137 ロアン王国編 part4
背の高い女性で、琥珀色の瞳が特徴的な彼女は、アリスたちを見上げ、無表情で言った。
レーナ「ここに来た理由を聞かせてくれる?」
アリス「実は、我々は聖騎士団と同じ聖なる気を剣に込めて戦っているのですけど、今持っている剣では、聖なる気を込めて闘うと威力は数十倍になるのですけど、剣がすぐにボロボロになってしまい、長く持ちません。聖騎士様は、聖なる気を込めてもボロボロにならない剣を使っていたので、我々も同じような剣が欲しくてここに来ました。」
レーナは黙ってアリスたちの話を聞き、
レーナ「ちょっと剣を見せて。」
アリスが剣を手渡すと
レーナ「わあ!ボロボロだわ。変えの剣は?」
アリスが変えの剣を手渡す。
レーナ「ああ。これは全然ダメだね。そっちの彼が持っている剣を見せて。」
ミクリが魔剣を手渡す。
レーナ「こっちの剣なら丈夫でしょ。」
ミクリ「私の魔剣は聖なる気を込めてもボロボロになりません。」
レーナ「だよね。やっぱりそっちの彼女の剣は普通だからね。この剣がこのようにボロボロになってしまうというのは相当特殊な剣が必要だわ。」
レーナはやがて静かに頷いた。
レーナ「よし!いいでしょう。ただし、この武器を作るには、相当特別な素材が必要なの。『月影珊瑚』と『深海の貝殻』、そして『海霧の糸』。どれも簡単には手に入らない代物よ。」
白い髪を三つ編みにまとめた彼女の瞳には、職人としての自信が宿っていた。
アリス「素材がないと作れないのか?」
アリスが尋ねると、レーナは頷いた。
レーナ「これらの素材は、この島の自然そのもの。素材を集める過程で、この武器があなたに相応しいかどうかも試されるのよ。」
アリス「よし!わかった。さっそく素材を集めに行こう!」
ロアン王国の東海岸。アリスたちは岩場に立ち、満ち引きの激しい潮を見つめていた。
目の前には、時折波間から姿を現す海底洞窟の入り口があった。
それはまるで海そのものが守る門のようで、潮が満ちると完全に姿を消してしまう。
アリス「ここが月影珊瑚が眠る洞窟か。だけど、あの潮流に飛び込むなんて簡単じゃないな。魔法が使えたら楽だったのに。」
アリスが目を細めながら言った。
フノン「タイミングを見極めれば潜れます。波のリズムを読めばいいだけです。」
ミクリは手にした魔法のランタンを調整しながら不安げに呟いた。
ミクリ「でも中は真っ暗だろうし、何が出てくるかわからないよ。準備はしっかりしよう。」
満潮と干潮の間に生じる短い静寂の瞬間を狙い、アリスたちは一斉に海へ飛び込んだ。
潮の流れに抗いながら洞窟の入り口にたどり着くと、冷たい水と岩場の湿気が全身を包み込んだ。
海底洞窟の中は予想以上に暗く、波の音が反響して耳を圧迫するようだった。
ミクリが魔法のランタンを点灯させると、淡い青い光が周囲を照らし出し、無数の岩壁が生き物のように揺れて見えた。
フノン「気をつけて。この洞窟は自然が作り出した迷路のようなです。」
突然、岩陰から鋭い牙を持つ魚が飛び出してきた。
体長1メートルほどの魚は、鋭い音を立てながらアリスたちに突進してきた。
アリス「くそっ、こいつら攻撃してくるのか!」
アリスが剣を構える。
フノンは冷静に炎の魔法を放ち、魚を追い払った。
フノン「一匹だけじゃない。群れがいますね。早く進みましょう!」
道中、彼らは水流を逆手に取り、暗闇の中で魚の動きを読みながら慎重に進んでいった。
ミクリは魔法の光を道標として使い、進行方向を確保した。
洞窟を抜けた先には、不思議な静寂が広がる広間があった。水面から月光が差し込み、洞窟内を幻想的に照らしていた。
そしてその中心、澄んだ水中には青白く輝く「月影珊瑚」が静かに揺らめいていた。
アリス「これが、月影珊瑚だ!」
アリスはその神秘的な光景に息を呑んだ。
しかし、彼らが珊瑚に近づこうとした瞬間、足元の水が異様な動きを始めた。
巨大な影が水面を割り、姿を現した。それは翼を広げたような形の巨大なエイの魔獣だった。
全身は黒曜石のように光を反射し、その尾には鋭利な棘が付いていた。
エイの魔獣は高い知能を持ち、狡猾な攻撃を仕掛けてきた。
翼を広げて水を巻き上げ、渦を作り出しながらアリスたちを翻弄する。
ミクリ「くそー!この渦じゃ動けない!」
アリス「なら動きを止めるしかない!」
アリスは剣を構え、渦の中を無理やり突き進んだ。
フノンは崩れ落ちる岩場に登り、上空から魔獣の動きを観察した。
フノン「尾の付け根が弱点ですね!そこを狙いましょう!」
ミクリは渦の中心に魔法の光を投げ込み、魔獣の注意を引きつける。
隙を見たアリスが渾身の力で剣を振るい、尾に一撃を加えた。
フノン「よし、今だ!」
フノンが炎の魔法を放ち、正確に弱点を射抜いた。
その瞬間、魔獣は激しい振動とともに崩れ落ち、洞窟の水は静けさを取り戻した。
息を切らしながら、アリスたちは再び月影珊瑚の前に立った。
水中に揺れる珊瑚を慎重に採取し、レーナに渡すべき素材を手に入れた。
アリス「こんなに苦労するとは思わなかったけど、これでひとつクリアだな。」
アリスが笑みを浮かべる。
ミクリ「次は深海の貝殻だね。気を抜かないでいきましょう。」
青白く輝く「月影珊瑚」の光は、まるで月の光を閉じ込めたように神秘的だった。
島の北東部に位置する「荒波の浜辺」。
その名の通り、そこは常に高波が打ち付ける危険な海岸だった。
潮風が激しく吹き荒れる中、アリスたちは険しい崖の上に立ち、眼下に広がる荒々しい海を見下ろしていた。
ミクリ「こんな場所で貝なんて本当にあるのか?」
ミクリが波の音に負けないように声を張り上げた。
フノンは地図を広げ、崖の下に目を向けた。
フノン「レーナの話では、深海の貝殻は波が最も強く打ち付ける崖の陰にあるらしい。でも相当危険だね。」
アリス「危険なんて百も承知だろう。覚悟を決めたんだ。」
アリスは笑みを浮かべながら落ちないようにロープをしっかりと結びつけた。
アリスたちはロープを使い、崖を慎重に降りていった。
アリス「下を見たら、怖!」
下からは激しい波の音が響き、飛沫が顔に降りかかる。足場は濡れて滑りやすく、一歩間違えれば命を落とす危険があった。
途中、ミクリが小さな岩棚に足を滑らせそうになった。
ミクリ「お、おい、これは無茶すぎるだろ!」
アリス「しっかり掴まって!あと少しで底に着くよ!」
アリスが手を差し伸べ、ミクリを支えた。
ようやく崖の下にたどり着いた彼らを待っていたのは、荒波の合間に姿を覗かせる小さな洞窟だった。
洞窟の奥から微かに虹色の光が漏れ出している。
フノン「間違いない!あれが深海の貝殻の場所だ。」
フノンが息を呑むように言った。
洞窟に入ると、そこは意外にも静かだった。
しかし、彼らが進むと洞窟の奥にある水たまりが大きく揺れ動き、突然、巨大な魚のような魔獣が姿を現した。
それは「海王魚」と呼ばれる伝説の生物で、長いひれと鋭い牙を持ち、洞窟を守護していた。
ミクリ「こんな場所で魔獣かよ!」
ミクリが叫び、即座に身構えた。
フノン「守り神ってところですね。でも引き下がるわけにはいきません!」
海王魚は水を大きく巻き上げて彼らを襲い、洞窟内に激しい波を生じさせた。