147 ロスフルリント共和国 part1
アリスたちはロスフルリント共和国を目指し、再び船に乗り込んだ。
南西の海域に広がるその島国は、魔獣が支配する危険地帯として知られていた。
ロアン王国の図書館で調べた限られた情報によれば、ロスフルリントの要塞都市は強固な壁に守られ、住民たちは常に魔獣の脅威に怯えながらもたくましく生き抜いているという。
アリス「魔獣が多いってことは、それだけ冒険のしがいがあるってことだよね!」
アリスは笑顔で船の舵を見つめた。
フノン「楽観的なのはいいですけど、気を抜かない方がいいです。魔獣は南の魔王領の魔獣以上に手ごわいって話ですよ。」
フノンは真剣な表情で魔導書を開き、魔獣の弱点について読み込んでいた。
ミクリ「でも、魔剣士として腕が鳴るよ。剣と魔法のコンビネーションをもっと上手く使って、いろんな魔獣を倒してみようと。」
ミクリは剣を手入れしながら力強く言った。
数日の航海の末、ロスフルリントの島影が見えてきた。
しかし、近づくにつれて海面に不穏な霧が立ち込め、視界が次第に遮られていく。
アリス「この霧……ただの自然現象じゃなさそうだね。」
アリスが剣を構えると、フノンが頷いた。
フノン「魔獣の影響かもしれない。この霧には魔力を感じます。注意しましょう。」
霧の中から低いうなり声が響いた。
その瞬間、船の周囲に黒い影が浮かび上がった。
霧の魔獣「ミストファング」だ。
鋭い牙としなやかな体で船を包囲しようとするその姿は、不気味で威圧的だった。
アリス「来たな!かかってこい!」
アリスは剣を抜き、霧を払うように一閃した。
ミクリが魔剣を振るい、火焔の魔法を纏わせた刃で魔獣を攻撃する。
ミクリ「この霧を晴らせば勝てるんじゃないかな!」
フノンは魔術師として冷静に分析し、霧を浄化する光の魔法陣を展開。
フノン「霧に宿る魔力を破壊しましょう。少し時間を稼いでください!」
アリスとミクリが連携してミストファングを引き付けている間に、フノンの魔法が完成。
強烈な光が霧を吹き飛ばし、魔獣を弱体化させた。
その隙を逃さず、アリスの聖剣が魔獣を貫き、ついに勝利を収めた。
霧を抜けた先に待っていたのは、鬱蒼とした森だった。
その森にはさらに多くの魔獣が潜んでおり、進むたびに襲撃を受ける。
巨大な鳥型の魔獣「サンダーフェザー」や、地面を這う毒蛇型の魔獣「ヴェノムクロー」など、次々と現れる敵を相手に、アリスたちは全力で戦い抜いた。
アリス「やっと倒せたよ。ここ、強い魔獣が多いね。くそー!ジェイドが居れば、アンデッドの従魔にできたのに!と思っても仕方ない。それにしても本当に魔獣の巣窟だね……!」
アリスが息を切らしながら嬉しそうに言った。
ミクリ「だからこそ、要塞都市が必要なんだろうな。でも、それにしても魔獣の数が多すぎる。」
ミクリは周囲を警戒しながら答えた。
フノン「きっと何か理由があるはずです。要塞に着いたら、その秘密を探ってみましょう。」
ようやく森を抜けたアリスたちの前に現れたのは、巨大な壁に囲まれた要塞都市だった。
その壁には無数の傷跡があり、魔獣の攻撃から住民を守ってきた歴史を物語っていた。
アリス「これが要塞都市ヴァルドガード……すごい迫力だ。」
アリスは圧倒されながら城門を見上げた。
フノン「入る前に身元を確認されます。ロアン王国からの紹介状を見せれば問題ないはずです。」
フノンが慎重に言った。
城門で衛兵に事情を説明すると、アリスたちは中へと通された。
都市の中は活気に溢れ、人々が逞しく生活していたが、どこか張り詰めた空気も感じられた。
老戦士「歓迎するよ、旅人たち。」
現れたのは都市の指導者である老戦士ダリオスだった。
彼はアリスたちの手腕を見込み、魔獣の増加の原因を突き止める調査を依頼してきた。
アリス「やっぱり、魔獣の数が増えているのには理由があるんだな。」
こうして、アリスたちは都市を守るため、魔獣の脅威の真相を追う旅へと乗り出すのだった。
ヴァルドガードに滞在するアリスたちは、老戦士ダリオスから詳しい話を聞いた。
ダリオス「魔獣たちの数が増えただけでなく、最近は見たこともないような凶暴な個体が現れている。奴らの動きには何か統一感がある……まるで誰かに操られているようにな。」
フノン「魔獣を操る存在?」
フノンが眉をひそめる。
フノン「それがただの噂ならいいのですけど……どこかの魔術師が関与している可能性もありますね。」
ミクリ「となると、調査が必要だな。ダリオス、手がかりはあるか?」
ミクリが尋ねると、ダリオスは地図を広げた。
ダリオス「最近、魔獣が特に多く現れるのは南東の『霊魂の森』だ。だが、そこはかつて王国の追放者たちが隠れ住んでいた場所で、今では人々が恐れて近づかない。お前たちなら行けるかもしれん。」
アリスたちは必要な物資を整え、森へ向かうために都市を出発した。
森に近づくにつれて周囲の空気が重くなり、風の音すらも静まり返る。
森の入り口に足を踏み入れると、すぐに異様な気配を感じた。
フノン「気をつけろ。この森、普通じゃない……。」
フノンが警戒を促す。
すると、霧の中から不気味な声が聞こえてきた。
影の声「来るな……侵入者よ……。」
その声と同時に、周囲の影が揺れ動き、突然、腐敗した外見の魔獣たちが襲いかかってきた。
アリス「来たな!突破するよ!」
アリスが剣を抜き、先頭に立つ。
ミクリは魔剣で敵を払う。
フノン「この森、魔獣だけじゃない。もっと強大な魔力を感じます……。」
フノンが魔術を駆使して足元を固めながら周囲に光のバリアを張った。
フノン「油断は禁物です。この戦い、ただの前哨戦かもしれません。」
森を進むと、朽ちた建物の跡地にたどり着いた。
そこには異様な雰囲気を放つ魔術の遺跡があり、中央に黒い祭壇が置かれていた。
その祭壇からは濃密な闇の魔力が溢れ出していた。
フノン「ここです……魔獣たちの異常はここから来ています!」
すると、祭壇の前にフードを被った謎の人物が現れた。
謎の人物「よくぞここまで来たな、旅人たち。だが、この地を汚す者に生きて帰る道はない。」
アリス「お前が魔獣を操っているのか!」
アリスが問い詰める。
謎の人物「操る?いや、彼らは私の同志だ。我々はこの世界を変えるために選ばれたのだ!」
謎の人物が杖を振るうと、祭壇から黒い光が放たれ、巨大な魔獣が召喚された。
それは森の怨霊と融合したような姿を持つ「シャドウタイラント」だった。
アリス「よし!行きますか!」
アリスは剣を構え、ミクリとフノンも戦闘態勢を整えた。
シャドウタイラントは強力な闇の波動を放ち、アリスたちを次々と吹き飛ばそうとする。
だが、ミクリが炎の魔剣を駆使してその波動を切り裂き、フノンが光の魔法で闇の力を相殺する。
フノン「アリス、隙を作ります!一気に畳み掛けてください!」
フノンが魔法で足元を固め、ミクリが敵の脚を狙って攻撃する。
アリス「分かった!」
アリスは二人の援護を受け、剣を高く掲げた。
アリス「この一撃で終わらせる!」
渾身の力で放たれたアリスの一閃が、シャドウタイラントの胸を貫いた。
その瞬間、魔獣は大きな咆哮を上げて崩れ去り、祭壇も砕け散った。
森の魔力が消え去り、静寂が戻った。
アリスたちは勝利を収めたものの、その代償に疲労困憊だった。
ミクリ「やったね……これで魔獣たちも落ち着くはず。」
ミクリが肩で息をしながら言った。
フノン「まだ完全には終わっていませんよ。この謎の人物の背後に、さらに大きな存在がいるはずですから。」
フノンが祭壇の破片を調べながら呟いた。
要塞に戻ると、ダリオスや住民たちが彼らを迎え入れ、勝利を祝福した。
しかし、ダリオスの顔には安堵と同時に、新たな不安が浮かんでいた。
ダリオス「お前たちがいなければ、この都市は滅びていたかもしれない。だが、この脅威が一時的なものかどうかは分からない。」
アリス「大丈夫。どんな敵でも、私たちは最後まで立ち向かいます。だから安心してください。」
こうしてアリスたちは、ロスフルリントの危機を乗り越えつつ、さらなる陰謀の影を追うことになった。