171 西の魔王編 part2
焼け焦げた大地に、冷たい風が吹き抜けた。
魔核爆発の余波で空気すらも重く淀むなか――
二本の剣が、静かに対峙した。
聖剣を握るアリス。
魔剣を手にするギエル。
互いに一歩も引かず、互いを見据える。
そして――
アリスが、風を切るように駆け出した。
ギエルもまた、静かに剣を振るう。
それは速さを誇示するものではない。
だが、彼の剣は**「空間ごと切り裂く」**一閃だった。
キィィィィィン!!!
二つの剣がぶつかり合うと、地面が割れ、周囲の魔獣たちさえ吹き飛ばされた。
アリス「っ、こんな重さ……!」
アリスは、剣越しに伝わる衝撃に、思わず歯を食いしばった。
ギエルは無表情のまま、さらに追撃する。
魔剣アポカリプスに宿る黒雷が、剣圧と共に空間を引き裂きながら放たれた。
ズガガガガガガガ!!!
アリスは咄嗟に、聖剣に精霊魔法を重ねる。
《精霊障壁》!
ディネの水壁、サラの火盾、ノームの土壁――三種の精霊の加護を一気に纏った。
アリス「負けられない!」
叫びとともに、アリスはギエルの黒雷を打ち消し、さらに一歩踏み込んだ。
ズシャアッ!!
彼女の剣先がギエルの肩を掠め、赤い血が散る。
しかし。
ギエルは眉一つ動かさず、無言で剣を振るう。
たった一撃。
たった一閃で――
アリスの足元の地面ごと、広範囲が崩れ去った。
アリス「くっ……!」
後方宙返りで辛うじて回避したアリス。
その瞬間、サラとディネが援護魔法を放った。
火と水の魔法弾がギエルを狙う。
だが――ギエルは剣を地面に突き立て、無造作に一言呟いた。
ギエル「滅せ。」
それだけで、彼の周囲に無数の黒雷槍が顕現し、襲いかかる魔法ごと撃ち落とした。
――まるで、天地そのものを支配しているかのようだった。
ノーム「あれは、単なる魔法じゃない……"現象操作"に近いですね。」
それでもアリスは、剣を掲げたまま立ち上がった。
アリス「久々だね!ここまで追い込まれるのは、」
彼女の足元に、聖なる光の魔法陣が展開する。
精霊剣奥義――《聖霊一閃・天穿》!
剣に込められた光と精霊たちの力が、一直線にギエルへ向かって放たれた。
眩い光。
大地が割れ、空気が震え、周囲の魔獣たちも塵と化す。
その中で、ギエルは静かに剣を構えたまま立っていた。
彼の周囲には、黒雷と虚空の盾が展開され、
聖なる閃光を受け止めながら、わずかに後退する。
その瞬間――。
ギエルは剣を納め、静かに背を向けた。
ギエル「今はまだ……時期ではない。」
彼は天を見上げる。
ギエル「もっと……完璧な力を得るまでは、な。」
ギエルは魔力を炸裂させ、一瞬で虚空の門を開いた。
ギエル「撤退だ。」
世界を破壊しかねない存在は、一時、姿を消した。
ただし、それは「敗北」ではない。
「より完全な破壊者」となるための、準備期間にすぎない。
アリスは地に膝をつき、剣を杖代わりにして立ち上がった。
彼女の全身は傷だらけだったが、その目は決して折れていなかった。
アリス「あっぶなぁ。次は……本気で来るね。」
ディネ「今のは……ほんの挨拶だったわね。」
サラ「でも、逃げなかった。ちゃんと、ギエルに傷をつけたよ。」
ノームが「戦いは、これからですからね。」
メリッサ「お願いします。必ずギエル様を止めてください。」
燃え尽きた戦場の中で、アリスたちは悟った。
アリスたちは、テレポートで北の魔王城に戻った。
北の魔王城に着くと、ディアブロとアルテミスが出迎えた。
ディアブロ「アリス様。厄介なことになりましたね。」
アリス「ディアブロ。これからは、ギエル対策を最優先とする。アルテミスは、バーストエンドミラージュを総動員してすぐに情報収集を行うように。」
アルテミス「すでに情報収集は済んでおります。ですが、日に日に、ギエルの勢力が拡大しておりますので、絶えず情報が更新しております。」
アリス「さすがはアルテミス。仕事が早い。1週間後の勢力を予測してほしい。それをもとに対策を取りたい。」
アルテミス「かしこまりました。」
◆
ギエルが姿を消してから、わずか三日後。
世界各地で、異常現象が起き始めた。
火山が突然噴火し、氷河が割れ、嵐が世界を切り裂き、
地の底から未知の魔物たちが湧き上がってきた。
それはすべて――ギエルの新たな軍勢の胎動だった。
◆
西の魔王城の中心で、ギエルは静かに立っていた。
彼は己の魔力から、四つの核を分離し、地に植えつけた。
そして、呟く。
ギエル「我が意志を体現する者たちよ――目覚めろ。」
地が裂け、空間が歪み、そこから四つの影が現れた。
一人目は、
黒銀の鎧を纏い、無数の魔獣を従える女騎士――「獣王アマリス」。
二人目は、
氷と闇を自在に操る冷徹な美青年――「凍影リヴェル」。
三人目は、
空間をねじ曲げ、幻想を操る仮面の道化師――「虚夢ピエトロ」。
四人目は、
常に燃え盛る黒炎を纏った、狂気の大剣士――「焔刃ガロウ」。
彼らこそ、ギエルが創り出した、
絶対の四天王。
ギエルは、ただ一言だけ命じた。
ギエル「整えよ。全世界を、征服するために。」
四天王たちは、忠誠を誓うことなく、絶対服従の呪いによってギエルに従った。
彼らは、それぞれが単独で一国を滅ぼし得る存在だった。
ギエルは、もはや「ただの新魔王」ではない。
世界を覆す、運命の破壊者となりつつあった。
◆
ギエルがその目を開けたとき、暗黒の夜が地平線を飲み込んでいた。
彼は深い思索に沈んでいた。
自らの力を掌握し、支配する者として、彼の中で何かが目覚めつつあった。
ギエル。
彼はもはや単なる魔王ではない。
その力、意志、運命は――
世界そのものを変えようとしていた。
彼の目の前に立つのは、四つの魔力の源。
それは、世界を震わせるほどの強大な力を内包していた。
ギエルはその力を核として、絶対の支配を目指すことを決意した。
ギエル「……私が目指すべきは、ただの支配ではない。世界そのものを、創り直すのだ。」
彼は冷徹な視線を四天王たちのもとへと向けた。
その時、彼が下した命令は、 四天王を創り出すこと。
それぞれの核を魔法で具現化し、恐るべき力を持つ存在を生み出すのだ。
第一天王:獣王アマリス
ギエルは、最初にアマリスを創り出した。
彼女は――人間ではなく、魔獣の女王であり、
その強大な魔力は、すべての獣を従える力を持っていた。
ギエルはその核に、獣の力と魔王の血を注ぎ込む。
アマリスは、その魔法によって「獣王の神殿」に眠っていた伝説の力を呼び覚ます。
彼女は、無数の魔獣を操る能力を持ち、その一撃一撃が大地を揺るがすほどの威力を誇る存在に成り果てた。
アマリス「すべての獣を率いて、私は世界を征服する。」
アマリスは血に染まった瞳をギエルに向けて言う。
その視線に、他の者たちは息を呑んだ。
彼女の忠誠心は、魔力により固定された呪縛によるものではなく、あくまでも強者としての尊敬によって支配されていた。
第二天王:凍影リヴェル
次にギエルは、凍影リヴェルを創り出した。
その目の前に現れたのは、氷のように冷徹で、無表情な美青年だった。
リヴェルは、氷の王国の王子として生きることを拒み、死を招く冷徹な力を手に入れることを望んだ者だ。
ギエルは彼に、闇の氷魔法を与える。
その力は、生命を凍結させるだけでなく、時をも凍らせる。
リヴェルが手をかざすと、広範囲の大地が凍りつき、空気すらも冷え込んでいく。
その氷は、冷徹な判断力とともに、人々の精神をも凍らせてしまう。
リヴェル「私の氷で、すべてを滅ぼし、静寂をもたらす。」
リヴェルの低い声が、周囲の冷気をより一層強くした。
彼の冷徹な心が、ギエルの世界支配を、さらに強固にする。
第三天王:虚夢ピエトロ
ギエルが次に目を向けたのは、ピエトロだった。
彼は、虚無と幻想を操る力を持つ道化師だ。
ピエトロは、ギエルが抱える運命の歯車を回すために生まれた――彼の幻想は、実体と区別がつかないほどに巧妙で、世界そのものを「現実」に変える力を持っていた。
ギエルは彼に、虚無の魔法を注ぎ込む。
その結果、ピエトロの「幻覚」や「幻想」を現実に変えることが可能になった。
一度目を奪われた者は、二度と現実を見失う。
ピエトロの周囲には、人々の幻想が全て現実化する世界が広がる。
ピエトロ「私の手のひらで、すべての世界を演じてやろう。」
ピエトロは微笑んで言った。
彼の言葉通り、ギエルの支配する世界は、幻と現実が入り乱れることとなった。