175 西の魔王編 part6
アリスたちは、連戦に次ぐ連戦で疲れていた。
一つ砦を救えば、また別の村が焼かれる。
一人を助ければ、別の誰かが倒れる。
どんなに戦っても、終わりが見えなかった。
サラ「……くそっ、追いつかない!」
ディネも必死に傷ついた仲間たちを癒していたが、限界が近い。
ディネ「このままじゃ……持たない。」
ノーム「……いくら僕たちが強くても、数が違いすぎますよ。
これでは、いずれ、押し切られます。」
そんな中。
アリスは、天を仰ぎ、拳を握りしめた。
心の奥底から湧き上がる焦りと、怒り、そして決意した。
アリス「もっと、力が必要だよ。」
そう、彼女は痛感していた。
今のままでは、ギエルには届かない。
ギエル四天王でさえ、まだ"本気"を出していなかったのだ。
真の戦いは、これからだというのに。
◆
そのとき、アリスたちの前に、月の女神セレネが現れる。
ディネ「何していたのよ。あなたも戦いなさいよ。」
セレネ「私や残りの精霊では、ギエル四天王に、あっという間に抹殺されてしまうでしょう。」
彼女は毅然と言った。
セレネ「アリスにお伝えしにきました。 "精霊の神域"が、目を覚ました。」
アリスの目が大きく見開かれる。
アリス「精霊の神域……?」
セレネは頷いた。
セレネ「そこには、精霊たちの"真なる核"が眠っています。
もしそれを手に入れられれば、あなたたちは、今以上の"進化"を遂げることができるはずです。」
アリス「本当に――」
セレネ「そこに至るには、あなたたち自身が"己の限界"を超えなければなりません。
それは、ただの訓練や修行ではなく、本当の意味で、自分を試される試練です。
……それでも、行く覚悟はありますか?」
◆
アリス「――行くでしょ。」
サラ、ディネ、ノームも、無言で頷く。
誰も、ためらう者はいなかった。
今この瞬間、全員の心は一つだった。
◆
そして、アリスたちは、
**精霊の神域**へと向かった。
そこは――
普通の人間は決して踏み入ることができない、
世界の"核"に近い、異次元のような場所だった。
時間も空間も歪み、
精霊たちの原初の力が吹き荒れる領域。
入った瞬間、
身体が重く、意識が引き裂かれるような感覚に襲われる。
アリス「ぐっ……これが、神域……っ!」
しかし、ここで倒れるわけにはいかない。
アリスたちは、必死に前へと進んだ。
◆
そこに、彼らを待ち受けていたのは――
己自身。
そう、真なる神域の試練とは、外敵との戦いではない。
「自分自身」との戦いだった。
◆
アリスの前に現れたのは、かつての弱かった自分。
臆病で、迷い、誰かに守られることしかできなかった、あの頃の自分。
サラの前には、激情に飲まれ、無力だった自分。
ディネの前には、孤独と不安に押しつぶされそうだった自分。
ノームの前には、臆病で、何もできなかった自分。
――影たちが、口々に囁く。
サラの影「お前にできるはずがない。」
ディネの影「お前は弱い。」
ノームの影「何も変わっていない。」
心をえぐる声。
魂を削る問いかけ。
だが――アリスたちは、立ち上がった。
それぞれが、叫んだ。
サラ「そんな私に、負けない!!」
ディネ「私は、前に進む!!」
ノーム「私は――変わります!!」
自らの影を超えたとき、
精霊の神域は祝福した。
◆
アリスの剣が、眩い光に包まれる。
サラの火が、蒼き焔へと進化する。
ディネの水が、命を紡ぐ聖なる水流へと変わる。
ノームの大地が、創造を超えた「世界樹の力」を得る。
全員が――
「真なる覚醒」を遂げた。
◆
そして、アリスは静かに呟いた。
アリス「待ってろよ、ギエル。今度こそ――必ず、お前を倒す。」
◆
ギエル軍が本格的侵攻を始めた。
夜明けとともに、世界が震えた瞬間であった。
北の大地に、轟音が鳴り響く。
大地を割り、空を裂く――ギエル軍の本格的な侵攻が、ついに始まったのである。
無数のギエル兵たちが、北の魔王領の各地を襲撃し始める。
ただの兵士ではない。
一人一人が、常人の何倍もの魔力を持つ、"超兵"たちだった。
北の魔王軍は、圧倒的な数と力に押され、次々と城砦を落とされていく。
地上は、まさに戦火の海と化していた。
◆
北の魔王領、最後の砦。
そこに集まった北の魔王軍の残存兵たちは、絶望の淵にいた。
北の魔王軍の残存兵A「もう、これまでか……」
北の魔王軍の残存兵B「ギエル軍には、勝てない……」
誰もがそう思ったその瞬間。
――ザァァッ!
突風と共に、白銀の閃光が降り立つ。
アリス「諦めるのは、まだ早い。」
そう言って現れたのは、
**"聖剣士アリス"**だった。
その背後には、
燃えるような蒼き焔を纏うサラ、
命の輝きを宿した清水を操るディネ、
そして世界樹のオーラを纏ったノーム。
誰もが、以前とは比べ物にならないほどの気配を放っていた。
アリスたちが精霊の神域から帰還したのである。
◆
ギエル軍もまた、ただならぬ気配に気付いていた。
四天王の一人、漆黒の竜騎士ザルバートが、
前線でアリスたちを迎え撃つ。
ザルバート「おもしれぇ……!どこまでやれるか、試してやる!!」
彼の竜槍が、大地を裂きながら突き進む!
だが――
アリス「遅い。」
アリスの聖剣が、
まるで空間ごと切り裂くように、竜槍を弾き飛ばした。
ザルバートは目を見開く。
ザルバート「な、に……?」
続けざまに、サラの蒼炎が彼を包む。
これまで無敵を誇ったザルバートの黒竜の鎧が、みるみるうちに焼き焦がされていく。
ザルバート「ぎぃやあああああっ!!!」
ザルバート、戦闘不能――!!
◆
それを合図に、アリスたちは怒涛の進軍を開始した。
ディネの水流が戦場を洗い流し、傷ついた兵士たちを癒し、敵軍を押し流す。
ノームの大地の力が、鉄壁の防壁を築き、ギエル軍の猛攻を封じる。
アリスの剣はまるで、戦場を照らす光そのものだった。
◆
――だが、その光を見つめる者がいた。
ギエル。
彼は高台から、無表情で戦場を見下ろしていた。
その隣には、ギエルの側近たち、ギエル新四天王。
(ザルバートが倒れた今、残る三人が控えている)
ギエルは、淡々と呟いた。
ギエル「なるほど……覚醒したか。」
そして、右手をゆっくりと掲げた。
ギエル「ならば、こちらも"本気"を出すしかないな。」
◆
大地が震え、空が裂ける。
ギエルの周囲に、異様な黒き魔力が集まっていく。
それは、まるで世界そのものを蝕む呪いのようだった。
その瞬間――
ギエルの姿が、変わる。
人間離れした、神にも似た存在へ。
漆黒の翼を持ち、
黄金の魔眼がすべてを睥睨し、
背後には、無数の虚無の剣が浮かぶ。
ギエル、本格覚醒。
ギエル「来い、北の魔王。
貴様を超えた先に、俺の未来がある。」
低く、静かな声。
しかしその言葉には、絶対の自信と破壊の意志が宿っていた。
◆
戦場の空気が、一変する。
アリスは剣を構え、精霊たちも臨戦態勢に入った。
これまでとは次元の違う敵。
だが、逃げる理由など、どこにもない。
アリス「ギエル……!」
アリスが静かに名を呼ぶ。
ギエルもまた、剣を一閃。
ギエル「行くぞ、北の魔王!!」
そして、再び史上最大の戦いの幕が上がる!!