158 ルティアーナ王国編 part5
アストラルの狂笑が響き渡る中、闇のエネルギーが神殿を満たし始めた。
床から突き出す闇の触手が神殿の柱や壁を破壊し、天井は不気味にきしむ音を立てていた。
ミクリ「このままじゃ神殿が崩れる!」
ミクリが剣を振るい、迫り来る闇の触手を斬り裂きながら叫ぶ。
フノン「でも、あの闇のエネルギーを止めないと、外に被害が広がります!」
メリッサが盾の魔法で仲間たちを防御している。
アストラルは玉座の背後にある巨大な石碑へと向かい、手をかざして呪文を唱え始めた。
石碑の表面に刻まれた古代文字が暗闇に浮かび上がり、そこからさらに強力な闇の力が放たれる。
アストラル「これが星海の目が探し求めた『虚無の核』だ。全てを飲み込み、再生させる闇の根源!」
アストラルが声高らかに叫ぶと、神殿全体が闇の力で震え、中心部に巨大な黒い球体が浮かび上がった。
アリス「やらせない!」
アリスが聖剣を握りしめ、虚無の核に向かって駆け出した。
その剣先から放たれる光が闇を切り裂き、触手を消し去る。
フノン「アリス、援護します!」
フノンが雷の魔法を発動し、闇の核を覆う障壁を破壊しようと試みる。
アストラル「無駄だ!」
闇の球体から無数の魔獣が現れた。
それらは人の形をしていたが、その目には闇だけが宿っていた。
フノン「まさか……闇の核が魂を引き寄せて魔獣にしているのでしょうか!」
ミクリ「だからと言って止まるわけにはいかない!」
ミクリが魔獣たちを切り伏せながら進む。
ミクリ「奴を止めるんぞ!」
アストラルは闇の球体を背に、異形の姿へと変貌していった。
彼の体は闇と一体化し、巨大な黒い翼と鋭い爪を持つ魔神のような姿へと変わった。
アストラル「さあ、この力で世界を再構築してみせよう!」
アリスたちは全力で立ち向かった。
アリスの聖剣が光を放ち、ミクリの魔剣が闇を切り裂く。
フノンは嵐を起こし、メリッサが全員を守るために結界を張り続けた。
アリス「これが最後の一撃だ!」
アリスが聖剣を振り下ろすと、その光が闇の核に直撃した。
闇の核が崩壊するとともに、神殿全体が崩れ始めた。
アストラルは苦悶の叫びを上げながら消滅し、闇の触手も次々と消えていった。
しかし、崩れ落ちる天井や揺れる床が、アリスたちを追い詰める。
ミクリ「急げ、出口はもうすぐだ!」
ミクリが瓦礫を避けながら走る。
フノンが崩れた柱に足を取られたメリッサを助け、全員が出口へと走る。
最後の瞬間、全員が外へ飛び出すと同時に、神殿は大爆発を起こし、闇のエネルギーが空へと消えていった。
アリス「終わったね……?」
フノン「まだ、終わりではありません。虚無の核が作られた経緯や、星海の目が本当に目指しているものを、まだ何も分かっていなませんから。」
ミクリ「だが、少なくともこの島での脅威は消えたよ。これからどうするか、王宮で整理しないか。」
アリスたちは無事にカラドン島を後にした。
しかし、彼らの知らぬところで、さらなる陰謀が静かに動き出していた。
カラドン島での戦いから数週間後、アリスたちはルティアーナ王国に戻っていた。
宮廷での報告会が終わり、静寂の中で一息ついていた彼らのもとに、一通の手紙が届く。
送り主は「賢者の塔」と名乗る謎の存在だった。
ミクリ「賢者の塔……聞いたことがあるぞ。世界中の古代知識が収められていると噂の場所だ。でも、場所が分かる者はほとんどいない。」
手紙には、虚無の核と星海の目の秘密を解き明かしたいなら塔を訪れよと書かれていた。
手がかりの薄い現状を打破するため、アリスたちはその誘いを受け、塔を探す旅に出た。
長い探索の末、砂漠の中央に隠された賢者の塔にたどり着く。塔は信じられないほど高く、天空を突き刺すような荘厳さを持っていた。
塔の守護者である賢者エルゴンが彼らを迎える。
エルゴンは長い白髪をたなびかせ、全てを見通すかのような瞳をしていた。
エルゴン「虚無の核か……その真実を知る覚悟はあるか?」
アリスが毅然と頷くと、エルゴンは塔の最深部へ案内した。
そこにあったのは、時を超えて保存された古代の記録だった。
エルゴンの説明によると、虚無の核は数千年前に生まれた古代魔術の産物だった。
大いなる戦争の最中、魔法文明の賢者たちが生み出した「究極の力」であり、世界を一度リセットして再構築するために作られたものだった。
しかし、核を利用しようとした古代の帝国はその暴走を止められず、滅亡してしまった。
その後、核は封印され、その存在を知る者は極限られたものとなった。
エルゴン「星海の目は、この核を使って新たな世界を築こうとしている。だが、その目的は理想ではない。彼らは全ての生命を滅ぼし、自らの支配する完全な世界を作るつもりだ。」
虚無の核の封印が解かれるのを防ぐため、アリスたちは星海の目の本拠地へ向かう。
場所は浮遊する黒い城「虚無の要塞」。
それは闇のエネルギーによって空中に浮かび、近づく者を拒む魔法障壁で守られていた。
要塞に潜入したアリスたちは、数々の罠と星海の目の幹部たちとの戦いを経て最奥へと進む。
虚無の要塞の最奥、巨大な闇の結晶に囲まれた部屋に、アリスたちは足を踏み入れた。
その空間は異様な静けさに包まれており、闇の結晶が低く不気味な光を放っている。
その中央に立っていたのが、宵闇の賢者だった。
彼の姿はかつて人間だった痕跡をわずかに残しているが、顔の半分は闇に侵食され、背後には影のような翼が広がっていた。目は赤黒く輝き、見下すような冷笑を浮かべている。
宵闇の賢者「ここまで来たか。愚かで愛すべき挑戦者たちよ。」
賢者の声は洞窟全体に響き渡り、まるで自分が世界そのものを支配しているかのような威圧感があった。
宵闇の賢者「虚無の核の力を手に入れた私は、もはや神と呼んでもいい存在だ。既存の秩序を壊し、完璧な世界を作り上げる。お前たちが守ろうとするものなど、無価値な混沌にすぎん。」
アリス「あなたが作ろうとしているのは、支配と恐怖の世界よ。そんなものを誰も望んでいない!」
賢者は闇の翼を広げると、その場に巨大な闇の渦を生み出した。
闇の結晶が爆ぜる音とともに、影の兵士たちが召喚される。
ミクリが最前線に立ち、魔剣で次々と影の兵士を斬り伏せる。
その間、フノンは広範囲の雷撃魔法を放ち、数を削る。
メリッサは防御の結界を張りつつ、仲間たちの傷を癒していく。
宵闇の賢者「影に抗うとは愚かな!」
賢者は片手を挙げると、闇の核から魔力を吸収し、一撃で全員を吹き飛ばすような闇の波動を放った。
アリスは聖剣でその波動を受け止めるが、膝をつく。
アリス「この力……計り知れない……!」
戦いの中で、フノンが賢者の動きを観察していた。
フノン「アリス!この男の魔力は核から直接供給されています。核そのものを断たなければ、この戦いに終わりはありません!」
アリスは賢者の背後に浮かぶ虚無の核を見据えた。
それは渦巻く黒いエネルギーの塊で、近づくだけで魂が削られるような感覚を与える存在だった。
アリス「核を破壊する……でも、そんなことをしたら……」
核の破壊には膨大な魔力が必要であり、それは命を賭けた行為を意味していた。
アリス「でもやるしかない。この世界を守るために!」
アリスが全ての魔力を聖剣に注ぎ込もうとした瞬間、仲間たちが一斉に彼女に手を重ねた。
ミクリ「一人じゃない、俺たちもいるから。」
フノン「こんな時のために魔力を温存していたのです!」
フノンが魔法陣を展開する。
アリスの聖剣に、全員の魔力が流れ込む。
その剣は眩い光を放ち、闇の核を貫く準備を整えた。
アリス「これがトドメだ!」
アリスは輝く剣を振り下ろし、虚無の核に突き刺した。核が激しく震え、黒いエネルギーが爆発的に放出される。
宵闇の賢者「やめろ!それを破壊すれば、この世界そのものが崩壊する!」
賢者の叫びは虚しく、核の崩壊は止まらなかった。
光と闇が衝突し、要塞全体が崩れ始める。アリスたちは崩壊の中で、ギリギリのところで脱出することに成功した。
虚無の核が消滅し、宵闇の賢者は跡形もなく消えた。
要塞が崩壊した場所には、静けさと星空だけが残された。
アリスたちは海辺に立ち、夜明けの光が世界を照らすのを見つめていた。
アリス「終わったか。」
すぐに要塞は崩壊を始めるが、アリスたちは間一髪で脱出することに成功する。
虚無の核が完全に消滅し、星海の目の脅威は去った。