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129 聖なる気の修行編 part4

赤熱した断崖を抜けた先は一転して静寂に包まれた岩石地帯。乾いた風が砂を巻き上げ、空には不穏な灰色の雲が立ち込めている。アリスたちはその地に残る異様な気配に気づきながらも足を止めることなく進んだ。


フノンが辺りを見回して言った。


フノン「この空気……魔力がまだ渦巻いている。燃える断崖の試練は終わったはずなのに。」


ミクリが剣を握りしめながらうなずいた。


ミクリ「何かが俺たちを試し続けているようだな。油断はできない。」


アリスたちは嵐の山脈のふもとに到着した。目の前にそびえ立つ山脈は、天を裂くように荒々しくそそり立ち、その上空には常に黒い雲が渦を巻いていた。耳をつんざくような轟音の風が吹き荒れ、立っているだけで体が押し戻されそうになる。


フノン「これが嵐の山脈ですね。確かに名前通りのようです。」


フノンが髪を押さえながら呟いた。

ミクリは風を遮るように腕を上げ、険しい表情で山を見上げた。


ミクリ「ここを進むのか?これはちょっとした冒険じゃ済まないぞ。」


アリスは冷静な瞳で山脈を見据えた。


アリス「この風の中で心の静けさを保つのが試練の鍵みたい。先に進みましょう。」


一行は嵐の山脈の中へと進んだ。風が吹きすさぶ道は岩場が続き、進むたびに足元の砂や小石が風に舞い上がり、目や肌を刺した。ときおり風の勢いが増し、全員が岩にしがみついてやり過ごす場面もあった。


道中、奇妙な音が風に乗って聞こえてきた。それは悲しげな歌のようであり、怒りに満ちた叫び声のようでもあった。


フノン「この音はただの風じゃない。」


フノンが呟くと、ミクリが険しい顔で頷いた。


ミクリ「そうだな。何んだろう? 意思を持った何かが、俺たちを試しているような感じがする。」


やがて、一行は山脈の中心部と思われる場所にたどり着いた。そこには巨大な岩の円形広場が広がり、その中央には巨大な石の柱が立っていた。柱には古代文字が刻まれており、風がその周囲を旋回するように吹き荒れていた。


アリス「これが試練の場所だね。」


アリスが柱に手を触れると、突然周囲の風がさらに強くなり、耳元に囁くような声が聞こえた。


風の守護神「静けさを見つけよ。嵐の中で心を乱されぬ者だけが通ることを許される。」


すると、風が一箇所に集まり、目の前に透明で美しい姿を持つ風の守護神が現れた。その姿は女性のようでもあり、風そのものの具現化でもあるようだった。


守護神「試練を求める者よ。この地で嵐を制することができるか?」


アリスは静かに目を閉じ、風を感じ取った。次の瞬間、守護神が両手を広げると、風が怒涛の勢いで渦を巻き、一行を包み込んだ。猛烈な風音と共に、視界は完全に奪われ、体中に風の圧力がかかった。


ミクリ「くそっ!こんなのどうすればいいんだ!」


フノン「冷静になって!風を止めるんじゃなく、心を落ち着けましょう!」


しかし、その声さえも風にかき消される。


心の静けさを保つ試練

アリスはその中で深く息を吸い、心を静めることに集中した。周囲の嵐は激しさを増すばかりだったが、彼女は意識を風の中心へと向けた。


アリス「風は恐怖ではない。風はただ、自然の力。恐れるのは、私自身の心。」


やがてアリスの周囲に穏やかな空間が生まれた。嵐の中でありながら、彼女の立つ場所だけは風が静まり返っていた。


守護神が驚いたように微笑む。


守護神「静けさを見つけたのか。ならば、次は己の仲間にその静けさを伝えよ。」


アリスは仲間たちに向き合い、優しく語りかけた。


アリス「恐れることはないわ。風は力じゃない。ただ、私たちを試しているだけよ。自分の心に集中して。」


その言葉がフノンとミクリに届くと、二人もまた次第に恐怖を抑え、風の中で穏やかな表情を取り戻した。


すると突然、風が静まり、広場全体が穏やかになった。守護神は満足げに頷き、こう告げた。


守護神「見事だ。嵐の中で静けさを見出したその心、私が祝福しよう。試練はこれにて終わり。」


守護神が手を差し出すと、アリスの手に風の結晶が現れた。その結晶は、嵐の中で得た静けさを象徴するものだった。


守護神「これを持って進むがよい。次の試練への道は、風が導くだろう。」


守護神は静かに消え去り、アリスたちは一瞬の静寂の中で息をついた。試練を乗り越えた彼らは、新たな決意を胸に次の試練の地へ向かう準備を始めた。


アリスたちは地図に記された場所、「神秘の水源」へと向かった。


その地は密林の奥深くにあり、行く手を阻むように絡み合う木々や湿地帯が広がっていた。


迷路のような森を抜け、ようやく滝の轟音が聞こえてきたとき、彼らの視界に現れたのは、驚くほど巨大な滝だった。


白い水が空から大地へと叩きつけるように流れ落ち、周囲には霧のような水しぶきが漂っていた。滝の勢いは圧倒的で、その轟音は心臓にまで響くほどだった。


ミクリ「これが……神秘の水源か。」


ミクリは息を呑んだ。


フノン「こんな場所に試練が隠されているなんて、想像もつかないわね。」


フノンが水しぶきを払いながら言った。


アリスは滝をじっと見つめながら呟いた。


アリス「滴り落ちる水が岩を穿つ。ここで私たちに試されるのは、力や速さじゃない。水が持つ忍耐と持続の力を学ぶことが求められているに違いない。」


滝の底に降りる道はなく、断崖絶壁が続いていた。しかし、滝壺に降りなければ試練を進めることはできない。


フノン「まずは安全に降りる方法を考えましょう。」


フノンが言い、手際よくロープや滑車を準備し始めた。

メリッサは防護魔法を唱え、霧のような水しぶきが彼らの視界を塞がないよう結界を張った。


ミクリは準備が整うと滝を見上げ、苦笑いを浮かべた。


ミクリ「こんな場所で降りる訓練なんてしたことないけど、やるしかないな。」


一行はロープを使いながら慎重に崖を降りていった。

水しぶきが絶え間なく降り注ぎ、足元は滑りやすく、風も強かった。

フノンが時折魔法でロープを強化しながら、アリスは先頭に立って冷静に指示を出した。


滝壺にたどり着いたとき、一行はその光景に息を呑んだ。

滝の底は不思議な静けさに包まれていた。轟音のはずの水音が遠ざかり、代わりに耳元で小さなささやき声のような音が聞こえてきた。


アリス「これは水の守護神の声?」


アリスが驚いて言うと、フノンとミクリも頷いた。


滝壺の中央には、不思議な光を放つ石碑があった。

石碑には古い文字が刻まれており、その周囲には緩やかに流れる水が静かに渦を巻いていた。


アリスが石碑に近づくと、突然、滝の流れが激しく変化し、水流が渦となって彼らを取り囲んだ。


水の守護神「試練を受ける者よ、水の忍耐と持続の力を示せ。」


低く響く声が滝壺全体にこだました。その瞬間、水が形を変え、人型の姿をした守護神が現れた。その姿は透明で美しく、流れる水そのものが命を持って動いているようだった。


アリス「水の試練とは?」


アリスが問いかけると、守護神が答えた。


守護神「力や速さではなく、忍耐と信念。水が岩を穿つように、お前たちが心を試される時だ。」


守護神が手をかざすと、滝の水が一行に向かって押し寄せてきた。水流は重く、彼らを押し倒そうとするような勢いだった。


フノン「ただ耐えるだけじゃ駄目です!」


アリスは目を閉じ、冷静に水の流れを感じ取った。


アリス「この流れを受け入れて、その中でどう動くべきかを見つけるのよ。」


彼女は水流に逆らわず、身を任せるように動き始めた。すると不思議なことに、激しい流れが柔らかく感じられ、彼女の周囲に穏やかな空間が生まれた。


ミクリ「なるほど……水の流れに身を任せながら、逆にその中心を見つけるんだな!」


ミクリがそれに気づき、同じように動き始めた。


フノンもまたアリスの動きを真似て、次第に水流の中で落ち着きを取り戻した。やがて全員が水の流れを受け入れ、その中で心の静けさを保つことに成功した。


水流が静まり、守護神が再び姿を現した。


守護神「見事だ。お前たちは水の持つ真の力を理解した。これを受け取るがよい。」


守護神が手を伸ばすと、彼らの前に青く輝く水の宝珠が現れた。


守護神「これが水の力を象徴するもの……これで次の試練への道が開けるわ。」


アリスは宝珠を手に取り、静かに微笑んだ。


守護神は消え去り、滝の音が再び静かに響く中、アリスたちは新たな力を胸に刻み、次の地へ向かう準備を整えた。


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