173 西の魔王編 part4
一方、サラは、灼熱火山へ向かっていた。
世界の南方。
巨大な赤い山脈が、燃えるような噴煙を上げていた。
その中心にある伝説の地――
《マグナ・フレイム》。
ここは、古より火の精霊たちが集い、
真に「炎を統べる者」にのみ力を貸すと言われる、過酷な火山地帯。
灼熱の大地。
揺れる地熱の川。
天から降り注ぐ火の雨。
普通の人間なら、一歩踏み入れた瞬間に焼き尽くされるこの地へ、
サラはたった一人で降り立った。
サラ「ふん、こんなの挨拶代わりだっての!」
火花のように瞳を輝かせ、サラは軽く拳を鳴らす。
しかし――彼女はすぐに悟った。
これはただの"熱さ"じゃない。
この場所自体が、意志を持つ生き物のように、
彼女の心を試していた。
サラ「……ヘタれた心じゃ、ここじゃ即死ってことね。」
サラは笑い飛ばした。
そして、真正面から、燃え盛る大地を踏みしめた。
◆
奥へ奥へと進むにつれて、
火山の精霊たちが姿を現し始めた。
巨大な火龍。
火柱の騎士。
溶岩の巨人。
サラは、次々と襲い来る試練を、持ち前のスピードとパワーでぶち破っていった。
サラ「こんなんじゃ……全然足りないッ!!」
叫び、拳を振るい、
火花を散らしながら突き進む。
だが、その先に、
圧倒的な存在が立ちはだかった。
――《焔帝イグナス》。
火の精霊たちの王。
巨大な炎の獅子の姿をした、伝説の存在。
火の精霊たちの王イグナス「汝に問う。己の炎を、何に使う?」
イグナスの問いに、サラは迷わず答えた。
サラ「決まってんじゃん! 仲間を守るために、
世界をぶっ壊そうとするクソ野郎をぶん殴るためだよ!!」
その瞬間。
イグナスの巨大な口が、ニヤリと笑った。
イグナス「ならば、我が"魂"を超えてみせよ。」
咆哮。
灼熱の嵐が、天地を覆った。
サラの体が、燃えた。
皮膚が裂け、血が蒸発し、
意識がかき消えそうになる。
それでも、サラは、止まらなかった。
サラ「燃えるなら……上等じゃんッ!!!」
叫びながら、己の中の火を、全開に解き放った。
彼女の周囲に、真紅のオーラが立ち上る。
――ゴオオオオオオオオ!!!!
その力は、これまでのサラでは制御できなかったもの。
暴走すれば、己自身をも焼き尽くす力。
だがサラは――
その「炎を飼いならす」ことを選んだ。
熱に溶けるような苦痛の中で、
サラは、己の炎と対話した。
サラ「暴れるだけじゃダメなんだよな……!オレの炎は、オレが一番、信じてやらなきゃ!!」
そう、力に負けない、心を持つこと。
それが――真に火を支配する者の資質だった。
◆
やがて、灼熱の嵐が止んだ時。
サラの体から、
赤金色に輝く新たなオーラが立ち上っていた。
そして、彼女の右腕には、
新たな力――
《炎霊腕》
火精霊の力を完全に宿した、絶対の一撃が宿ったのだ。
イグナスは、ゆっくりと頭を垂れた。
イグナス「よくぞ我を超えた……新たなる火の覇者よ。」
サラは拳を振り、にかっと笑った。
サラ「よっしゃ! これでギエルのクソガキも、ぶっ飛ばせるってもんよ!!」
今、サラもまた、
限界を超え、さらなる力を手にしたのであった。
◆
ディネは、世界樹の泉へ向かっていた。
彼方なる北方の秘境。
深い深い森を越え、霧に包まれた禁断の地に、それはあった。
《エルヴァーナ》――世界樹の泉。
それは世界の命脈を司るとされる、伝説の巨木。
その根元には、すべての水の源たる《創世の泉》が湛えられていた。
ただし――。
そこへ立ち入る者は、
「己の真なる姿」を試される。
偽りを抱く者、迷いを持つ者は、
泉に取り込まれ、二度と還らない。
◆
ディネは、静かに泉へと歩み寄った。
青銀に光る泉は、まるで彼女を拒むかのように、冷たい波紋を広げた。
ディネ「……」
ディネは、静かに、微笑んだ。
美しい長い髪をそっと撫で、ゆっくりと化粧を落とす。
普段の華やかな姿を脱ぎ捨て、
ただ、一人の精霊として、
"素"の姿に戻った。
その瞬間、泉が反応した。
――ズン。
世界が震えた。
泉の中から、青い幻影たちが現れた。
それは、ディネ自身。
幼い頃の、未熟で臆病だったディネ。
怒りを抱え、誰にも頼れなかった過去のディネ。
孤独に震えていた、誰にも認められなかった精霊時代のディネ。
ディネ「……あぁ、来たのね。」
ディネは、すべてを受け入れるように微笑んだ。
幻影たちは、彼女を責めるように言った。
――お前は本当に強くなったのか?
――まだ恐れているくせに。
――仲間の足を引っ張るだけだ。
だが、ディネは、ただ一言だけ答えた。
ディネ「たとえ弱くても……. たとえ恐れていても…… それでも私は、アリスたちと共に戦いたい。」
その言葉に――
泉全体が、蒼白い光を放った。
◆
次の瞬間。
泉が爆発するように荒れ狂った。
巨大な水竜が吠え、天空へと突き上がる。
世界樹がしなる。
森が震える。
泉そのものが、ディネに襲いかかった。
ディネ「やるじゃない……!」
ディネは両手を広げ、真っ向から受け止めた。
普段の彼女からは想像もできない、
荒々しく、力強い戦い方。
ディネ「美容と魔法は一緒よ!! どちらも自分を信じ抜く力なんだから!!」
叫び、拳を握りしめ、
水精霊の猛攻を押し返す。
◆
やがて、泉の中心から、
ひときわ巨大な存在が現れた。
それは、かつて水の世界を統べたという、
伝説の大精霊――
《水聖エレオノール》。
エレオノール「見事だ、我が後継者よ。」
優雅な声が響き、
ディネの額に、冷たい祝福の水が注がれた。
そして彼女は、新たな力を授かる。
《聖水解放》。
あらゆる呪い、毒、闇を洗い流し、
同時に、津波のような圧倒的破壊力を持つ、究極の水精霊魔法。
ディネの周囲に、透明な紋章が浮かび上がる。
彼女は、微笑みながら聖水の力を指先に宿した。
ディネ「……これで、もう負けないわね。」
世界樹の泉に、一輪の青い花が咲いた。