代を創る?」
リュシエ:「正確には、“流れを決める”だけ。
星の意志は常に変化します。
でも、“初めの言葉”がなければ、未来は形にならない。」
アリスは静かに目を閉じ、心の奥に浮かぶ人々の笑顔を思い出す。
ディネの優しい笑み、サラの無邪気な声、ノームの誠実な眼差し――。
そして、かつての世界で守れなかった命。
アリス:「なら――私は、“命の続く未来”を願う。
創るためじゃない、生かすための“星暦”を。」
その瞬間、星詠樹が震え、無数の光が枝葉から流れ出す。
空間全体が虹のような光環で満たされ、
宇宙の構造そのものが音を立てて再編されていく。
ノーム:「これは……新しい宇宙の暦が……!」
ディネ:「まるで、宇宙がアリスの言葉を“記録”してるみたい……!」
リュシエ:「これで“星暦”が始まりました。
あなたの言葉が、時を動かす詩となったのです。」
だが、静寂は長く続かなかった。
神殿の奥から低い鼓動が響き、
天を裂くように巨大な影が現れた。
リュシエが振り向くと、そこにいたのは――
黄金の装甲に覆われた神族の戦士。
戦士:「巫女リュシエよ、なぜ“証人”を導いた!」
リュシエ:「……長老……!」
長老と呼ばれた神族は、アリスを見下ろしながら低く言う。
長老:「“星暦の書”は封印されるはずだった。
創世を再び動かせば、我ら神族は消滅する!
この宇宙の命は、すでに“完成”していたのだ!」
アリス:「完成? いいえ――止まっていただけよ。
命が止まることを“完成”とは言わない!」
長老:「異界の魂が神の理に逆らうか……!
ならば、その力、我が手で封じよう!」
星詠樹の光が反転し、
空から降り注ぐ無数の光の剣がアリスたちに襲いかかる!
アリス:「ディネ、サラ、ノーム! 構えて!」
三人の精霊が同時に展開する。
ディネの風が光の剣を弾き、サラの炎が空間を焼き払う。
ノームは地の盾を展開し、衝撃波を受け止めた。
アリスは星の力を右掌に集中させ、詠唱する。
アリス:「――星よ、原点に帰れ。《エテル・クロノス》!」
時空が反転し、神族の放った光が軌跡を遡るように消えていく。
長老は驚愕の表情でアリスを睨んだ。
長老:「時間すら支配するだと……!」
アリス:「違う、“流れを選ぶ”だけ。
あなたたちが創った“完成”は、もう古いの!」
アリスの体から放たれる星光が、戦場全体を包み込む。
星詠樹が共鳴し、空に光の花が咲くように爆ぜた。
長老:「ぐっ……星の理が……塗り替えられる……!」
アリス:「さようなら――“過去の神々”。
あなたたちの時代は、私たちが受け継ぐ!」
光が弾け、神族の影は静かに消滅した。
リュシエは涙を流しながらアリスに頭を下げた。
リュシエ:「……あなたこそ、“真なる創世”を選んだ人。」
星詠樹の枝が大きく揺れ、
宇宙全体に光の波が広がっていく。
それは“創世の終わり”ではなく、“再生の始まり”だった。
ディネ:「アリス……星が笑ってるわ。」
サラ:「うん、あたたかいね……!」
ノーム:「これが……“新しい宇宙の鼓動”……。」
リュシエ:「これで、“星暦の黎明”は始まりました。
あなたの意志が、すべての時の礎となるでしょう。」
アリスは星空を見上げ、微笑んだ。
アリス:「ここが……本当の、始まりね。」
その背に、星の羽のような光がふわりと揺れ、
《アステリア号》がゆっくりと次の空域へと進み出す。
《アステリア号》が星暦航路を進み始めて数日。
静寂な宇宙を渡る中で、アリスは時折、
“誰かの視線”を感じていた。
アリス:「……感じる? この気配……どこかから、私たちを“観測”してる。」
ディネ:「風の流れが乱れてる……まるで、空間そのものが“凝視”してるみたい。」
ノーム:「嫌な圧を感じますね。これは……自然のものではありません。」
船の外では、星々が微かに揺らぎ、
一つ、また一つと光が消えていく。
まるで“宇宙そのもの”が削り取られているようだった。
サラ:「アリス……星が、消えてる。」
アリス:「――来たわね。虚空の領域。」
前方の空間が黒い渦に歪み、
そこに浮かぶのは、光を拒む“暗黒の球体”――。
それが、“星の檻”。
ノーム:「伝承にあった……“創世以前の神々”を封じた、禁断の宙域!」
アリスは静かに頷き、
星の羅針盤に手をかざす。
アリス:「行こう。真実は、この闇の向こうにある。」
《アステリア号》が闇の中心へと突入した瞬間――
あらゆる光が奪われ、時の流れが止まった。
音も、熱も、感情すら凍る“虚空の世界”。
その中で、ひとつだけ輝く金の瞳がアリスを見つめていた。
???:「――ようやく、来たか。創世の継承者よ。」
その声は、宇宙全域に響き渡るように重く深い。
姿を現したのは、黒と銀の衣を纏った男。
彼の背後には、星の死を象徴するような“虚無の翼”が広がっていた。
アリス:「あなたが……“虚空の王”?」
男:「そう呼ぶ者もいる。だが、かつては我も“創世の神”の一柱だった。」
リュシエ(通信越し):「創世の神族……まさか、生き残りが!」
虚空の王:「我らは消えたのではない。
“神の罪”を背負い、宇宙の外側へと追放された。
――“創る”ことの罪をな。」
アリス:「創ることが……罪?」
虚空の王:「そうだ。神は世界を創り、だが同時に“滅び”をも創った。
始まりがあれば、終わりが生まれる。
我らは“終わり”を抹消するために、あらゆる可能性を封じた。」
アリス:「……それが“星の檻”。」
虚空の王:「お前たちの創世は、再びその“罪”を呼び覚ました。
お前が選んだ“星暦”は、宇宙の自己崩壊を加速させる――!」
サラ:「うそっ! アリスが創った未来が……滅びを呼ぶなんて!」
アリスは唇を噛み、静かに虚空の王を見据えた。
アリス:「……それでも、私は選んだ。
“止まった永遠”より、“変わり続ける未来”を。」
虚空の王:「ならば証明せよ。創世の継承者――
“神の理”を超えられるかどうかを!」
空間が反転し、闇が咆哮する。




