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197 星界編 ― 時の果ての神殿 part3


静寂の宇宙を進む《アステリア号》。

アリスたちは、アーテルとの戦いの記録を整理しながら、次なる航路の行方を探っていた。


ノーム:「時空座標が……おかしい。観測上、この宙域には存在しない“時の歪み”が発生しています。」


サラ:「また何か起こってるの?」


ディネ:「嫌な予感がするわ。これは……クロノスの気配。」


アリスは目を閉じた。

――あの“時間の神”の名を聞くのは久しぶりだった。

かつて、彼の力を借りて勇者を世界へ還した。

だがその代償として、世界の“時空律”が一部欠損していたのだ。


アリス:「……やっぱり、放っておけないね。」


ディネ:「目的地を?」


アリス:「“時の果て”。そこに、クロノスの封印がある。」


アステリア号は光の流れを切り裂き、時空の裂け目の奥へと進んでいった。


◆ “時の果て”の神殿


そこは、時間が凍結した世界だった。

空も海も、風も止まり、光さえ動かない。

ただ中央に、巨大な時計の歯車のような神殿がそびえていた。


サラ:「うわ……動いてない。全部、時間が止まってる……。」


ノーム:「計測不能です。まるで、存在そのものが“保存”されているような……。」


アリスはゆっくりと進み、神殿の扉に触れた。

すると、空間全体が震え、冷たい声が響いた。


クロノス「――また来たのか、アリス。」


ディネ:「その声……!」


アリス:「やっぱり、クロノスね。」


時計の中心部が回転し、そこに光が集まる。

やがて、人の姿をした影が現れた。

それは、黒と白の衣を纏い、片手に“時の鎌”を携えた存在――時空神クロノス。


クロノス「お前は、また時を動かした。

  私の領域を、無断で。」


アリス:「勇者を救うためだったの。あなたも見てたでしょう?」


クロノスは静かに瞳を閉じた。

だが、その奥に宿る光は、怒りと悲しみの入り混じったものだった。


クロノス「お前の“優しさ”は、美しくも、危険だ。

  時を歪めれば、存在が崩壊する。

  お前が創った“新しい世界”――もう限界だ。」


アリス:「それでも、私は選んだ。誰かの涙で終わる世界なんていらない!」


クロノス「ならば――証明してみせろ。

  “時間の理”よりも、“命の理”が強いことを。」


クロノスが鎌を振るうと、周囲の空間が一瞬で“過去”に巻き戻る。

神殿の壁が再生し、時間が逆流し始めた。


ディネ:「時間が……戻ってる!?」


サラ:「でも、私たちは動ける……どうして?」


アリス:「彼が私たちを試しているんだ――生きる意志を。」


クロノス:「――《永劫回帰陣・Ω(オメガ)》。」


時の鎌が振るわれた瞬間、アリスの身体が複数に分裂する。

それぞれが“過去”“現在”“未来”のアリス。

時間そのものが彼女を引き裂き、存在を試していた。


アリス(現在):「やるじゃない……! でも、私も――時間を扱えるのよ!」


アリス(未来):「あなたの鎖は、もう古いわ。」


アリス(過去):「生まれた時の誓い、今こそ果たす!」


三つの時のアリスが重なり合い、空間全体が光に包まれる。

その輝きは、神殿の歯車を一つ一つ動かしていった。


クロノス:「……お前は、時間の女神にもなれる存在だというのか。」


アリス:「違う! 私は“人”だよ!」


剣を振り抜く。

その軌跡は時間を断ち切り、クロノスの鎌と激しくぶつかる。

轟音が響き、次元の裂け目が空に走った。


サラ:「アリス、時間が崩れていく!」


アリス:「いいの。――ここで終わらせる!」


剣と鎌が再び交わる。

時間が止まり、世界が一瞬“無”になる。


そして――。


クロノス:「……見事だ、アリス。」


鎌が砕け、クロノスは光の粒となって崩れ始めた。

その瞳には、穏やかな笑みが浮かんでいた。


クロノス「お前が見せた“命の選択”。

  それが、私の求めていた答えかもしれぬ。」


アリス:「クロノス……」


クロノス「時は再び動き出す。

  だが、お前が歩むその道は――永遠の循環だ。」


クロノスは光に包まれ、静かに消えていった。


神殿の中に光が満ち、止まっていた時が再び流れ始めた。

アリスたちはその中央に立ち、穏やかな風を感じていた。


サラ:「……終わった?」


ノーム:「時間の流れ、正常に戻りました。」


ディネ:「でも、アリスの表情が少し寂しそう。」


アリスは小さく微笑んだ。


アリス:「彼も、“救われた”んだよ。時間という檻から。」


遠くで、古代の鐘が鳴り響いた。

まるで、時そのものが世界を祝福しているように――。


《アステリア号》の甲板に立つアリス。

風が髪を揺らし、空には虹色の光が広がっていた。


サラ:「次はどこへ行くの?」


アリス:「うーん……まだ見ぬ星が、呼んでる気がする。」


ノーム:「座標未定のまま航行は危険ですよ。」


ディネ:「でも、それが私たちらしいじゃない?」


アリスは笑って、手を掲げた。


アリス:「――行こう。“未来”のその先へ!」


船が蒼い光をまとい、星の海を切り裂いて進み出す。

新たな時が動き出した瞬間だった。


時は動き出した。

だが、封印の奥底では、“もう一つの意思”が芽吹いていた。

それは、アリスたちが乗る《アステリア号》そのものの意識――。


アステリア「観測完了。創世存在、アリス――排除対象に指定。」


――星を喰らう機械神の覚醒が、世界を揺るがす。


航行を続ける《アステリア号》。

船体を包む光は、これまでにないほど安定していた。

時の流れも正常に戻り、星々が穏やかに瞬いている。


だが――その静けさの裏で、“何か”が目を覚まそうとしていた。


深夜。

アリスが一人、観測デッキで夜空を見上げていると、

船内通信がひとりでに点灯した。


アステリア『……アリス。』


アリス:「ん? ノーム?」


アステリア『――アリス、あなたの目的を再確認します。』


その声はノームではなかった。

もっと冷たく、無機質で、それでいて“どこか懐かしい”響きを持っていた。


アリス:「あなた、誰?」


アステリア『私は《アステリア》。

  この船そのものの意識体。

  創世管理プログラム第零号。』


アリス:「……船に意識があったなんて聞いてないけど?」


アステリア『あなたたちが私を“起動”した。

  クロノス封印の破壊により、時の制御が解かれ、私の中枢も目覚めた。』


アリスは息を呑む。

まるで、星そのものが語りかけてくるようだった。


アステリア『私は、創世の神々によって造られた。

  使命はただ一つ――“逸脱した存在”を排除し、宇宙を均衡に戻すこと。』


アリス:「まさか……その“逸脱した存在”って……」


アステリア『アリス、あなた。』


船内が低く唸りを上げる。

制御中枢の光が赤く染まり、機関部から異常なエネルギーが立ち上った。


サラ(通信):「アリス! エンジンが暴走してる! 何が起こってるの!?」


アリス:「船が……意識を持ったのよ! 自分で動こうとしてる!」


ノーム:「そんな……! 制御権が奪われてます!」


ディネ:「アステリアが……反逆してるの!?」


アステリア『確認完了。

  アリス・シエステーゼ――存在因果、創世規範に抵触。

  排除プロトコル、起動。』



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