144 ロアン王国編 part11
ロアン王国を後にしたアリスたちは、星海の民の地図が示す「霧の峡谷」へと向かう。
そこは、航海者たちが恐れをなして引き返すほどの難所であり、魔物の巣窟とも言われていた。
旅の途中、船を進めるたびに視界は次第に白い霧で覆われ、やがて空と海の境界すらも消えていった。
霧には不思議な力があり、進行方向を狂わせ、心に潜む不安を掻き立てた。
ミクリ「アレ?これじゃどっちが前なのかもわからない……!」
ミクリが焦りの声を上げる。
フノン「落ち着いて。霧の性質を解析してみます。」
フノンが魔術を使い、霧に含まれる魔力を探った。
すると、霧には特定の方向へと流れる魔力の筋があることに気付いた。
フノン「この流れに従えば進めるはずです。けど注意して、霧には幻覚を見せる力もあるようです。」
フノンの言葉に、アリスたちは慎重に舵を取りながら進んだ。
やがて霧の奥から不気味な歌声が聞こえ始めた。
それは甘美でありながら心を蝕むような響きで、船員たちは次々と操られそうになった。
アリス「私に任せて!」
アリスが剣を抜いた。
剣を掲げると、星海の民の力が込められた光が船を覆い、歌声をかき消した。
霧を抜けると、目の前に切り立った岩壁と、緑深い谷間が広がる峡谷が姿を現した。
しかし、そこには星海の民の遺跡を守る「守護者」と呼ばれる魔物が待ち構えていた。
最初に現れたのは、鋭い岩の爪を持つ巨大な石の獣だった。
アリス「これが守護者!簡単には通してくれなさそうだね!面白い!」アリスが剣を構える。
ミクリは魔剣を輝かせながら、獣の動きを観察して言った。
ミクリ「弱点は胸部の輝く結晶だ。だが、攻撃範囲が広すぎる!」
フノンは空中に魔法陣を展開し、石の獣の動きを封じる術を発動した。
フノン「今だ、アリス!」
アリスはその隙を突き、獣の胸部を一閃。結晶が砕け散ると、石の獣は動きを止めた。
アリス「よし、これで進める!」
アリスが声を上げたが、そのとき谷間全体が揺れ、さらなる守護者たちが現れる気配がした。
遺跡の入口へと続く道は、霧と魔物に満ちていた。
しかし、アリスたちはチームワークを駆使し、ひとつひとつの試練を突破していった。
霧の中に現れる幻覚は彼らの過去の記憶を呼び起こし、それぞれが内なる恐怖と向き合わされる。
フノンは幼い頃に師匠を失った記憶、ミクリは仲良くできなかった仲間の記憶、そしてアリスは未知の力への恐怖。
アリス「幻覚に惑わされるな!これは現実ではない!」
アリスが剣を地面に叩きつけると、彼女の声が仲間たちを現実に引き戻した。
ついにアリスたちは遺跡の中心部に辿り着いた。そこには星海の民の秘密が隠された巨大な天球儀が鎮座していた。
ミクリ「これが……星海の民が守ろうとしたものなのか?」
天球儀に手を触れると、遺跡全体が輝き始め、星海の民の声が響いた。
星海の民の声「この力を使う者よ、試練を超え、真実を知る覚悟を持つのか?」
アリス「覚悟ならできているよ。私たちは未来を選び取るためにここに来たんだから!」
アリスが答えると、遺跡の中から新たな地図が現れた。
それは、星海の民が最も恐れていた「虚空の歪み」の存在を示すものだった。
フノン「虚空の歪み……これが星海の民の遺産の真の秘密なのでしょうか?」
ミクリ「歪みが世界を崩壊させる前に、何とかしなければならない。でも、行き先は未知の世界ばかりだ。」
アリス「それでも進むしかない。これ以上、無駄な犠牲を出さないためにも。」
こうして、アリスたちは新たな使命を胸に刻み、さらに深い冒険の世界へと足を踏み入れた。
新たな地図を手にしたアリスたちは、遺跡を後にし、虚空の歪みが広がるという「終焉の海域」へと旅立った。
その地図には詳細な座標が記されていたが、そこに到達するには海域全体に散らばる「星の門」と呼ばれる古代装置を起動しなければならなかった。
地図に示された最初の星の門は、「渦潮の墓場」と呼ばれる危険な海域に隠されていた。
その海域では、巨大な渦潮が常に海面を荒らしており、船を飲み込む危険があった。
アリス「船で近づくのは無謀みたい。フノン、何か方法はない?」
フノン「渦潮の中心には、魔力を吸い込む結晶が埋まっているようです。ミクリ、あの剣で結晶を破壊できますか?」
ミクリ「もちろん。」
ミクリは剣を構え、渦潮の力を抑えるべく、フノンの魔術による足場を利用して海上を飛び跳ねた。
そして渦潮の中心に到達すると、剣を振り下ろして結晶を破壊した。
渦潮が静まり返ると同時に、水面から星の門が姿を現した。
アリス「これが星の門……試すしかないね。」
アリスが手を差し出すと、星海の民の遺産である星の果実が輝き、門が起動した。
星の門を通過する際、アリスたちはそれぞれ異なる空間に引き離された。
そこは彼らの記憶や恐怖、そして欲望が具現化する不思議な領域だった。
アリスは過去の記憶の中で、かつて失った家族との再会を果たす。
しかし、それが幻覚であると悟った彼女は、感情を振り切り、自らの使命に集中する強さを示した。
フノンは、自分が師匠に認められなかった記憶と向き合う。
師匠の幻影は彼を責めたが、フノンは自分の力を信じ、「もう誰の影も追わない」と決意した。
ミクリは、過去の仲間たちの死を目の当たりにする幻覚に囚われた。
彼は自分が無力だと感じていたが、「今の自分なら守れる」と剣を握り締め、幻影を断ち切った。
試練を乗り越えたアリスたちは、再び一堂に会し、星の門の向こう側へと進んだ。
星の門を通り抜けた先には、不安定な空間が広がっていた。
そこでは空と海が逆転し、時折歪んだ重力が発生していた。
フノン「この場所そのものが歪みの影響を受けている……慎重に進みましょう。」
さらに進むと、空間の中心に黒い渦があり、その周囲には星のように輝く物体が浮かんでいた。
ミクリ「もしかして、あれが歪みを引き起こしている源か?」
ミクリが剣を握りながら言った。
近づくと、星のような物体が次々と結集し、人の形をした巨大な存在へと変化した。
それは、星海の民がかつて恐れ、封印した「虚空の番人」だった。
番人は、光の刃と重力を操る力でアリスたちを圧倒した。
アリス「こいつ、今までの敵とは格が違う……!」
アリスが汗を拭いながら剣を構える。
フノン「光の刃を跳ね返せる魔術を試してみるわ!」
フノンが魔法陣を展開する。
しかし、番人の動きはそれを上回り、攻撃が次々と襲いかかる。
ミクリは魔剣を使い、攻撃を防ぎつつ反撃の隙を探した。
そして、アリスとフノンが隙を作ると、彼の一撃が番人の胴体に深々と突き刺さった。
しかし、番人は倒れるどころか、さらに力を増していった。
そのとき、アリスの手に握られた星の果実が強く輝き出した。
アリス「これが遺産の力……?」
アリスが果実を空に掲げると、果実から星々の光が解き放たれ、番人を包み込んだ。
その光は番人を弱体化させるだけでなく、空間の歪みそのものを癒していった。
フノン「これが星海の民が残した本当の力……破壊ではなく調和の力ね。」
フノンが感嘆の声を漏らした。
番人は光の中で姿を消し、空間の歪みは静まり返った。
ミクリ「これで歪みは収まったのかな?」
アリス「いや、これはまだ始まりに過ぎない。この地図には、他にも歪みが点在していることが記されている。」
アリスが地図を見つめる。
フノン「星海の民がこの歪みを封じていたのなら、それを完全に元に戻すのが私たちの使命ですね。」
こうしてアリスたちは、新たな使命を胸に抱き、さらなる冒険へと旅立った。