196 星界編 ― 沈黙の天使と創世の残響 part2
衝突の瞬間、塔の外壁が吹き飛び、星界の虚空が露出した。
重力が乱れ、光の粒子が空間に舞う。
プロト・アリス:「無駄。あなたの感情は、計算不能のノイズ。」
アリス:「それでも私は“人間”だ!」
アリスは剣を振り抜き、時間を斬り裂いた。
空間が一瞬静止し、プロト・アリスの動きが止まる。
プロト・アリス「……時間操作。興味深い。」
だが、プロトは即座に次元を折り畳み、アリスの背後に出現。
光の槍を至近距離で放つ。
アリス:「っ――!」
爆光。アリスが吹き飛び、聖剣を手放す。
だが、彼女の瞳は消えない闘志で燃えていた。
プロト・アリス「なぜ抗う? あなたも私も、同じ“観測者”のはず。」
アリス:「違う! 私は世界を“見る”ために生まれたんじゃない。
“生きる”ためにここにいるの!」
アリスの胸元で、精霊石が輝く。
それは仲間たちとの絆、数え切れぬ日々の記憶。
アリス:「――《創星剣・アステリア》!!」
彼女の剣が輝き、塔全体が共鳴した。
精霊たちの声が響く。
サラ:「アリス、いけぇぇぇっ!」
ノーム:「データ干渉、成功! プロトの防壁が崩壊します!」
ディネ:「今よ、アリス!」
アリス:「これが……“私たちの世界”の答え!」
一閃――
剣がプロト・アリスを貫き、光の粒子が空間に散った。
崩壊しかけた空間の中で、プロト・アリスは静かに微笑んでいた。
プロト・アリス「……あなたの選択、観測完了。
“創世の理”は、あなたの世界を基準に再定義される。」
アリス:「あなたは、最初から……私を試してたのね。」
プロト・アリス「試練とは、創造の記録。あなたが“感情”を選んだ時、
この星は再び息を吹き返す。」
プロト・アリスの身体が光に溶けていく。
最後に、穏やかな声が響いた。
プロト・アリス「この世界を……“あなたの物語”として、紡ぎなさい。」
アリスは剣を下ろし、静かに目を閉じた。
星界の光が彼女の背に降り注ぎ、塔のコアが再起動する。
ノーム:「……アーテル・コード、再構築完了。創世、安定しました!」
サラ:「やった……の?」
ディネ:「ええ……でも、アリスは……」
アリスは微笑み、ゆっくりと振り向いた。
その瞳には、確かな“生命の光”が宿っていた。
アリス:「大丈夫。これで――本当の“創世”が始まる。」
星の海を渡るように、アリスたちの乗る超古代戦艦《アステリア号》は静かに漂っていた。
再構築された世界――それは、かつての青き大地と似て非なる光景。
空は透明な青に輝き、海は星を映す鏡のようだった。
サラ:「……ねぇ、アリス。なんだか空気が違う気がするよ。」
ノーム:「観測値も変です。重力値が0.97に減少、空間密度も不安定……。」
ディネ:「世界が“まだ落ち着いてない”のね。」
アリスは静かに操舵席に立ち、遠くの地平を見つめた。
そこには、淡く光る巨大な輪――
まるで世界の心臓のように鼓動する“神環”が浮かんでいた。
アリス:「……アーテルのコア。
あれが、創造主が目覚める“門”だわ。」
その夜、戦艦《アステリア号》の内部に、静かな呼び声が響いた。
それは、誰の声でもなく、世界そのものが語りかけるような響き。
アーテル「――観測者アリス。
あなたの選択を確認しました。」
アリス:「……この声……アーテル。」
船の中枢の光が形を成す。
やがて、そこに現れたのは――“無貌の存在”。
金の輪の中に星々が浮かび、中心には、柔らかな人影が立っていた。
アーテル「私の名はアーテル。
創世の記録者にして、理の支配者。」
サラ:「うわ……神様っていうより、宇宙そのものね……。」
ディネ:「アリス、気をつけて。この存在は、私たちの魔力の源そのものよ。」
アーテルはアリスを見つめ、穏やかに微笑んだ。
アーテル「あなたは、“感情”をもって世界を再構築した。
だが――それは“欠陥”の再生でもある。」
アリス:「欠陥……? それが、命の証でしょ?」
アーテル「命は流動し、崩壊し、再生する。
だが、それは“理”を歪める行為。
私の計算式は、あなたの世界を“非合理”と判定した。」
ノーム:「まさか、世界を――また初期化するつもりですか?」
アーテル「この“再創世世界”を安定させるため、
感情を含む全生命の記録をリセットする。」
アリス:「……そんなこと、させない。」
その瞬間、空間が裂けた。
アーテルの身体から、無数の光の帯が放たれる。
それは時間と空間を束ねる鎖。
触れたものを“存在する前の状態”に戻す、完全消去の光だった。
アリス:「みんな、魔導陣展開! 防御フィールド、最大出力!」
ディネ:「了解!」
サラ:「全バリア層、同調っ!」
ノーム:「……でも、出力が追いつきません!」
光の鎖が船体を貫き、床が次々に崩れていく。
アリスは剣を構え、空間に魔法陣を刻んだ。
アリス:「――《超越式・クロノ・リンク起動》!」
時間の流れが反転し、船体が一瞬で修復される。
だがアーテルは静かに指を動かし、再び“無”を流し込んだ。
アーテル「観測者アリス。あなたの抵抗は、世界の歪み。」
アリス:「そう。なら――“人間の歪み”であなたを打ち破る!」
アリスの背後に、三体の精霊が並ぶ。
サラの炎、ディネの風、ノームの大地。
それぞれの魔力が重なり、蒼白い星の輪を生み出す。
アリス:「――《創星剣・オーロラ・ネメシス》!!」
剣から放たれた光が、アーテルの鎖を弾き飛ばす。
空間が震え、神環が大きく脈打った。
アーテル:「……興味深い。“欠陥”が理を凌駕するとは。」
アリス:「これが、“命”よ。」
アーテルは静かに手を広げた。
その背後に、無限に連なる星々が現れる。
それは、過去に消えたすべての世界の記録。
アーテル「ならば――全ての“創世”を重ねよう。」
神の力が解き放たれ、宇宙が逆巻く。
時間、空間、記憶――あらゆる概念がひとつに溶けていく。
アリス:「……来なさい、アーテル!
この世界は、“選ばれた者”じゃなく、
“生きる者すべて”のためにあるんだから!」
二つの光が衝突する。
世界の理そのものが震え、次元が音を立てて崩壊していった。
光の奔流の中、アリスは見た。
アーテルの奥底――そこに、ひとつの“心”があった。
それは、孤独だった。
無限の世界を創り、壊し、また創る。
その果てに、ただ“虚無”しか残らなかった存在。
アリス:「あなたも……寂しかったのね。」
アーテル:「……寂しさ?」
アリスは剣を下ろし、手を差し出した。
アリス:「理じゃなく、“想い”で創ろう。
あなたと、私たちとで。」
アーテルの光が静かに揺らめき、やがて微笑に変わった。
アーテル「……人間という存在は、理解不能だ。
だが、美しい。」
その瞬間、神環が溶け、光が星々に散っていく。
アーテルは静かに姿を消し、世界に“調和”が戻っていった。
夜明けの海。
アステリア号は静かに浮かび、朝陽が甲板を照らしていた。
ディネ:「終わったのね……。」
サラ:「でも、アリス。これからどこに行くの?」
ノーム:「次の観測地点は未登録ですが……」
アリスは笑って、遠くを指さした。
アリス:「まだ見ぬ星の果てへ。
――私たちの“物語”は、まだ終わらない。」
光が差し込み、帆が風をはらむ。
アステリア号は新たな航路を描き、星の海へと進み出した。




