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183 パルキニア共和国 勇者召喚編 part1

アリスが南の島に戻ってはどこかに行くという可笑しさを、

強調したくて、話を飛ばした勇者召喚編について追加します。

<天の声>


話は少しさかのぼること、パルキニア共和国の勇者召喚時についてである。


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<混乱のパルキニア共和国>


かつて「知の神殿都市」とも呼ばれたパルキニア共和国。その中心にそびえ立っていた白銀の尖塔も、いまや瓦礫に沈み、天に祈る代わりに呻く声だけが木霊していた。

西の魔王軍の侵攻は凄まじく、魔術師神官たちの最前衛は一夜で崩れた。魔導兵団は壊滅し、聖印を授かる高司祭でさえ命を落とした。


だが、生き残った者たちがいた。

その一人、老神官トゥメル=ハーンは、もはや正道ではこの滅びを防げぬと悟る。

彼は迷うことなく、封印された「魔術禁止区画」へと向かった。


彼が手にしたのは、千年前の大崩壊の引き金となったとされる魔導書――

次元招喚典ディメンション・グリモワール》。


老神官トゥメル=ハーン「罪に手を染めようとも……我らに残されたのはこの希望なき光だけだ……!」


星の巡り、血の契約、供犠の儀式。

すべてを満たした時、天空が音もなく裂けた。


空が割れたその日、世界が軋む音がした


裂け目は、まるで“世界の皮膚”が引き裂かれたかのようだった。

裂けたその隙間の奥には、空も海もない、ただ“無”に近い灰色の領域が広がっていた。

そこに踏み込んだ者があった


一人の少年だった。

漆黒の外套に身を包み、手には見たこともない銀の剣。だが、目だけは澄みきっていた。


一人の少年「ここは……どこだ?」


彼は異世界から来た“勇者”。

その魂は、確かに英雄の運命を背負っていた。だが、召喚の術は不完全だった。

本来“調和”のうちに行われるべき儀式を、無理やり力で捻じ曲げた代償は、勇者の登場だけでは終わらなかった。


その代償として、世界に次元の歪みが広がった。

古文書によれば、次元の歪みは自然に閉じるはずだった。


しかし裂け目は閉じなかった。

いや、“閉じられなかった”のだ。時空の編み目がほどけ、ゆっくりと腐蝕するように、各地へ歪みが伝播していった。


リト王国では、裂け目の上空に浮かぶ渦が山を飲み込み、地形そのものを歪めていく。


ミケロス共和国では、幻獣ミスティ・ベイルが裂け目から漏れ出て、人の記憶を喰らい歩いた。


レイン王国では、裂け目の周囲にいる者たちの時間が巻き戻り、子供が老人へ、老女が少女へと化ける怪異が起きていた。


人々は恐れおののき、神に祈った。だがその祈りが届く頃には、裂け目は新たな災厄を運び続けていた。


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<パルキニアの首都モンテーヌ>


崩れた広場に立つその少年は、呼ばれた意味をまだ知らなかった。


少年「……僕は、なぜ来た?

   誰かが僕を“救いたかった”のか、それとも……“利用”したのか……」


彼の中には、確かに“力”があった。だが、それ以上に強く残っていたのは“迷い”だった。

その迷いが、これからの物語に大きな波紋をもたらすことを、彼自身もまだ知らない。


裂け目が開いたその日、世界は静かに崩れ始めた。

けれど、それを修復しようとする者たちもまた、静かに動き始めていた――。


パルキニア共和国の首都モンテーヌの中心に、巨大な魔力の渦が静かに広がっていた。

灰色の空に、亀裂のように黒く光る裂け目が浮かび、そこから絶え間なく異界の風が吹きつける。


大地は唸り、都市の石畳には異世界の文様が刻まれていた。

魔術師神官たちが命を削って召喚した「勇者」が姿を現した直後から、世界はわずかに狂い始めていた。


だが、その勇者の姿は、誰もが期待した「救世の光」ではなかった。


魔術師神官たち「なんということだ。……あれは、勇者なんかじゃない。異界の…“断罪者”だ。」


魔術師神官たちの前には、崩れた神殿跡に立つ勇者がいた。

銀の甲冑は禍々しい黒紫の魔力に染まり、目には神性とは無縁の怒りと狂気が宿っている。

召喚の不完全性――古代魔術の禁忌に触れた結果、現れたのは“救い”ではなく、“世界のバランスを壊す因子”だったのだ。


パルキニア共和国に派遣されていたパブロフ正教会の聖騎士団はこの事態をすぐに察知した。


聖騎士団「これ以上放っておけば、この世界の構造自体が崩壊する。」


聖騎士団は裂け目を見つめながら、思考を巡らせていた。


聖騎士団「時間がない…すでにミケロスとリト王国にも裂け目が転移している。次に拡大すれば、聖界と魔界の結界さえ超えてしまうかもしれない。」


聖騎士団はこの事態をすぐに本国に連絡した。

そして、ついにパブロフ正教国の聖女が動くことになった。


パブロフ正教国の聖女は、アリスと、次元構造理論に精通するライラ(レンブラン王国の学術騎士)を引き連れて、修復の任に就くことになった。


パブロフ正教国の聖女が現れた。

純白のローブに身を包み、目を閉じると、聖なる魔力が周囲を穏やかに包む。


聖女「私たちでこの“代償”を封じましょう。この世界を護るために。」


聖女の言葉に、アリスはうなずいた。


アリス「ライラ、結界式の分析を任せるね。私はあの勇者の影響を封じるから。」


ライラ「わかったわ。」


空間の裂け目を閉じるには、古代魔術と現代の封印術、さらに次元構造を知る高度な理論が必要だった。


ライラが展開したのは、〈時空連結式〉――十七層からなる魔法陣が空間に浮かび上がり、時と空間の歪みを逆流させる古の術式だった。


ライラ「式次第反転……第四環、交差位相調整、術式圧縮に入るわ!」


裂け目の縁からは、黒紫の魔力が噴き出し始めていた。

勇者の存在が、修復を妨害しているのだ。


アリス「時間を稼ぐ!」


アリスが空へ舞い上がる。彼女の横には時間を操る召喚獣クロノス、右手には光と闇の融合剣《ルミナス=ネメシス》が握られていた。


アリス「停止せよ。〈時間牢獄:エリオス・バインド〉!」


空間が凍りつき、勇者の動きが止まる。だが、次の瞬間――


勇者「……無駄だ。」


勇者の口から洩れた声と同時に、時の牢が砕け散った。


アリス「くっ……この勇者、時間干渉を跳ね返す…!? 異界の因子が強すぎる!」


聖女「それでも、やるしかありません!」


聖女が前に出て、聖なる光の槍を天に放った。


聖女「〈聖界儀式:七つの封鍵〉! 天に七つ、地に七つ、魂に一つ。これにて、裂け目を縛りたまえ!」


七本の聖なる鎖が空へ放たれ、裂け目の核心を絡め取っていく。


アリスと勇者が空中で激突する。アリスの剣閃が閃くたびに、空気が震え、雷光が地上を焼く。

勇者の剣は無慈悲なまでに重く、無限に再生する魔力が彼を包んでいた。


アリス「なぜ、こんな存在を……!」


聖女「神官たちは恐れていたのじゃ。魔王たちの力を。だから…“神”に近い力を呼び出そうとしたのじゃ。」


アリスの心に怒りが宿る。恐怖に支配された者たちが、理性を失い、禁忌を破り、世界そのものを壊しかけている。


アリス「だったら、私は…その全てを、修正する。」


アリスが最後の魔力を解放した。


アリス「〈世界断律〉――〈レゾナンス・オブ・ソウル〉!」


魂の共鳴が、勇者の動きを止めた。


アリス「今よ、聖女、ライラ!」


聖女が唱える最後の封印術。

ライラが次元魔法を調整。三者の力が融合し、空に巨大な紋章が浮かび上がった。


聖女「……この世界を、守りたまえ。」


裂け目は、静かに、しかし確かに閉じていった。


勇者は封印され、異界への扉も閉じられた。


アリスたちは、その場に膝をついた。


しかし、それは終わりではなかった。


リト王国にて、新たな裂け目の兆候が報告された。


それは、封じた勇者とは別の因子――


異なる次元の“別の存在”によって、開かれようとしていたのだった。


アリスは静かに立ち上がり、空を見上げる。


アリス「また…忙しくなりそうだわ。」


その眼差しは、確かに未来を見据えていた。


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