145 ロアン王国編 part12
歪みを収め、虚空の番人を倒したアリスたちは、星海の民が遺した地図をもとに次なる目的地を目指して航海を続けていた。
しかし、地図に記された歪みの場所が示すのは、奇妙な点であった。
それらの地点はまるで何かの「封印」を形作るように配置されていたのだ。
ミクリ「これが星海の民の意図だったとしたら……この封印、解いていいものなのか?」
ミクリが地図を見つめながら呟いた。
アリス「でも、放っておけば歪みはどんどん広がる。私たちが選択をしなければ、他の誰かがこの力を悪用するかもしれない。」
そのとき、船の前方に霧が立ち込め、突然古代の幻影が現れた。
それは星海の民の一人と思われる壮年の男性で、彼らにこう語りかけた。
幻影「歪みは、かつて我々が封じた力の残滓だ。その力を完全に封印し直すか、解放して使うか……選ぶのはお前たちだ。」
フノン「封印し直すにはどうすればいいのでしょうか?」
幻影は答えずに消え去り、代わりに地図の端に新たな記号が浮かび上がった。
それは「時の島」と呼ばれる場所を示していた。
時の島は、星海の民が時間そのものを操るために築いた遺跡が眠る場所だとされていた。
しかし、その道中には「時の嵐」と呼ばれる特異な現象があり、近づく船は軒並み行方不明になるという。
アリスたちは時の嵐を回避するため、伝説の航海術を習得する必要があった。
幸運にも、ロアン王国には古代航海術を知る隠居した老船長、アラモスがいた。
古代航海術の師匠、アラモス「時の嵐を越える?そんな無茶をするのか。」
アラモスは驚愕した顔を見せたが、アリスたちの決意を感じ取ると、静かに頷いた。
アラモスから教えられたのは、星の動きを読み、嵐の中心を突き抜けるための特別な航法だった。
だが、その航法にはある試練が伴っていた。
それは、船員全員が心を一つにし、嵐の中で互いの役割を完璧に果たすことだった。
アラモス「この嵐はただの自然現象じゃない。人の心の弱さを暴き、船を破滅に導くものだ。」
アラモスが厳しい口調で告げる。
時の嵐に突入したアリスたち。
霧の中では、恐怖の幻影が次々と浮かび上がり、心を惑わせたが、アリスたちはその幻影と向き合い乗り越えた。
嵐を越えたその先に、時の島のシルエットが浮かび上がった。
時の島には、巨大な時計仕掛けのような遺跡があり、その中心には「時の歪み」と呼ばれる現象が渦巻いていた。
その歪みを安定させるには、地図の指示に従い、島の四方にある制御装置を起動する必要があった。
しかし、その装置を守る者として現れたのは、時を操る力を持つ幻影の守護者だった。
守護者は時間を操り、アリスたちの攻撃を先読みして回避しながら、逆に未来からの攻撃を浴びせてきた。
アリス「こんな相手、どうやって倒せばいいの……?」
アリスが汗を流しながら言う。
フノン「こいつの動きに未来があるなら、俺たちはそれよりも先を見据えればいいのです。」
フノンが魔術で仲間の動きを微調整し、連携を強化した。
ミクリ「守護者が見ているのは、俺たちが選ぶ一つの未来だけだ!ならば、それを欺く動きを見せてやる!」
ミクリは自分が攻撃するであろう逆の攻撃をした。
フノンは魔法をランダムで放ち、アリスは相手のいない場所に剣を振るった。
一見バラバラのようだが、三人の連携は守護者の予測を超え、ついにその核となる「時の心臓」を破壊することに成功した。
遺跡の中心にたどり着いたアリスたちは、時の歪みを安定させるためのスイッチを見つけた。
アリス「これを押せば歪みは消える。でも、星海の民の遺産が完全に失われる可能性もある……。」
ミクリ「それとも、遺産の力を解放して、新たな未来を築く方がいいのか……。」
選択を迫られる中、アリスは剣を握りしめ、仲間たちの意見を求めた。
彼らの決断が、次なる冒険の運命を決めることになる。星海の民の遺産は、守るべき調和の象徴か、それとも未来を変える鍵となるのか―。
アリスたちは「時の心臓」が停止し、静寂に包まれた遺跡の中心に立っていた。
前方には、巨大な円形の石扉があり、その表面には星海の民の文字が輝きながら浮かび上がっていた。
アリス「これが……星海の民が残した遺産の核心部……」
アリスは息を呑むように呟いた。
扉の中央には星の果実をはめ込むための凹みがあり、その周囲に時計のような歯車がゆっくりと回転していた。
だが、扉を開けるためにはさらに三つの選択を問う仕掛けが施されていた。
扉の前に立つと、アリスたちの頭の中に直接声が響いた。
それは星海の民が遺した問いだった。
第一の問い:「力とは何か?」
星海の民は、この遺産を持つ者が力の意味を理解しているかを試していた。
アリス「力は守るためのものだ。でも、それだけじゃ足りない。」
アリスは剣を握りしめながら答えた。
アリス「正しい未来を導くための知恵と意志も必要だ。」
扉の歯車が一段階動き、次の問いが浮かび上がる。
第二の問い:「未来とは何か?」
ミクリが一歩前に出て答えた。
ミクリ「未来は、私たちが選び取るものだ。過去に縛られる必要はないし、未来に怯える必要もない。ただ、今をどう生きるかが未来を形作る。」
再び歯車が動き、最後の問いが現れた。
第三の問い:「信じるべきものは何か?」
フノンがゆっくりと前に進み、静かに言った。
フノン「信じるべきものは、自分だけではないのです。仲間、絆、そして私たちが選び取った信念です。」
全ての問いに答えた瞬間、星の果実が扉の中央にはめ込まれ、遺跡全体が振動を始めた。
扉が開かれると、そこにはまばゆい光の空間が広がっていた。
その中には巨大な天球儀のような装置が浮かんでおり、星海の民の遺産――「星界の観測儀」がその姿を現した。
ミクリ「これは……宇宙そのものを映し出しているのか?」
ミクリは驚きの声を上げた。
星界の観測儀は、あらゆる星々とその軌道、そして未来に起こりうる可能性を示す装置だった。
しかし、その中心には歪みの核があり、不安定な状態になっていた。
フノン「この歪みを安定させないと、星界の観測儀は崩壊します……。」
フノンが魔術の気配を感じ取り、警告した。
遺跡が崩壊を始める中、アリスたちは観測儀を安定させるために装置を操作しなければならなかった。
しかし、観測儀を狙う新たな敵が現れた。それは、「時の影」と呼ばれる星海の民の亡霊だった。
影の声「私たちが残した遺産を汚す者よ、ここで滅びるがよい……」
影の声が響き渡り、空間全体が暗闇に覆われた。
アリスが剣を抜き、叫ぶ。
アリス「遺産を守るためなら、何度でも戦う!」
ミクリは観測儀の制御装置に向かい、フノンは影を引きつけながら魔術で仲間を援護する。
影を倒したアリスたちだったが、観測儀を完全に安定させるには重大な犠牲を伴う選択が必要だった。
それは、遺跡の力を封じ込めて二度と使えなくするか、力を解放して新たな未来を切り開くかというものだった。
アリス「この力が正しく使われる保証はない。でも、私たちがそれを制御できれば、多くの人を救えるかもしれない。」
アリスが迷いながらも口を開く。
ミクリ「封印することも勇気だが、解放して責任を持つのもまた勇気だ。」
ミクリが静かに続けた。
フノンが頷き、二人に向かって言った。
フノン「どちらにせよ、私たちの選択が未来を決めるのです。やるなら最後まで全力を尽くしましょう。」
アリスたちは慎重に決断を下し、観測儀の力を解放することを選んだ。
その瞬間、星界の観測儀が鮮やかな光を放ち、虚空の歪みが静かに消えていった。
そして、装置が示した新たな地図には、まだ見ぬ冒険の地が映し出されていた。
アリス「これが私たちの選んだ未来だ。さあ、次の旅に出よう。」
アリスが仲間たちに微笑みかける。
こうして、アリスたちは星海の民の遺産と共に新たな可能性を手に入れた。