128 聖なる気の修行編 part3
アリスは、レンブラン王国の第一王女 クリスティーナに図書館の禁書庫で見つけた古い巻物と吟遊詩人の話しをしたら、クリスティーナが王国に滞在していた有名な占星術師に相談してみましょうと言われた。
アリスたちはさっそくその占星術師を紹介していただき、その占星術師を訪ねた。
占星術師は、星々の動きから未来や運命を読み解く術に長けており、アリスは彼女の力を借りてエリュシオンの泉の在処を確かめようとした。
星を見上げながら、占星術師は低く語り始めた。
占星術師「星々はあなたが光と影の狭間に立つ運命を示している。だが、そのバランスを保つには、聖なる気の力を極めねばならない。エリュシオンの泉……そこに眠る神の息吹が、お前の未来を照らす鍵となるだろう。」
占星術師の言葉は、僧侶の話を裏付けるものだった。だが場所を示す手がかりはなかった。
さらに調査を進める中で、アリスは驚くべき事実を知った。
かつてこの地で繰り広げられた「大光闇戦争」の際、多くの英雄たちが力尽き、敗北の瀬戸際に立たされていた。
だが、その中の一人が偶然エリュシオンの泉にたどり着き、その力を得て戦局を逆転させたという伝説がレンブラン王国の西方の村にも残っていたのである。
アリスはその伝説に確信を得た。
アリス「エリュシオンの泉は必ずある。英雄たちが見た光を、光の奇跡を私はこの目で確かめたい。」
ただし、エリュシオンの泉は簡単に到達できる場所ではない。それを知ったのは、もう一度賢者ヴォルデンを訪ねた時だった。彼は厳しい顔で忠告した。
賢者ヴォルデン「エリュシオンの泉は、ただの聖地ではない。それは選ばれた者のみが到達できる場所だ。泉を目指す者は試練に挑まなければならない。それは己の弱さと向き合う戦いでもある。」
ヴォルデンの言葉にアリスは微笑んだ。
アリス「私が試練を恐れるとでも?いくつもの闇を乗り越えてきた私が、逃げるわけがない。」
こうしてアリスたちは、ただ伝説に惹かれただけでなく、自分自身の限界を超えるためにエリュシオンの泉を目指すことを選んだのだった。
アリスたちにとってエリュシオンの泉は単なる力の泉ではなく、彼女の信念と未来を試される場だった。聖騎士団という存在の重み、そして世界の平和を守るための覚悟。そのすべてを背負いながら、アリスは未知の道へと旅立った。
アリスたちの旅は、自分自身を知り、力の本質を見極めるためのものでもあった。エリュシオンの泉がどのような真実をアリスたちに示すのか―それはまだ、誰も知らない未来への挑戦だった。
古くから「神の息吹が宿る」と言い伝えられる秘境、エリュシオンの泉。
その場所は、地図に記されておらず、存在を知る者も少ない。そのため、到達するには膨大な知識と冒険心、そして忍耐が必要とされる。
アリスは、聖なる気に詳しい賢者を訪ねるため、レンブラン王国の古都の塔を再び訪れた。そこに住む賢者ヴォルデンは、アリスたちの再訪問に、険しい表情を浮かべた。
ヴォルデン「まだエリュシオンの泉を諦めておらぬのか……。そこは神聖であるがゆえ、選ばれし者以外は足を踏み入れることすらできない。その上、道中には恐ろしい試練が待ち受けていると言ったはずじゃが。」
アリスは迷うことなく頷いた。
アリス「どんな試練が待っていようと、私は進む。それが私の力を完成させるためならば。」
ヴォルデンは仕方ないく古びた地図を引き出し、彼女に手渡した。
アリス「こっ!こっ!これは!」
ヴォルデン「エリュシオンの泉へ至る地図だ」
アリスはもっと早く出せよと、喉元まで出かけたが、息を呑んで言った。
アリス「ありがとうございます。」
だが、そこには複雑なルートが描かれており、数々の危険地帯が記されていた。
地図に記されたルートを辿り、険しい山々を越え、冷たい洞窟を抜けた先に、アリスたちは目の前に広がる地獄絵図のような光景に息を呑んだ。
そこは「燃える断崖」と呼ばれる地帯で、赤黒く染まった大地は絶え間なく燃え上がり、炎が空を舐めるように揺れていた。足元の岩肌さえ熱を帯び、触れれば即座に焼かれそうなほどだった。
アリス「ここが火の試練の地だね。間違いない。」
アリスはそう呟き、額に流れる汗を拭った。
仲間たちも緊張の面持ちで辺りを見渡す。
熱波が押し寄せ、まるで炎そのものが意思を持っているかのようにアリスたちを包囲してきた。
空気が焼け付くような匂いと、時折吹きつける熱風が呼吸を奪う。
進むべき道は炎に覆われており、一歩間違えば全員が炎に呑まれるのは明白だった。
アリスたちは氷の魔法を唱え、冷気の壁を作りながら進むことを決意した。
アリス「みんな、私の後ろに続いて!ディネ!氷の魔法をお願い!みんなはこの冷気で炎を封じている間に進んで!」
アリスが放つ冷気の刃が、燃え盛る炎の一部を切り裂き、道を作り出す。しかし、冷気が触れた瞬間にさらに激しく燃え上がる炎もあり、精度の高い魔法の制御が求められた。
フノンは炎を分析し、声を上げた。
フノン「アリス、右側の炎は魔力が強い!普通の冷気じゃ抑えられないかもしれない!」
それを聞いたアリスはさらに強力な氷魔法を使って、吹き付けるような冷気の竜巻を発生させた。
それが炎の防壁を一部打ち破り、前進の道を切り開いた。
ようやく断崖の中心にたどり着くと、大地が激しく揺れ始め、轟音が響いた。
目の前の溶岩の湖から巨大な火柱が立ち上り、そこから炎の中に身を包む巨大な存在が現れた。それは火の守護神イグナスだった。
火の守護神イグナス「小さき者どもよ……この地に足を踏み入れた愚かさを後悔するがいい。」
火の守護神イグナスは低くうなるような声で語りかけた。
その目は燃えるように赤く輝き、体から立ち上る炎は周囲の温度をさらに引き上げた。
アリスは守護神の力の強さを直感的に悟ったが、恐れずに前に進み出た。
アリス「我らはただ、エリュシオンの泉に至るための試練を超えたいだけだ!」
守護神は嘲笑うように炎を揺らした。
イグナス「試練を超えるだと?ならばその覚悟を示してみよ!」
イグナスは両手を振り上げ、巨大な炎の竜巻を発生させた。それはアリスたちに向かって猛然と迫ってきた。
フノンが冷静に指を組み、呪文を唱え始めた。炎の竜巻が迫る中、フノンは氷の防御魔法を放ち、冷気の壁を生み出した。その氷壁は竜巻を一時的に抑えるが、イグナスの力は凄まじく、氷が次々と溶けていく。
フノン「この程度では無理か……!」
今度はアリスが氷の魔剣に更なる魔力を注ぎ込み、氷の刃を無数に生み出して炎の竜巻に撃ち込んだ。
その刃は炎の渦を裂き、イグナスの体に届いた。
イグナスは一瞬驚いた様子を見せたが、すぐに炎の翼を広げ、周囲を灼熱の空間で覆った。
イグナス「なかなかやるな……だがまだだ!」
アリスは目を閉じ、自らの内なる気力を極限まで引き出した。そして、氷の魔剣を天に掲げると、冷気の竜が出現した。
それは天から降り注ぐような冷たい風とともにイグナスに向かって突進し、炎を凍りつかせた。
イグナスの炎が徐々に鎮まり、その体が淡い光となって消えていく中、彼は満足げに微笑んだ。
イグナス「見事だ、人間よ。汝の覚悟と力を認めよう。この先に進むがよい。」
こうしてアリスたちは燃える断崖を越え、新たなる試練へと進むための道を切り開いた。