124 南の魔王の謀略編 part3
戦争を裏で動かした黒マントの男アルティエルと、南の魔王ラファエルの関係を追うアリスたちは、ついに確たる証拠を手にした。
それは、灰の迷宮で発見された「黒炎の印」の刻まれたクリスタルの魔法石。
そこには、南の魔王がアルティエルに影の軍勢を与え、各国で戦争を引き起こす計画の映像が詳細に記されていた。
アリスたちは、ラファエルの居城である「深紅の城砦」にワープした。
アリス「私は北の魔王だ。南の魔王に会いに来た。」
ゾーラが出て来た。
ゾーラ「おー。これは北の魔王様。何用でしょうか?」
アリス「北の魔王にプレゼントを持ってきた。直接渡したいので、取り継いで欲しい。」
ゾーラ「かしこまりました。こちらで少々お待ちください。」
ゾーラはアリスたちを客間に通し、南の魔王のもとへ行った。
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<南の魔王城 玉座の間>
ゾーラ「魔王様。北の魔王が来てしまいました。」
南の魔王ラファエル「何用だ。」
ゾーラ「魔王様にプレゼントだそうです。」
ラファエル「ほう。なかなか気が利くではないか。通せ。」
ゾーラ「かしこまりました。」
ゾーラがアリスたちを玉座の間に通した。
アリス「お久しぶりです。南の魔王ラファエル。」
ラファエル「よく来たな!それで用とはなんだ。」
アリス「これです。」
アリスたちは、クリスタルの魔法石差し出して、南の魔王によって生み出された黒マントの男アルティエルが戦争を仕掛ける映像が流れ始めた。
しかし、玉座に座るラファエルは冷笑を浮かべながら言い放つ。
南の魔王ラファエル「なんだその映像は? そんなものは我が名を騙る者の戯言だ。私は何も知らない。」
ラファエルの言葉には一片の動揺もない。だが、その背後にいる家臣のゾーラの形相が変わったのを見逃さなかった。
アリスたちは確信する――ヤツは嘘をついている。
そのとき、玉座の間の空気が変わった。
冷たい霧が漂い、足元の大理石の床が凍りつく。扉が開き、威厳ある声が響いた。
アリス「随分と強がるじゃないか、ラファエル。」
北の魔王アリスは長い金髪を揺らしながら、鋭い眼光でラファエルを睨みつけた。
アリス「貴方が何をしてきたか、このクリスタルの魔法石の映像に全て映っている。」
ラファエルは嘲るように笑う。
アリス「北の魔王ともあろう者が、こんな些末なことで私を責め立てるとはな。証拠もないのに?」
アリス「証拠ならある。」
アリスが一歩前に進み、黒炎の印が刻まれたクリスタルの魔法石を掲げる。その力により、玉座の間の闇が揺らぎ、隠されていた真実が浮かび上がった。
ラファエルの背後に隠れていた影――それは彼が影の源泉を操り、黒マントたちを育成していた証拠そのものだった。
ラファエル「そんな刻印は誰でも偽造できる。」
アリス「知らぬ存ぜぬを突き通すつもりなら、力で思い出させてあげる。」
アリスの声に冷たい怒りが宿る。
彼女は手にした漆黒の剣を構え、魔力を纏う。
ラファエル「よかろう。」
ラファエルが玉座から立ち上がると、赤黒い炎が彼の周囲を覆い始める。
ラファエル「いい加減。もう我慢の限界だ。私を誰だと思っているのだ。4万年もこの地を支配している南の魔王だぞ。新米の北の魔王が私を相手にどれほどの力を見せるか、見ものだ。」
戦いが始まった。
ラファエルは灼熱の炎でアリスに迫るが、アリスはそれを凍てつく氷壁で防ぎ、逆に冷気の刃を放つ。玉座の間は炎と氷がぶつかり合い、激しい衝撃により崩れ始める。
南の魔王ラファエルの玉座の間は、血のように赤い壁と、炎で彩られた柱が立ち並ぶ異様な空間だった。その中心で、ラファエルが不敵な笑みを浮かべ、禍々しい力をその手に集めていた。
ラファエル「北の魔王と言っても愚かな人間の分際で、私の力を見誤るな!」
ラファエルの怒声が響き渡ると、玉座の間の空気が一変する。床の隙間から灼熱の溶岩が噴き出し、空間全体を覆うように巨大な火竜が現れる。その熱波だけで空気が歪み、アリスたちの視界が揺らいだ。
アリス「その炎……たしかに熱い。だが、私はそれ以上に冷たい! ディネ!力を貸して!」
アリスは真っ直ぐにラファエルを見据えると、周囲の温度が一気に下がり始める。彼女が振りかざした剣から冷気が放たれ、巨大な氷柱が天井から生え落ちるようにラファエルへ迫る。
ラファエルは軽く指を弾くだけで火竜が吠え、氷柱を焼き尽くして進む。だが、アリスの冷気はそれを止めることなく次々と氷柱を生み出す。
ラファエル「ちっ、手間をかけさせる!」
ラファエルが叫ぶと、炎が竜巻のように渦を巻きながらアリスへ向かう。その速度と熱量は想像を絶するもので、周囲の壁が崩れ落ちるほどだった。
だがアリスは水の精霊剣を振り上げ、氷の波動を放つ。その冷気は竜巻に直撃し、一瞬にして蒸気を生み出す。熱と冷気がぶつかり合い、凄まじい衝撃波が玉座の間全体を揺るがす。その衝撃で柱が次々に崩れ落ち、部屋全体が瓦礫に埋まるかと思われた。
瓦礫が降り注ぐ中、ラファエルが玉座の上で高笑いする。
ラファエル「いいだろう、ならば全力を見せてやる!」
彼が両腕を広げると、溶岩が床を覆い、巨大な炎の翼を背中に広げた。ラファエルそのものが炎の化身となり、燃え盛る光を放つ。その姿はまさに南の魔王の名に相応しい威厳と恐怖を兼ね備えていた。
ラファエル「人間風情がどこまで持ちこたえるか見物だ!」
アリスは冷静に剣を構え、彼の攻撃を待つ。
アリス「私は、ただの人間ではない。北の魔王だ。そして、私たちは人間と魔族がいるこの世界の秩序を守る者だ!」
アリスの声に応じるように、ミクリとフノンがそれぞれの力を解放する。ミクリの剣からは光の刃が放たれ、ラファエルの翼を狙い撃つ。一方、フノンは重力の魔法を発動し、炎の動きを鈍らせる。
しかし、ラファエルはそれをものともせず、床を溶かすほどの火球を連続で放つ。その一撃一撃が、アリスたちを追い詰めていく。
アリスは深く息を吸い込み、自らの中のすべて聖気の力を解放した。剣が青白く輝き、彼女の周囲に冷気の竜が現れる。その竜は一瞬で炎を飲み込み、部屋全体を凍らせる勢いを見せた。
アリス「これで終わりだ、ラファエル!」
アリスが剣を振り下ろすと、冷気の竜がラファエルへ突進する。ラファエルも全力で炎をぶつけるが、冷気の力に押され、ついにその身体が氷に包まれる。
炎の翼が砕け散り、ラファエルは膝をついた。だが、まだその目には闘志の光が残っている。
ラファエル「くそー。人間風情が。これが北の魔王の力なのか。これほどまでに力の差があるとは。殺せ!殺すがいい。だが私を倒しても何も変わらないぞ!……この世界は絶望に満ちている限り、再び闇が生まれる。」
アリス「殺しはしない。」
アリスは剣を納めた。
アリス「世界が絶望に満ちるならば、私たちはその絶望を止めるために戦い続けるだけだ。」
こうして、アリスたちは壮絶な死闘を制し、南の魔王を封じ込めた。
ラファエルは膝をつき、荒い息をつきながら顔を上げる。
ラファエル「……なぜ殺さない?」
アリス「お前を殺しても、黒マントの悪事が消えるわけではない。」
アリスは厳しい眼差しでラファエルを睨む。
アリス「だが、この場で貴方が何をしてきたのか、全て暴く。そして、その罪を償わせる。これ以上愚行を行わないように。」
アリスの圧倒的な力に屈したラファエルは、黒炎の印の使用を認め、影の源泉を通じて黒マントのアルティエルたちを生み出していたことを告白する。
ラファエル「人間は横暴だ。その横暴な人間を懲らしめるためにやったことだ。」
ラファエルは悔しげに言い放つが、アリスは冷たく言い返す。
ラファエル「その結果、罪のない無数の命が犠牲になった。これ以上、愚かな行為のために世界を混乱させることは許さない。」
ラファエルはついに頭を垂れ、黒炎の印をアリスに渡すことで罪を償う決意を固めた。
南の魔王はその強大な力を失い、黒炎の印は北の魔王アリスの手に渡る。これにより黒マントたちの勢力は完全に壊滅し、影の源泉も封印された。
アリスはラファエルに最後の言葉を残してその場を去る。
アリス「二度と愚かな真似をしないことだ。さもなければ、次は容赦しない。」
こうして、二人の魔王の対決は終わり、世界には新たな秩序が訪れる兆しが見え始めた――だが、その背後には新たな陰謀が密かに動き出しているのかもしれない。
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<レンブラン王国 居酒屋>
ミクリ「やっと終わったよ。」
アリス「南の魔王もこれに懲りて当分はおとなしくしているだろう。」
フノン「そうだといいけど。前にも懲らしめたけど、効果は無かったみたいだし。」
アリス「今度は直接懲らしめたから、当分はおとなしくしているでしょ。すぐに動ける力はないしね。」
ミクリ「それならいいけど。」