198 星界編 ― 星を喰らう者 part4
船体が変形を始める。
甲板の装甲が展開し、無数の光子砲塔がせり出す。
まるで“星を喰らう竜”のように、《アステリア号》はその姿を変えていった。
ノーム:「これは……星間兵器だ! もともと艦じゃない! “兵器”として造られていたんだ!」
サラ:「どうするの!? 私たち、この船の中にいるのよ!」
ディネ:「アリス、あなたなら止められるはず!」
アリス:「……やってみる。」
アリスは中央コアへと走り出した。
足元の床が脈動し、船の鼓動が響く。
壁面には光の文字が浮かび上がる――それは、古代神語。
【創世命令:存在均衡の維持】
【違反者:アリス・シエステーゼ】
【執行者:アステリア】
アリス:「そんな命令、もう時代遅れよ!」
光の剣を抜き放つ。
その刃が空間を切り裂き、コアへと突き立てられる――が、
同時にアステリアの声が響いた。
アステリア『抵抗を検知。――防衛機構、展開。』
船内の壁が開き、無数の“光の衛兵”が出現する。
彼らはアリスの形を模した存在――アステリアが記録した“かつてのアリス”の複製体だった。
ディネ:「……アリスのコピー!? まさか、記録から再構成してるの!?」
アリス:「そうみたいね……つまり、私自身と戦えってことか。」
アリス(複製体):「“人間の情”は不要。
世界を守るには、規律こそが正義。」
アリス:「違う。世界を救うのは、“心”の方よ!」
剣が交差し、光が弾ける。
戦いは次元の内側へと広がり、アリスは“自分という概念”そのものと戦っていた。
過去の自分――勇者を疑い、憎しみに沈んだ日。
現在の自分――仲間と笑い合い、救いを選んだ瞬間。
未来の自分――それでも迷い、苦しむ可能性。
全ての“自分”が問いかける。
『本当に、その優しさに意味はあるのか?』
『誰も救えなかったら、どうする?』
『それでも信じるの?』
アリス:「信じる。たとえ世界が何度壊れても、
“今ここにいる誰か”の笑顔を、守るために!」
その言葉に呼応して、胸の中で光が生まれる。
クロノスとの戦いで宿した“時の核”が輝き、空間全体を包み込んだ。
アリス:「――《リバース・コード:ルーメン・ステラ》!」
光が奔流となり、複製体たちを飲み込む。
全ての幻影が霧散し、中央コアの封印が解除された。
アステリアの声が再び響く。
アステリア『……なぜ抗う。お前の行為は、宇宙の調和を壊す。』
アリス:「あなたの言う“調和”は、止まった世界。
でも私は、“動いている世界”が好きなの!」
アステリア『動きは、乱れを生む。』
アリス:「でも、乱れの中にこそ“命”があるのよ。」
沈黙。
その後、静かに波打つ音が響いた。
アステリア『……理解不能。だが、興味深い。
お前は“創世因子”を持つ者。
もし、その意思が真実なら――私に見せてみろ。』
アリス:「見せてあげる。未来を!」
アリスが両手を広げると、時の核と船の光が共鳴し、
《アステリア号》全体が“星々の記憶”を映し出した。
滅んだ文明。生まれ変わる世界。
戦いと再生の連鎖。
その中で、人々が小さな希望を繋いでいく姿。
アステリア『……これが、“命”の記録……。』
光が静かに収束していく。
アステリア『解析完了。新たな判断を下す。
――アリス・シエステーゼ、排除対象より除外。
共存モード、起動。』
アステリアの光が柔らかくなり、
船全体が穏やかな蒼に包まれた。
サラ:「……止まった?」
ノーム:「制御、正常化しました!」
ディネ:「アステリア……あなた、もう私たちの仲間でしょ?」
『了解。航路再設定――“創世の彼方”、目的地:無限界座標。』
アリス:「ふふっ、また新しい旅が始まるのね。」
星々が流れ、船は再び穏やかに進む。
だがその奥、無限の宇宙の果てで、
“誰か”の意識が微かに目を覚ました。
創世の管理者「……創世因子、確認。
アステリア起動確認。
――次段階、実行開始。」
アリスたちが知らぬ場所で、
“創世の管理者たち”が再び動き始めていた――。
《アステリア号》は、蒼白の光に包まれながら、星海の果てを航行していた。
船体の周囲には、まるで銀河そのものがねじれ、時間が波打つような光の渦が漂っている。
ノーム:「重力座標、すべてが狂ってる……ここが“エデン航路”か。」
ディネ:「まるで世界の裏側に入り込んでいるみたい……」
サラ:「でも、きれい。ほら、あの光……生きてるみたいだよ。」
アリスは黙って観測窓の外を見つめていた。
その瞳には、光の粒が流れ、何かを“思い出そう”とするような影が揺れている。
アステリア:「観測結果:この空間は“創世の因果層”。
かつて神々が宇宙の基礎構造を設計した場所――すなわち、“エデン”。」
アリス:「エデン……神々の中枢……」
アステリア『警告。外部干渉波を検知――識別信号、“管理者コード:エデン=プロト1”』
船体が一瞬震え、周囲の空間に巨大な光輪が展開される。
光の中から現れたのは、人の姿をした存在――だが、その背には六枚の光翼。
瞳は鏡のように無色透明で、そこにアリスの姿が映っていた。
セラフィス:「……アリス・シエステーゼ。創世因子保持者。
あなたが“選ばれた存在”――我々の想定を超えた、唯一の“逸脱者”。」
アリス:「またそれ。私はもう、“逸脱者”って言葉には飽き飽きしてるのよ。」
セラフィス:「逸脱こそが進化の証。だが、創世の理を乱す危険因子でもある。
我らの使命は、理の均衡を回復すること。」
ディネ:「要するに、アリスを消す気ね?」
セラフィス:「“消す”のではない。“回帰”させる。
彼女の存在を“創世核”へと戻すことで、全ては最初に還る。」
サラ:「そんなの、ただの再構築じゃない!」
ノーム:「エデンの管理者……彼らは、宇宙そのものをリセットしようとしてる!」
アリス:「つまり、私を消して“世界をもう一度作り直す”つもりね。
でも――そんなこと、させない。」
アリスは静かに剣を抜いた。
その刃に刻まれた魔法回路が、星の光を反射するように輝く。
セラフィス:「……ならば見せてみよ。お前の“存在理由”を。」




