136 ロアン王国編 part3
二つ目の部屋に入ると、中央に大きな石台座が鎮座していた。
そこには月を象った彫刻があり、彫刻の周囲には様々な色や大きさの宝石が散らばっていた。石台座にはこう刻まれている。
アリス「月はその均衡によって輝く。重さを正しき調和へ導け。」
フノン「つまり、台座の左右に宝石を置いて、均衡を保つ必要があるってことだね。」
フノンが台座に近づき、宝石をじっと見つめた。
ミクリ「でも、どの宝石がどの重さなのか分からないよ?」
フノンはしばらく考え込み、
フノン「とりあえず一つずつ試してみよう。重さを調整しながらバランスを取るんだ。」
と言って宝石を慎重に配置し始めた。
フノンの計算と直感が冴え渡り、次々と宝石を並べ替える。
何度か失敗して台座が振動し、罠が作動しかけたが、フノンは落ち着いて修正を続けた。
フノン「もう少し……完璧なバランスが見える……これでどうだ!」
最後の宝石を配置した瞬間、石台座が静かに光を放ち、扉が開いた。
アリス「すごい!やっぱりフノンは頼れるな!」
最後の部屋は広大な空間で、天井には巨大な満月が輝いているように見えた。
その中央には、銀色の鎧をまとった巨大な石像が立っていた。
石像が目を光らせると、部屋全体が振動し、轟音とともに動き始めた。
巨大な石像「侵入者よ、ここを通ることは許されない。」低い声が部屋に響く。
アリス「仕方ない戦うしかない!」
アリスが剣を抜く。
アリス「魔力を失っている状態で、剣に聖なる気を込めることで、どれだけ戦えるか?試すチャンスだ。」
石像は巨大なハンマーを振りかざし、一行を追い詰める。
ミクリ「弱点を探そう!こんなに大きな体なら、どこかに隙があるはず!」
フノンは炎の魔法で、石像の関節部分を狙い続けた。
炎の魔法が命中すると、石像の動きが一瞬鈍る。
その状況を見て、ミクリが石像の脚の関節を攻撃し、バランスを崩させることに成功した。
アリス「今だ!」
アリスが剣に聖なる気を込めて最後の一撃を加え、ついに石像は崩れ落ちた。
部屋の奥には、月光のような青白い光を放つ祭壇があり、その上に「月光の鏡」が安置されていた。
満月の光が鏡に反射し、部屋全体を美しい青の輝きで包み込む。
だが祭壇の前には一人の男が立ちはだかっていた。
フノン「あなたは? ロウレンス博士ですか?!」
図書館の本で見たことがあるとフノンが驚きの声を上げる。
ロウレンスはいくつも本を出している著名な学者であり、未来予測や魔法工学の権威として知られていた。
普段は温厚で王家にも忠実な彼が、なぜこんなことをしているのかアリスたちは理解できなかった。
フノン「なぜだ、博士?なぜ鏡を盗んだんですか?」
フノンが問い詰める。
ロウレンスは冷たい目で一行を見据え、ゆっくりと口を開いた。
ロウレンス「お前たちには分からないだろう。この国の衰退がどれほど深刻か。貴族たちは自分たちの権力を守ることしか考えていない。民衆は貧しさに喘ぎ、未来は絶望的だ。この鏡の力を使えば、未来を改変し、王国を救えるんだ!」
アリス「未来を変えるって、具体的にどうするつもりなんだ?」
アリスが剣を構えながら問いかける。
ロウレンス「この鏡は、月光を通じて未来の可能性を映し出すだけではない。その力を使えば、過去や未来に干渉し、運命そのものを変えることができるんだ!」
ロウレンスの目には狂気と確信が宿っていた。
アリスが一歩踏み出し、鏡を取り返そうとするが、ロウレンスが鏡の力を解放する。祭壇の周囲に青白い光の結界が立ち上り、アリスたちの行く手を阻む。
ミクリ「この結界を破らないと鏡に近づけないようだ!」
さらに、ロウレンスが持っていた魔法の杖が輝き、彼の周囲に月光を纏った幻獣が召喚される。
巨大な狼のような幻獣が唸り声を上げ、一行に襲いかかる。
アリス「この狼を倒さないと、博士に近づけない!」
アリスは剣を構え、フノンとミクリと共に幻獣と戦い始める。
ミクリの正確な一撃が幻獣の目を射抜き、フノンはトラップ魔法を駆使して動きを封じる。
アリスは決死の覚悟で幻獣に突進し、その首に聖なる気を込めた剣を突き立てた。
幻獣が消滅すると、結界が一瞬弱まる。
アリス「今だ、突っ込め!」
アリスの声で全員が祭壇に向かう。
ロウレンスは杖を掲げ、さらに強大な魔法を発動しようとする。
しかし、アリスが彼に剣を向けながら叫ぶ。
アリス「博士!未来を変えたい気持ちは分かる。でも、それを鏡の力に頼るのは間違ってる!未来は俺たち自身の手で作るんだ!」
ロウレンスは一瞬ためらうが、狂気に駆られた彼は魔法を発動する。
青白い光がアリスたちを包み込もうとするが、アリスは剣を地面に突き立て、全員を守るように叫んだ。
アリス「みんな、聖なる気の力を合わせるんだ!」
ミクリが聖なる気を込めた魔剣で一撃を放ち、フノンが魔法でロウレンスの杖を封じ込める。その隙にアリスが突進し、ロウレンスの杖を真っ二つにした。
アリス「終わりだ、ロウレンス!」
アリスが剣をロウレンスの胸元に突きつける。
ロウレンスは力尽き、崩れ落ちた。そして、呟いた。
ロウレンス「私が間違っていたのかもしれない。でも、この国の未来は、本当に明るいと言えるのか?」
月光の鏡は静かに輝き続けていた。
アリスはそれを手に取り、祭壇に戻すと、鏡が一瞬、彼らの姿を映し出した。
その中には、笑顔で共に未来を歩む王国の人々が映っていた。
アリス「未来は、我々が作るのです。」
アリスが静かに呟いた。
ロウレンスはアリスたちに連れられて王城へ戻ることになったが、彼の胸には、まだ捨てきれない理想と罪の意識が宿っていた。
それでも、アリスたちはこの事件を通じて、未来を切り開く力が自分たちにあることを信じるようになったのだった。
鏡を王城に戻したアリスたちは、エルンスト九世に事情を報告した。
王は、ロウレンスの思いを理解しつつも彼の行動を許すことはできないと判断し、彼を幽閉した。
そして、月光の鏡は再び宝物庫に保管されたが、王はこう言った。
エルンスト九世「未来を変えるのは鏡ではなく、人々の意志と行動だ。お前たちがそのことを教えてくれた。」
王城を離れた後、アリスたちは、聖なる気を込めて戦える剣を求めて市場にいた。今持っている剣では、聖なる気を込めると剣が耐えられなくなった。魔力があった時は、その弱みを魔力で補っていたが、魔力のない今では、補うことができない。
島の市場で情報を集めるうち、「珊瑚細工の名匠」として知られる職人レーナの噂を耳にする。
彼女は武器職人として名高く、特に聖なる気に耐えられる特殊な素材で作られた武器を手掛けることで知られていた。
アリスたちは港町の外れにあるレーナの工房を訪れた。
石造りの小さな建物の中には、美しい珊瑚や貝殻を使った武器や装飾品が所狭しと並んでおり、そのどれもが魔法的な光を放っていた。
レーナは美しい珊瑚のアクセサリーを磨いていた。