164 サドバイン王国編 part5
海上を漂う船は一見穏やかだったが、異様な冷気が空気を包み込んでいた。
突然、甲板に冷たい霧が湧き上がり、船員たちがざわめき始めた。
船員「霧だ!でも、この辺りではありえない速さで広がってる!」
アリスが駆けつけ、霧の中心を見つめた。
その中で、ぼんやりとした影が揺れ動いている。
ディネ「影じゃない……!」
霧の中から現れたのは、かつて見た影の使徒と酷似した黒い存在だった。
しかし、その姿はより人間に近く、まるで意思を持っているかのような輝く赤い目を持っていた。
影の男「お前の旅路はここで終わる。氷の巨神を目覚めさせたことが失敗だと、すぐに知るだろう。」
アリス「霧の中では奴の動きがわかりにくい!ディネ、霧を吹き飛ばせる?」
ディネ「もちろん!」
ディネが海の力を借り、嵐のような水流を巻き起こすと霧が一時的に晴れた。
サラが火球を放つ。しかし、火球は影の男に届く前に消えてしまう。
影の男「無駄だ。この力は虚無そのもの。お前たちの光や炎では消せない。」
男は笑みを浮かべながら言うと、闇の剣を振り下ろしてきた。
アリスがそれを聖剣で受け止めるが、衝撃が体全体に響く。
アリス「強い……でも負けない!」
ノームが後方で土の魔法を唱え始めた。
すると影の男の足元から巨大な土の手が現れ、彼の動きを封じた。
影の男が一瞬だけ動きを止められたその隙に、アリスが全力で聖剣を振り下ろした。
光の刃が男の体を切り裂き、闇の霧が散る。
しかし、男は傷ついた体を薄く笑みながら保ち、
影の男「私はただの使者に過ぎない。西の地で待つ本当の恐怖を前に、お前の力は無力だ……。」
その言葉を残し、男は闇に溶けるように消え去った。
夜明けとともに、アリスたちは西の地へ向けた航路を固めることを決めた。
氷の巨神が眠る塔の経験で得た力は確かだったが、目の前の未知の脅威にはさらなる準備が必要だと悟っていた。
アリス「闇の使者が言っていたこと……西の地には、きっとさらなる謎と危険が待ち受けている。楽しみだね。」
船が西方への航路をたどる中、アリスは影の男が残した言葉に不安を抱えていた。
「本当の恐怖」とは一体何を意味するのか。
そして西の地に潜む新たな闇とは何なのか。
それを知るためには、自らの足でその地を踏み、答えを見つけるしかない。
途中、船は荒れ狂う嵐に見舞われた。
通常の嵐とは異なり、空は真っ黒な雲で覆われ、雷鳴が大地を裂くように轟いた。
ディネが嵐を抑えようと海の力を呼び起こすが、嵐の力は異様に強く、なかなか沈静化しない。
ディネ「この嵐、変じゃない……!」
ノーム「ここに何かいる!闇の力が潜んでいる!」
突然、巨大な黒い影が海面から現れた。
それは海蛇のような姿をした魔物で、目は赤く輝き、口からは黒い霧を吐き出していた。
アリスは聖剣を構えた。
海蛇は船に巻きつこうと巨大な体をくねらせながら襲いかかる。
サラが炎の魔法で海蛇の一部を焼き払おうとするが、海蛇の体から出る霧が炎をかき消してしまう。
サラ「この霧、なんなの……!」
ノームが土の魔法を発動し、船の甲板から土の槍を作り出した。
それを投げると、海蛇の霧を一部突き破ることに成功する。
そしてアリスが聖剣で、霧が薄くなった部分を狙って突進する。
剣の光が海蛇の皮膚を裂き、その痛みによって海蛇は一瞬後退した。
ディネがその隙を見逃さず、水の力で海蛇を包み込むように水流を操作する。
海蛇は最後の力を振り絞って再び船に襲いかかろうとしたが、アリスが全力で放った聖剣の一撃がその頭部を貫いた。
巨大な体が海面に沈むと、嵐も徐々に収まり、闇の霧が晴れていった。
船員たちが歓声を上げる中、アリスたちは疲れた表情で甲板に座り込んだ。
ディネ「ただの魔物にしては、異常な力だったわ。」
ノーム「影の男の言っていた『本当の恐怖』と関係があるのかもしれない。」
アリス「一体、何が待ち受けているのか……。」
アリスは水平線の向こうを見つめ、胸の中に募る不安を抑えようとした。
数日後、アリスたちはようやく西の地「ノクタリカ」に到着した。
この地はかつて繁栄を誇ったが、今では闇に覆われ、ほとんどの村や街が荒廃しているという。
港町アルヴェンに足を踏み入れた彼女たちは、すぐにその異様な雰囲気を感じ取った。
街全体が灰色がかった霧に包まれ、人々は怯えたような目をしていた。
アリス「ここに闇の答えがある……。」
酒場で情報を集めると、この地には「闇の王座」と呼ばれる場所があることがわかった。
そこはノクタリカ全土を覆う闇の力の源とされているが、誰も近づけない禁忌の地となっていた。
アリス「闇の王座か……それがこの旅の次の目的地だね。」
アリスは、新たな地図を広げ、次なる冒険への準備を進めた。
こうして、闇の力の源「闇の王座」を目指す冒険が始まった。
アリス「ノクタリカの深い闇の中で待つ真実とはいったい何?」
アリスは、霧の中で出会った影の魔物を辛うじて撃退しながら、森の奥深くへと進んでいった。
霧が濃くなるにつれ、彼らの視界はさらに悪化し、耳元で囁くような不気味な声が徐々に大きくなっていった。
ディネ「この森、私たちをここに閉じ込めようとしてる……それも意志を持った何かが。」
ノーム「あの影の魔物だよ。心を揺さぶって弱らせようとしてるみたいだ。慎重に進んで。」
アリス「わかった。」
進むうちに霧は一層濃くなり、道が完全に消えてしまった。
ノームが地面を探ろうとしても、地脈の感覚が断たれたかのように何も感じ取れなくなっていた。
ノーム「どういうことだろう……地脈が、消えた?」
そのとき、霧の中にぼんやりと浮かび上がる光景が見えた。
アリスには、幼い頃に憧れていた騎士の姿が見えた。
サラ「こんなもの、ただの幻影じゃん!」
サラが声を張り上げて炎を放ったが、霧はまるでその炎を飲み込むかのように揺らめくだけだった。
ディネ「アリス!幻影に惑わされないで!」
アリスは幻影に立ち向かった。
ノームは地脈に頼らず、自らの経験と知識で正しい道を見出そうとした。
ノーム「見つけた!あの光の向こうに道がある!」
光を目指して進むと、霧は徐々に薄れ始め、ようやく森の出口が見えてきた。
しかし、出口には巨大な石造りの門が立ちはだかっていた。
その門には奇妙な紋章が刻まれており、中央には空いた凹みがあった。
ノーム「これは……封印だ。鍵が揃わなければ、この門を開くことはできない。」
アリス「鍵って、一体どこにあるの?」
ディネ「きっと、この森に隠されているんじゃないかしら。さっきの幻影や影の魔物みたいに、何かが待っているはずよ。」
アリス「そうね。とっとと鍵を見つけて、この門を開けるわよ。」
門から最も近い場所にある湖のほとりに、一行は足を踏み入れた。