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133 聖なる気の修行編 part8

<パブロフ正教国>


広大な砂漠地帯を抜けた先にある、パブロフ正教国の中心地。金色の尖塔が輝き、どの方角からも目に入る大聖堂。

美しいステンドグラスが太陽の光を受けて色とりどりの聖光が降り注いでいる大神官室。


長い白髪と威厳ある顔立ちの最高司祭長が聖騎士団総隊長ダンベルクから、報告を受けていた。


ダンベルク「エリュシオンの泉に行き、神聖な地で聖なる気を高める修行をしていたのですが、そこに、南の魔王が現れたのです。」


最高司祭長「なんと!魔王が神聖な地に入ってきたというのか?」


ダンベルク「その通りでございます。神聖な地に魔王が入ってきたのです。」


最高司祭長「あり得ん!そのようなことは合ってはならぬ。もし本当なら一大事である。」


ダンベルク「私も一大事と考えて、魔王を排除しようと試みたのですけど、闘いに負けてしまいました。」


最高司祭長「神聖な地でありながら、邪魔な魔王に、聖なる騎士団が負けたということか!実に由々しき問題である!」


ダンベルク「信じられないことに、魔王が聖気を使っていたのです。」


最高司祭長「なに!なぜ魔王が聖気を使えるのだ!そんなことは合ってはならぬのだ!」


ダンベルク「そのために、こちらは聖魔導師フリードリヒと、若き聖騎士リリアン、そして、前回の戦争でアリスと闘った聖騎士団長のアークレイの聖騎士団の精鋭10人で挑んでも、北の魔王に負けてしまいました。」


最高司祭長「ダンベルク!汝は聖騎士団で一番強く世界最強と言われたはず。なのに、聖騎士団の精鋭部隊10人で負けてしまったということは、我々では全く敵わないということにある。そんなことは合ってはならぬ!」


マクシミリアン「まあ待ちなさい。すでにこのことは全世界中に知れ渡ってしまった。今から画策しても遅い。今のところ、北の魔王は、人間に危害を加えるつもりはない。こうして聖騎士がみんな無事に戻ってきたことからもわかる。ここはしばらく静観するしかあるまい。」


最高司祭長「マクシミリアン老司祭がそうおっしゃるのでしたら、私からは何も申せません。」


マクシミリアン「ダンベルク!聖騎士のレベルを上げる努力は続けなさい。」


ダンベルク「かしこまりました。」


マクシミリアン「いずれまたチャンスが来るその時に備えなさい。」


ダンベルク「はい!わかりました。」


マクシミリアン「それから聖騎士団の数を増やしなさい。できれば1000人以上欲しい。今の100人では少な過ぎますね。」


最高司祭長「すぐに人数を増やす計画に移ります。」


マクシミリアン「すべてのことは、内密に進めるようにして欲しい。」


最高司祭長「かしこまりました。」


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挿絵(By みてみん)


ロアン王国周辺地域


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アリスたちは、レンブラント王国を出て、船でロアン王国に向かっていた。


アリスたちを乗せた船は、静かな夜の海を滑るように進んでいた。


空には満天の星々が広がり、その輝きが水面に反射して煌めいている。


船のデッキに立つアリスは、風に髪をなびかせながら遠くの水平線を見つめていた。


アリス「この夜空、まるで別世界みたい……」


ミクリがデッキに現れ、アリスの隣に立つ。

フノンも甲板で星を見上げながら微笑む。


アリス「新月の夜は、星が特に輝くよね。こんな夜は不思議なことが起こりそうだね。」


しかし、その言葉がまるで予言のように、突然アリスの体に異変が起こった。


アリス「身体から力が抜けていく。」


彼女は胸元を押さえ、膝をつく。


アリス「な、何だ?あれディネやサラが見えない!」


彼女の周囲にいつも感じられるはずの魔力が、急激に消え去っていた。


アリスは手を伸ばし、自分の魔力を呼び起こそうとするが、何も感じられない。


ミクリ「アリス!どうしたの?」


ミクリが駆け寄り、アリスの肩を支える。


アリス「わからない……急に体が軽くなったような、でも、何か大事なものを失った感じだ……」


フノン「どんな風に?」


アリス「力が力が入らない!」


メリッサ「アリス様から魔力が感じられなくなりました。」


フノン「そうか!アリスの魔力が消えたんだ。」


ミクリ「どういうこと?」


フノンが眉をひそめ、記憶の中を探るように呟いた。


フノン「もしかして……これ、『魔王の宿命』かもしれない。」


フノンは昔、古代の魔道書に記されていた伝説を思い出した。


フノン「魔王の力は、星の巡りと深く結びついている。千年に一度、新月の夜、魔力の流れが世界から断ち切られることがある、と記されていたわ。」


メリッサ「私も西の魔王様から聞いたことがあります。」


ミクリが驚いた顔で尋ねる。


ミクリ「でも、どうしてそんなことが起こるんだ?」


フノン「理由ははっきりとは分かっていないけど、伝説ではこう書かれていたの。魔王の魔力は、彼自身の力ではなく、世界の『根源の流れ』から引き出されている。新月の特定の夜、星々の配置が魔力の流れを遮断し、一時的にその力が奪われる……」


アリスは肩で息をしながら、言葉を絞り出した。


アリス「つまり、これは……星々が決めた、避けられない宿命ってことか?」


フノンはさらに考え込むように続けた。


フノン「古代の魔王たちは、この期間を『静寂の試練』と呼んでいた。この期間中、魔王は魔力に頼ることなく、自分の意志や体力、知恵だけで困難に立ち向かわなければならないとされていたらしいです。」


ミクリが不安そうに言う。


アリス「でも、魔力がないなんて……アリス、大丈夫なの?」


アリスは立ち上がり、力強く頷いた。


アリス「これもまた、魔王としての宿命なら受け入れるしかない。魔力がなくても、修練した聖なる気の力で私は戦える。」


その時、船の周囲に怪しい波紋が広がり始めた。海面が暗い影に覆われ、まるで何かが目覚めたかのようだった。フノンが目を見開く。


フノン「これは……星の巡りに合わせて現れる、深海の精霊『セレナ・ノクタ』の影響かもしれません!」


海中から現れたのは、青い光を放つ巨大な海蛇のような姿をしたセレナ・ノクタだった。


その目には古の知恵と怒りが宿り、新月の夜に魔力を失ったアリスを試そうとしているかのようだった。


ミクリ「アリス、戦うしかないよ!」


アリス「ああ!」


海面から現れた巨大な海蛇「セレナ・ノクタ」は、青白い光を纏いながら咆哮を上げた。


その音は空気を震わせ、船の甲板を軋ませるほどの迫力だった。


アリスの仲間たちは一瞬身をすくめたが、アリスは前に進み出た。


アリス「魔力がなくても、私は立ち向かえる!」


その言葉には、これまでの戦いで培われた揺るぎない決意が込められていた。


アリスは自分の胸元に手を置き、静かに目を閉じた。


魔力が失われた体に、新たな力の流れを感じようとしている。


エリュシオンの泉での修行を思い出し、心を落ち着けた。


アリス「聖なる気は、内なる流れと一つになることで発揮される……。」


その瞬間、彼女の剣がわずかに輝いた。


仲間たちは驚きの表情を浮かべる。


ミクリ「アリス、今の光は何?」


アリス「エリュシオンの泉で得た『聖なる気』。」


アリスは剣を掲げ、青白い光を放つ海蛇に向き直る。


その剣からは聖なる輝きが広がり、まるで夜空の星々と共鳴しているかのようだった。


セレナ・ノクタは巨大な尾を振り上げ、船に向かって叩きつけた。

水柱が立ち上り、船体が大きく揺れる。


ミクリとフノンが甲板にしがみつきながら叫ぶ。


ミクリ「アリス、危ない!」


だがアリスは冷静だった。

海蛇の動きを見極め、咄嗟に跳躍してその尾の一撃を避ける。

そして空中で剣を構え、海蛇の頭部に向かって一直線に飛び込んだ。


アリス「この程度で私は負けない!」


剣を振り下ろそうとした瞬間、海蛇が口を大きく開け、眩い光の玉を吐き出した。


その光は聖なる気を打ち消すかのように迫り来る。


アリスは剣を両手で握り締め、胸の奥から湧き上がる力に呼びかけた。


エリュシオンの泉から授かった青い水晶がポケットの中で輝き始める。


アリス「この力がある限り、私は負けない!」


剣が水晶と共鳴し、かつてないほどの光を放った。


その光はアリスの全身に広がり、彼女自身が光の存在となったようだった。


アリス「これが……聖なる気の真の力……!」


アリスは剣を一振りし、光の刃を生み出す。


それはまるで流星のように海蛇の光の玉を切り裂き、その体に直撃した。


海蛇は苦しそうにうねりながら後退する。


だが、その目はまだ怒りに燃えていた。

アリスは剣をもう一度構え、力強い声で叫ぶ。


アリス「これで終わりだ!」


彼女は剣を海蛇の頭部に向けて突き出し、聖なる気を一気に解放した。その瞬間、剣から放たれた光が海蛇を包み込み、その体を浄化するように輝かせた。


光が収まり、海蛇の姿は消え去った。


海面は再び静けさを取り戻し、夜空には星々が輝き続けていた。アリスは膝をつき、深い息を吐く。


ミクリとフノンが駆け寄り、彼女を支える。


ミクリ「アリス、すごい!魔力がなくても、こんな力があるなんて!」


フノンも微笑みながら言った。


フノン「聖なる気を十分使いこなせるようになったね。」


アリスは疲れた笑顔を浮かべながら頷いた。


アリス「みんながいてくれたから、乗り越えられたんだ。ありがとう。」


空がうっすらと明るくなり始め、新月の夜が終わりを迎えた。


その光の中、アリスたちの船は新たな冒険の地であるロアン王国へと進んでいった。




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