194 グレイン島編 part2
守護者ゴーレムは、まるで山のような巨体を誇っていた。
その眼に宿る青光は冷たく、
アリスたちを侵入者と認識するや否や、無言で拳を振り下ろす。
アリス:「来るっ!」
ノーム:「防壁展開!」
ディネ:「光矢連射っ!」
サラ:「燃えろぉぉぉおおおおっ!!!」
火と光が交差し、衝撃波が洞窟全体を震わせる。
だが、守護者の装甲は厚く、簡単には崩れない。
アリスは一歩前に出た。
アリス「――“理の剣・クロノ・エクリプス”、起動。」
時間が静止し、彼女の剣に時の光が宿る。
ゴーレムの動きが止まったその瞬間、
アリスは斬撃を三度走らせた。
――《時間断層・三連閃》
光が走り、巨体の胸部に大きな裂け目ができる。
ディネの光の矢がその隙を突き、ノームの魔法が核を封印。
最後にサラの炎が爆ぜ、守護者は崩れ落ちた。
ゴーレム:「……確認完了……“光の観測者”認証……開門、許可……」
重厚な音とともに、戦艦の扉がゆっくりと開かれる。
内部は静寂に包まれていた。
黄金の管が艦内を走り、中央に巨大な魔導炉が眠っている。
アリスがその核に手を触れると、艦が低く唸りを上げた。
《起動条件、認証完了。戦艦“アル・グレイア”、浮上を開始。》
ディネ:「う、浮いてる!? 本当に空に――!」
サラ:「わあああああっ! すごい! 島が、下に見える!」
ノーム:「これが……神々の時代の力……!」
アリスは風に髪をなびかせながら、遠くの空を見つめた。
アリス「……第二の創世。この空の果てに、その真実があるのかもしれない。」
ディネ:「また休む暇なさそうだね。」
サラ:「でも、楽しみじゃない? 空の旅だよ!」
ノーム:「未知の世界が待っている――ですね。」
アリスは微笑み、手を掲げた。
アリス「行こう。アル・グレイア、発進!」
光が走り、戦艦は雲を突き抜け、青空の彼方へと飛び立つ。
アリスたちが船の中を探索していると、大きな扉の部屋があった。
ノーム:「きっとコントロールルームですね。」
◆戦艦アル・グレイアの中心――コントロールルーム
そこは円形の空間で、壁一面に古代の魔導制御装置が並び、
中央の制御核が淡く光を放っていた。
ノームが床の文様に触れると、
幾重にも重なる魔法陣が浮かび上がり、宙に青い投影が現れる。
ノーム:「……出ました。これは、過去の航行記録です。」
半透明の光の線が空間を走り、
アル・グレイアが辿った軌跡が星々の間に描かれていく。
それは空を超え、やがて――星々の海、宇宙へと続いていた。
アリス:「これ……大気圏を突破してる?」
ノーム:「はい。この船は、空ではなく“宇宙”を航行していたようです。」
サラ:「えぇー!? 空を飛ぶどころか、宇宙まで!? そんなの聞いたことない!」
ディネ:「でも、見て。記録の最後……なにか印があるわ。」
ディネが指さした投影の先、
一つの星域が、深紅に点滅していた。
そこに刻まれた古代文字――
《セレスティア・アーク──“沈黙の天使”の聖域》
ノーム:「ここが……“禁じられた星の領域”……。
アル・グレイアは、そこに向かって航行していたようです。」
アリス:「“沈黙の天使”……。それに“空の民”。
彼らが古代神を崇めていた……ってこと?」
ノームが次の投影を操作すると、さらに映像が展開された。
それは、かつてアル・グレイアが遭遇した“空の民”の映像だった。
彼らは銀の羽を持ち、星光を編んで都市を築く民――。
その中心には、“星の神殿”と呼ばれる輝く塔がそびえ、
塔の頂には、“沈黙の天使”と呼ばれる巨大な存在が翼を広げていた。
ディネ:「これが……空の民?」
サラ:「……きれい。でも、どこか怖いね。」
アリス:「……この映像、途中で切れてる。
最後に記録されてるのは――“沈黙”という文字。」
ノーム:「通信断絶の記録……おそらく、何かが起こったのでしょう。」
アリスは、制御盤の前でしばらく黙っていた。
そして――ゆっくりと口を開く。
アリス:「行こう。」
ディネ:「行くって……まさか、そこに!?」
サラ:「やっぱりー! アリスがそう言うと思った!」
ノーム:「危険ですよ。星の外、重力も魔力も未知の環境です。」
アリス:「それでも確かめたいの。
この船がなぜ作られたのか、
“光の観測者”の意味が何なのか。
そして、“沈黙の天使”とは何者なのか――。」
ディネは溜息をつき、口元に笑みを浮かべた。
ディネ「まったく……アリスって、止まるってことを知らないのね。」
サラ:「でも、そういうとこが好きよ。」
ノーム:「……わかりました。ならば、航路を設定します。」
ノームが魔導盤に手を置くと、
アル・グレイア全体が低く唸りを上げ、
巨大な魔導炉が再点火した。
《航行ルート確立──“セレスティア・アーク”へ。》
甲板の上、アリスたちは風を受けて立っていた。
空が光に満ち、重力の束縛がほどけていく。
サラ:「わっ……浮いてる! もう、雲が下に見える!」
ディネ:「いよいよね。……空を超えるなんて、どんな景色なんだろ。」
ノーム:「空間転移術式、安定しています。大気境界を突破します――!」
空が白から青、そして漆黒へと変わっていく。
星々が広がり、世界が静寂に包まれた。
アリスは前方の宇宙を見つめながら、静かに呟く。
アリス「……この先に、“沈黙の天使”がいる。
そして、私たちが知らなかった“もう一つの創世”が待っている――。」
航行中、ノームは艦内の魔導記録から、さらなる断片を発見した。
《星の神々はかつて、“沈黙の天使”を介して世界を管理した。
だが、天使たちは“声”を失い、観測者を拒んだ。
神の理が崩れた時、観測者は再び“門”を開く。》
アリス:「……また“門”。
異界の門も、これと繋がっていたのかもしれない。」
ノーム:「すべての異界現象は、“創世記録”の再現なのかも……。」
その瞬間、艦体の奥から小さな震動が走った。
艦の前方――漆黒の宇宙に、巨大な白い輪が浮かび上がる。
それはまるで、“天の門”そのもの。
静かに、しかし確実にアリスたちを誘っていた。
アリス:「……あれが、“沈黙の天使”の聖域……?」
ディネ:「なんか、嫌な感じがする。
この光……生きてるみたい。」
ノーム:「エネルギー反応、限界を超えています!
でも……避けられません!」
サラ:「アリス!」
アリスは前を見据えたまま、微笑んだ。
アリス「行こう。――運命が呼んでる。」
アル・グレイアは星の門へ突入する。
その光が艦を包み、時空がゆがむ。




