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192 パルキニア共和国 アーテル編 part2


ライラは空間制御魔法でアリスの背を守り、聖女は聖属性の防壁を張る。

だがアーテルの放つ魔法は、概念干渉級。


アーテル「《ディレイ・ロゴス》――過去の自分が、今の攻撃を放つ。」


アーテルが指を鳴らすたびに、過去・現在・未来の三重奏がアリスを襲う。

空気の歪みが、未来の剣を生み、過去の光が盾を砕いた。


アリスは瞬時に理解した。

(この戦い……“時間の外側”で行われてる。)


アリス「なら、クロノスの力――今こそ借りる!」


アリスは魔導書を開き、時空の紋章を描く。


だが、クロノスは現れなかった。

代わりに、静かな声が彼女の内に響いた。


クロノス『アリス……もう我は“過去”の存在だ。

お前が望むなら、我を超えよ。お前自身の“時間”で。』


アリスの胸の奥に、淡い光が宿る。

それは時を超える意思そのもの。

アリスは両手を広げ、世界の時間軸をねじ曲げた。


アリス「《アストラル・リライト》――この戦場の“今”を、私が書き換える!」


世界が白く光る。

アーテルの動きが止まり、彼の瞳が初めて驚愕の色を帯びた。


アーテル「……時間の原文に干渉しただと……?」


アリス:「あなたの理は完璧。でも、“完璧”だからこそ脆い。

 世界は不完全であるからこそ、生きていけるの!」


アーテルの翼がひとつ、砕けた。

その光の中で、彼は何かを思い出すように目を閉じた。


アーテル「……かつて、我も……願ったのだ。

救うことを。だが……神は……“選べ”と命じた。」


アリス:「だったら、もう選ばなくていい。

 私は、すべてを“抱く”!」


彼女の魔力が、空と大地とを繋げた。

ライラの詠唱、聖女の祈り、そして勇者だった少年の記憶さえも、光となってアリスに集う。


アリス「我は、北の魔王オルブレス――

すべての世界の境界を越え、

理を再定義する者!」


アーテル:「……汝こそ、**神を越える“意思”**か。」


その言葉と共に、光と闇が衝突した。

世界が消え、そして――再び形を取り戻す。


静寂。

空は再び青く、風はやさしく吹いた。


アリスは膝をつき、息を整える。

聖女がそっと近づき、微笑んだ。


聖女「終わったのね……アーテルは?」


アリスは遠くの空を見上げる。

そこには、消えゆく光が一つ――

まるで“祈り”のように、世界を照らしていた。


アリス「ううん。彼は消えてない。……“理の向こう側”で、まだ見てる。」


ライラ:「きっと、もう敵じゃないわね。」


アリスは静かに頷いた。

そして、風に向かって呟く。


アリス「神すら知らぬ真実――

 それは、きっと“生きること”そのもの。」


世界は再び動き出した。

だが、その深層――時の果ての果てでは、

まだ“神々の意志”の残響が、微かに脈を打っていた。


◆パルキニア共和国の港町バルスト


パルキニア共和国、南端の港町バルスト。

朝靄の中、陽光が海面を黄金色に染めていた。

漁船たちの鐘の音が響き、海鳥が白い軌跡を描いて飛ぶ。


桟橋に立つアリスは、潮風に髪をなびかせながら目を細めた。

背後から、三人の馴染み深い声が聞こえる。


ディネ:「ふぅー、やっと出番が回ってきたねぇ。」


サラ:「そうそう。最近、世界の理とか神とか、難しい話ばっかりだったし!」


ノーム:「平穏って大事ですよね。でも……この風、なんだか少し不穏です。」


アリスは微笑みながら、手にした航路図を広げる。


アリス「グレイン島――地図の上では、ただの無人島。でも古代の記録では“神の残響”が眠る場所。」


サラが紅茶を飲みながら、軽く肩をすくめた。


サラ「また“神”とか言ってる。今度はどんなの? 空から降る? 地下から出る?」


アリス:「さあね。でも、今回は少し違う。……あの島、何か“目覚めようとしてる”。」


帆船ルーミナ・エトワールが静かに港を離れた。

風が帆を膨らませ、潮が船首を白く跳ねる。

ディネがデッキで伸びをしながら笑う。


ディネ「やっぱり海はいいね! 空の色も、波の香りも、全部が生きてる感じ!」


ノーム:「でも気をつけてください。あの島の周囲、磁場が乱れてるみたいです。方位磁針が安定しません。」


アリスは空を見上げた。

雲の切れ間から、かすかに青白い光が降り注ぐ。


アリス「……“封印の余波”が、まだ続いてるのかもしれない。」



◆グレイン島 ― 神秘の眠る島


到着したグレイン島は、まるで時が止まったかのような場所だった。

島の中央には、巨大な石造の神殿――

蔦に覆われた柱、崩れかけた祭壇、そして中央には、巨大な石の巨人の影が沈黙していた。


サラ:「……ねえ、あれ、動かないよね?」


ノーム:「おそらく、古代文明期のゴーレム。けど……妙です。魔力の残留が強すぎる。」


ディネ:「あっ、見てアリス! 足元、光ってる!」


地面の紋章が、ゆっくりと脈打ち始める。

まるで心臓の鼓動のように――。


アリスは目を細め、手をかざす。


アリス「……封印じゃない。“目覚め”の陣式だわ。」


その瞬間、空が裂けた。

雷鳴が響き、神殿全体が震動する。

石像の眼が、青白く光った。


――《プロト・ディオス:起動確認》


サラ:「ひゃっ!? しゃべった!」


ノーム:「……人工知能型の制御核!? まさか、古代の神造兵器が……」


アリス:「ゴーレムじゃない。……これは、“神の模造品”だ。」


ディネ「つまり、神の力を機械で再現した存在ってこと? やっかいそうね。」


巨大な石の腕がゆっくりと持ち上がる。

その動きだけで、地面が揺れ、空気が震えた。

アリスは即座に詠唱を開始。


アリス「《クロス・フィールド》――重力位相、反転!」


ゴーレムの拳が地に落ちる前に、空間がねじれ、衝撃が逸らされる。

その隙にサラが炎の矢を放ち、ノームが地脈を制御して地面を固めた。


だが、ゴーレムは無傷だった。


アリス「……魔力吸収構造体。こちらの魔法を学習してる……!」


ディネ:「そんなのズルい! 学ぶの早すぎるでしょ!」


アリス:「やっぱり……“神の模倣”か。なら、今度は――本物を見せてあげる!」


アリスは両手を掲げ、空間に魔方陣を展開した。

それは封印の戦いで得た“理の核”の一部。


アリス「《アストラル・コード:再構築》――時空神の断片、起動!」


光が渦を巻き、神殿全体が時の流れを歪ませる。

時間が遅れ、石の巨人の動きが鈍化していく。


石の巨人「――識別。理外存在、アリス=オルブレス。危険度、神格級。」


アリス:「あら、ちゃんと名前を呼んでくれるのね。なら答えてあげる――」


彼女は微笑み、右手を前に突き出した。


アリス「――世界の理は、もう“神の独占物”じゃないのよ!」


放たれた光は、神のゴーレムの中心核を貫いた。

一瞬の静寂の後、巨体が崩れ、島全体を包む光の霧が消えていく。


戦いの後。

夕暮れの砂浜で、四人は焚き火を囲んでいた。


サラ:「ねえ、やっぱりのんびりできないね、私たち。」


ディネ:「まぁ、アリスがいる限り、冒険は続くってことでしょ?」


ノーム:「でも……あのゴーレムの制御核、まだ完全には壊れていませんでした。

何かを“伝えようとしていた”気がします。」


アリスは遠くの海を見つめ、静かに呟いた。


アリス「……あの声、“神の模造”じゃない。

 “神々の記録”そのものかもしれない。」


彼女の瞳には、再びあの黄金の光――“理”を視る光が宿っていた。


そして物語は再び。

――グレイン島の遺跡に残された“真なる神”の影が、静かに目を覚ます。


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