200 星界編 ― 終焉域の果てに part6
二人の剣がぶつかり、時が止まる。
互いの瞳が交錯する――
そこに宿っていたのは、怒りでも憎しみでもなく、理解だった。
エル=シオン:「……君は、“終わり”を恐れないのか。」
アリス:「恐いわよ。でもね――
“終わり”があるからこそ、“生きる”ことに意味がある。」
エル=シオン:「……そうか。
神々には決してわからなかった答えだ。」
彼は静かに剣を下ろした。
その体が光に変わり、風に溶けるように消えていく。
エル=シオン:「君が“未来を紡ぐ者”なら……
私は、“過去を眠らせる者”でいよう。」
アリス:「……ありがとう。」
白い光が空を包み、終焉域が静かに閉じていった。
そして、アリスたちは再び《アステリア号》に戻る。
ディネ:「これで……ようやく世界は救われたのね。」
ノーム:「いえ……むしろ新しい“始まり”が訪れようとしています。」
サラ:「ふふっ、つまり、次の冒険が待ってるってことでしょ?」
アリスは微笑み、空を見上げた。
そこには、新たに輝き始めた一つの星――“エル=シオンの星”があった。
アリス:「行こう。まだ、知らない空がある。」
《アステリア号》は静かに進路を変え、
新たなる星海へと飛び立った。
《アステリア号》は、星々の海を越え、
エル=シオンの残した“創世航路”の最後の記録へと向かっていた。
ノームが船のコントロールパネルを操作し、古代の星図を展開する。
そこに浮かび上がったのは――ひとつの光輪。
宇宙の果てにぽっかりと空いた、星々の空洞だった。
ノーム:「これが……“創世樹”の眠る領域、《セレスティアル・ホロウ》です。」
ディネ:「光が……逆流してる? まるで、時間が吸い込まれていくみたい。」
サラ:「空の中に、もうひとつの“空”がある……変な感じ。」
アリスは静かに息を整えると、
コントロールルームの窓越しに見える“光の渦”を見つめた。
アリス:「行こう。この先に……神々が恐れたものがある。」
《アステリア号》はゆっくりと光渦の中へ進入した。
その瞬間、船体を包む重力が反転し、
彼らの意識は、“上下も時間もない空間”へと投げ出された。
彼らが目を覚ました場所は――
星の破片が漂う、無重力の“星の墓標地帯”。
そこには、枯れた樹のようなものが立っていた。
だがその樹は、根を空間の裂け目に差し込み、
枝は異なる次元に伸びていた。
ノーム:「……これが、“創世樹”……?」
ディネ:「まるで、世界そのものを縫い止めているみたい。」
サラ:「でも、何かが……泣いてる。」
アリスが一歩近づいた瞬間、
彼女の足元に白い紋様が走った。
声が響く。
それは――懐かしくも、恐ろしくもある“創造の声”。
『我らが遺した“始まりの樹”に、何を求める?』
アリス:「あなたは……創世樹の“意識”?」
『意識……いや、“残響”。
我ら神々が最後に恐れ、封じた“命の概念”そのもの。』
ディネ:「命の……概念?」
『神々は生命を創ったが、その進化を恐れた。
進化はやがて、創造主を超える。
だから我らは“創世樹”を封印した――この星界の最果てに。』
アリス:「つまり、あなたが……神々にとっての“恐怖”なのね。」
その瞬間、樹の幹がゆっくりと開いた。
中から現れたのは――光の人影たち。
それはかつて滅びた神々の意識体。
『我らはもう“神”ではない。ただの欠片。
だが、創世樹が再び動けば、全ての世界は繋がり――
“新たな創世”が始まる。』
アリス:「新しい創世……それって、また同じ輪廻を繰り返すだけじゃない?」
『そうかもしれぬ。だが、“終わりなき存在”こそ、神の救済だ。』
アリス:「……違う。
終わりがあるからこそ、“生きる”意味があるの。
あなたたちは、永遠に“止まった時”の中で、
生きることを忘れてしまった。」
アリスの言葉が届いた瞬間、創世樹が震えた。
幹の内部から、脈動のような光が走り出す。
ノーム:「アリス! 魔力反応が急上昇しています!」
ディネ:「このままじゃ、世界構造そのものが書き換わる!」
サラ:「止めないと――!」
アリスは剣を抜き、創世樹の中心へ向かって走る。
だが、そこから無数の“光の触手”が伸び、彼女を捕えようとした。
『アリス・フィーネ。
君の中に眠る“原初の核”――それは我らが失った最後の種だ。
君を取り込めば、創世樹は再び“完全”になる。』
アリス:「……やっぱり、私を“核”にするつもりなのね。
でも――私は“人間”として、生きる!」
彼女の魔力が爆発し、
三大精霊の力が彼女の背後で輝く。
ディネ:「アリス! 私たちの力を合わせるわ!」
ノーム:「大地が君を守る!」
サラ:「そして、炎が道を拓く!」
三つの魔法陣が融合し、アリスの剣が創世剣アルトリアへと変化する。
アリス:「創世樹――私は、あなたを“滅ぼす”のではなく、“目覚めさせる”!」
剣が光を放ち、樹の幹を貫いた。
その瞬間、樹全体が黄金色に染まり、
まるで宇宙そのものが息を吹き返すかのように震え始めた。
樹の幹から流れ出した光は、
星界全体へと広がっていった。
『我ら神々は……“恐怖”から逃げていたのだな。
終わることを恐れ、変わることを拒んでいた。』
アリス:「変わることは、怖いわ。
でも、それが“生きる”ってこと。」
『ありがとう、アリス。
ならば、我らは静かに消えよう。
新たな創世を、君たち人の手に託す。』
光が風に溶け、神々の声は静かに消えていく。
創世樹は再び沈黙し――
ただ、優しい光だけが残った。
《アステリア号》の甲板に、穏やかな光が差し込む。
それは、星界で初めて訪れた“朝”だった。
ディネ:「……きれい。」
サラ:「これが、本当の“始まり”なのね。」
ノーム:「エル=シオンの星も、輝きを取り戻しています。」
アリスは静かに剣を鞘に納め、微笑む。
アリス:「創世樹が目覚めたことで、
この世界はもう“終焉域”を超えたのね。」
ディネ:「次は、どこへ行くの?」
アリス:「――“空の果て”よ。
そこに、まだ知らない“未来の種”がある気がするの。」
《アステリア号》は静かに再び航路を進める。
背後では、創世樹の枝がゆっくりと星光を放ちながら、
新しい宇宙を紡ぎ始めていた。
ついに、200回に突入です。
読者のみなさん、本当にありがとうございます。
誤字のご報告をいただいた方も本当にありがとうございます。




