174 西の魔王編 part5
ノームは、大地神殿に向かっていた。
遥か東方、荒れた砂漠を越えた先に、
荘厳な石造りの遺跡がそびえていた。
それが、失われた古代文明の痕跡――
《グラン・テルス》、大地神殿。
この神殿には、大地の精霊たちの叡智と力が封じられており、
真に「大地を理解する者」のみが、その奥に至ることを許されるという。
◆
ノームは、静かに神殿の前に立った。
風が吹き、彼のローブを揺らす。
目を閉じ、彼は呟いた。
ノーム「……大地の声を、聞かせて。」
その瞬間、神殿の扉が、重々しく開いた。
大地の震える音とともに、奥深くへと続く暗黒の回廊が現れた。
◆
神殿内部は、ただの体力だけでは進めない。
天井から落ちる石柱、
床に仕掛けられた無数の罠、
知識と直感を問う謎解きの数々。
ノームは、冷静に周囲を分析し、
時に身軽に、時に強靭にそれらを突破していった。
ノーム「焦るな……急がば回れ、ですから。」
鋭い知恵と、少し鍛えられた肉体。
彼は、土の精霊らしく、一歩一歩着実に前へ進んだ。
◆
だが、最深部で、彼を待っていたのは――
巨大な石の巨人。
それはただの魔物ではない。
過去にここに挑み、敗れ、砕かれた"挑戦者たちの魂"が宿った存在だった。
テラ・ゴーレム「進む者よ、問う。」
テラ・ゴーレムの声は、地鳴りのようだった。
テラ・ゴーレム「力か、知恵か。どちらかを捨て、どちらかを選べ。」
ノームは、すぐに答えた。
ノーム「捨てない。」
テラ・ゴーレムが目を見開く。
ノーム「知恵なき力はただの破壊。
力なき知恵はただの机上の空論。
オレは――両方を手に入れる。」
宣言と共に、ノームは駆けた!
◆
ゴーレムの拳が振り下ろされる。
大地を割る衝撃。
ノームはそれを、ぎりぎりで読み切り、避けた。
そして、すぐさまカウンター。
拳に、大地精霊の力を込めて打ち込む!
ノーム「グラウンド・インパクトッ!!」
ゴーレムの体が軋む。
しかし、倒れない。
次々と繰り出される超重量攻撃。
一撃でも食らえば、即死。
ノームは知恵を働かせた。
地形を利用し、ゴーレムの足元を崩し、バランスを奪い、
一点突破で急所に集中攻撃を仕掛ける。
そして――
ノーム「これで、終わりだッ!!!」
全精霊力を込めた渾身の一撃。
大地の波動を拳に纏わせ、
一直線にゴーレムの心核を砕いた。
◆
ゴゴゴゴゴゴ……
ゴーレムは、崩れ落ちた。
その中から、
美しく光る土の結晶が現れた。
ノームは、そっとそれに触れた。
――大地の声が聞こえる。
大地の声「賢き者よ……力を恐れず、知を奢らず、
汝に"創造の力"を授けん。」
新たに得た力。
《創地術》。
それは、あらゆる地形を自在に作り変え、
攻撃にも防御にも、奇策にも使える、究極の大地魔法。
ノームの目に、確かな光が宿った。
ノーム「これで……私も、アリスたちの力になれますね。」
重く、確かに大地を踏みしめ、
ノームもまた覚醒を遂げ、仲間たちのもとへ帰還するのだった。
◆
ギエル軍四天王は、すでに侵攻を開始していた。
アリスたちは、休む間もなく、ゲルデヘルム魔王国の西側、イングラシル共和国との国境付近に集結していた。
◆
空を覆う黒い雲。
遠く地平線には、まるで軍隊のように押し寄せる黒影。
――ギエル軍、四天王。
彼らはギエルの命を受け、
北の魔王領へ侵攻を開始したのだ。
その途中で、アリスたちを"最初の障害"として排除すべく、進軍してきたのである。
◆
アリスたちの前に、
圧倒的な存在感を持つ四人が立ちはだかった。
✴ギエル四天王
第一軍団長《蒼雷のバルム》
(蒼い鎧を纏い、雷を自在に操る戦士。スピードと破壊力を兼ね備える。)
第二軍団長《獄炎のマリアス》
(黒炎を操る女魔導士。通常の炎ではなく、魂を焼き尽くす"業火"を操る。)
第三軍団長《深淵のヴァルツ》
(闇と毒を操る暗殺者。音もなく敵を仕留める冷酷な剣士。)
第四軍団長《巨岩のドランガ》
(大地を操る巨躯の男。圧倒的な防御力と破壊力を持つ。)
サラ「……っ、なんて圧だ!」
ディネ「これが……ギエル軍……!」
ノーム「四人とも、並みの魔王クラスだ。油断したら即死だぞ。」
アリス「でも、負けられない。私たちが、ここで終わらせないと世界が滅びる。」
アリスの言葉に、皆が頷いた。
◆
そして、戦いは始まった。
第一次衝突! 四天王VSアリスたちの戦いが始まった。
バルムが先陣を切った。
バルム「雷閃砲ッ!!」
蒼い雷光が、空気を裂いてアリスたちに襲いかかる!
即座にディネが聖水の壁を展開!
しかし、バルムの雷は水をも穿ち、ディネの肩をかすめる。
ディネ「くっ……強いっ!!」
サラ「そんなにビリビリしたいなら、こっちから熱くしてあげる!!」
――《火炎砲ブレイズキャノン》!!
サラの業火が、バルムの雷を押し返し、空中で爆発する!!
◆
だが、すかさず、マリアスが黒炎を纏い現れた。
マリアス「甘い。……焼き尽くしてやる。」
黒炎は、通常の火や水では防げない。
一気に空間を焼き払い、アリスたちを包囲する!
ノームが地面に拳を叩きつけた。
ノーム「《創地術:土壁陣》ッ!!」
大地が盛り上がり、黒炎を防ぐための巨大な防壁を作り出す。
しかし、黒炎は土すらも蝕み始めた。
アリス「マズいぞ……あの女……!」
アリスは聖剣を構え、飛び出す。
アリス「突破口を作る!! みんな、援護して!!」
聖剣に、精霊たちの力を宿し――
《精霊剣・聖なる煌刃》!!
一閃。
空間すら斬り裂く白銀の刃が、黒炎の壁に穴を穿つ!
◆
しかし、そこへ。
今度は、音もなく近づいた影――ヴァルツがアリスに奇襲を仕掛けた。
アリス「チィッ……!」
アリスが振り向いた瞬間、
ヴァルツの毒を纏った黒剣が、彼女を狙ってきた――!
ディネ「アリスッ!! 今っ!!」
ディネの聖水魔法が、ヴァルツの動きを一瞬止める。
アリスはその隙に回避、ヴァルツと激しく剣を交える!
一方、巨岩のドランガは、
重力魔法と大地操作で地面を粉砕しながら前進してきた。
ノーム「なんですか、あいつ、動く災害ですね……!」
ノームが冷や汗を流しつつも、迎撃態勢に入る。
◆
――戦いは、完全なる混戦へ突入する。
アリスたちは連携を取りながら、
ギエル四天王に互角以上に食らいつく。
だが、四天王たちは本気ではなかった。
彼らの目的はただひとつ――
バルム「我らの力を見せることだ。お前たちにはまだ、"絶望"を味わってもらう。」
そう言い残し、バルムたちは撤退を開始する。
彼らは"まだ本気で倒す気"ではなかったようだ。
真の侵攻は――「ギエル」そのものが、前線に出るときに始まるときである。
◆
戦いの余韻の中で、
アリスたちは、深い息を吐いていた。
アリス「……強すぎる。でも、絶対負けられない。ギエルを――止めるために。」
そして、静かに、夜が明ける。