141 ロアン王国編 part8
目の前で巨大な植物の獣が姿を現す。
苔むした体に、無数の蔓が蛇のようにうねり、その目には森の意思が宿っているようだった。
フノン「果実を守っている!」
植物獣は咆哮と共に動き出した。蔓がムチのようにしなると、鋭い風を切る音が響き、アリスたちに襲いかかる。
アリス「簡単には手に入らないってわけか……面白い!」
アリスが笑みを浮かべながら剣を抜き、正面から突進した。
フノン「この獣、蔓が本体じゃない。どこかに核があるはず!」
フノンは冷静に獣の動きを観察しながら炎魔法を放つが、蔓が盾のように炎魔法を弾いてしまう。
アリス「攻撃を分散させないと防ぎきれない!」
アリスは蔓の攻撃を剣で弾きながら叫んだ。
アリス「私が囮になる!その間に核を探して!」
フノンはアリスの合図で高い木に登り、獣の動きを上から観察する。
フノン「見つけた!胸のあたりに光ってる部分がある!」
ミクリは素早くその方向に閃光攻撃を放つ。
ミクリ「これで足止めを……!」
魔剣から放たれた光が蔓を絡め取り、獣の動きを一瞬止めた。
アリス「今だ!」
アリスが一気に間合いを詰め、獣の胸部に聖なる気を込めた剣を突き刺す。
獣は大地を揺らすような叫び声を上げると、その体が崩れるように消えていった。
静寂が訪れ、木の枝に実った星の果実だけが輝きを放っていた。
アリス「やっと手に入れた……!」
アリスが果実を手に取り、その光を見つめる。
ミクリは疲れた息をつきながら言った。
ミクリ「あの獣、ただの守護者じゃなかった気がする。森そのものの意思が動いていたみたい。」
フノンが静かに頷く。
フノン「この果実は森の宝なんですね。だからこそ、こうやって守られているんだと思います。」
果実を手にしたアリスたちは、再び森を抜ける道へと足を進めた。
その背後で、蝶たちがまた光を放ちながら舞い上がり、森の奥へと消えていった。
森が静かに彼らを見送っているようだった。
ミクリ「星の果実を守る者を倒したけど……本当にこれで良かったのかな?」
ミクリがぽつりとつぶやく。
アリスは果実を見つめながら答えた。
アリス「俺たちがこの果実に相応しいかどうかは、これからの行動で示すしかないだろうな。」
こうしてアリスたちは、星の果実を手に入れることに成功した。
その果実は夜空の星を閉じ込めたかのように輝いていた。
料理大会の会場は、王宮広場に設けられた巨大な厨房だ。
アリスたちはマグナスの指導を受けながら、「星の果実」を使った創作料理を考案した。
フノン「これだ、星の果実の輝きを活かして、月の形をしたパイを作りましょう!」
フノンがアイデアを提案し、ミクリが手早く果実をカットし、アリスがパイの生地を整えた。
他の参加者も様々な工夫を凝らした料理を披露する中、アリスたちの料理が完成。
焼き上がったパイは青白い光を放ち、観客たちから歓声が上がった。
審査員は王国の貴族たちで、厳しい視線で料理を評価する。結果は――アリスたちの勝利だった!
宴会が始まり、踊りと音楽で賑わう夜。
しかし、月が真上に差し掛かった時、突然の異変が起きた。
警備兵「森から獣が現れたぞ!」
警備兵の叫び声が響き渡り、巨大な狼のような獣が会場へと現れた。
獣は月光を纏い、まるで森そのものの精霊のような威厳を持っていた。
恐怖に怯える群衆を守るため、アリスたちは獣に立ち向かう。だが、攻撃は全く効かない。
ミクリ「ただの獣じゃない……何か訴えかけているんだ。」
ミクリが気づき、手を止めた。
アリスたちは戦いを止め、獣の目を見つめた。
フノンが持っていた「星の果実」を差し出すと、獣は静かにその輝きを受け取り、月光の中に溶けるように姿を消した。
混乱が収まり、祭りは再び笑顔と歓声に包まれた。
アリス「星の果実は森の守護者にとって特別なものだったんだな。」
ミクリは頷きながら言った。
ミクリ「私たちが果実を手に入れるために森を荒らしたことに怒っていたのかもしれない。でも、星の果実を返して、許してもらえた気がする。」
宴の最後に、マグナスがアリスたちに言った。
マグナス「君たちは料理大会の勝者であり、月影の森とも絆を結んだ英雄だ。この国の歴史に名を刻んだよ。」
こうして、アリスたちは月光の宴での出来事を胸に刻み、新たな冒険への準備を進めていった。
ロアン王国の夜空には、彼らの活躍を祝福するかのように、月と星が美しく輝いていた。
ロアン王国の大宴会が無事に終わり、星の果実を使った料理は評判を呼び、王国中で語り継がれる伝説となった。
宴会の喧騒が落ち着いた翌日、アリスたちは王宮に招かれた。
賢者エリシア「君たちが森から持ち帰ったこの星の果実だが、実はただの食材ではない可能性がある。」
王の隣に立つ王国の賢者エリシアが、星の果実を掲げながら語り始めた。
果実から放たれる微かな光が、周囲に淡い光の軌跡を描いていた。
それは、星図に似た模様を空中に映し出していた。
エリシア「これはただの光ではない。失われた古代文明、星海の民が残した地図の一部だ。」
アリスは驚いたように果実を見つめた。
アリス「何のことを言っているの?」
フノン「星海の民……? それって、あの海の向こうに存在したと言われる幻の文明のことでしょうか?」
エリシアは頷く。
エリシア「彼らは天の星々を観測し、海を渡って広大な領域を支配していたとされている。そしてこの果実が示す場所――それは、彼らの遺産が眠る場所かもしれない。」
アリス「へェー。そうなんだ。面白そう。」
エリシアの助けを借りて、星の果実が示す星図を解析したアリスたちは、次なる目的地を突き止めた。
それはロアン島の南方に位置する「虚空の礁」と呼ばれる危険な海域だった。
ロアン国王「虚空の礁は航海者たちにとって忌まわしい場所とされている。激しい海流、霧に包まれた島影、そして奇妙な音が船を惑わせると言われている。」
だがアリスたちは決意を固めていた。
アリス「これだけのお宝の手がかりを見逃すわけにはいかない。お宝への旅は、簡単な道ばかりじゃないんだから。」
フノン「それに、この果実を手に入れるために森と戦ったんだ。それが何の意味もない冒険だったとは思えない。」
準備を整えたアリスたちは、王宮から特別に貸与された船に乗り込み、南の海へと漕ぎ出した。
星の果実が導く星図を頼りに、アリスたちは王宮から特別に貸与された「銀翼号」と名付けられた船で旅立った。
この船は魔力を宿す特別な船であり、帆には星海の加護を受けた紋様が刻まれていた。
アリス「虚空の礁って、星海の民の伝承にある場所だろ?」
アリスが船の甲板でつぶやいた。
フノン「ただの伝承じゃないです。失われた文明が残した秘術の鍵が眠っていると言われているのです。」
フノンが杖を握りしめながら答えた。
その表情には興味と警戒が入り混じっていた。
ミクリは船首で剣を研ぎながら言う。
ミクリ「秘術の鍵があるなら、守り手もいるってことだな。気を抜くなよ。」