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112 モントリア帝国編 part2

挿絵(By みてみん)


黒マントの魔道士 アルティエル


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しかし、サクミリア共和国は容易に屈する国ではなかった。豊かな資源を背景に訓練された軍隊を持ち、戦闘には熟練していた。彼らはモントリアの侵略に対し、果敢に抵抗した。


戦場は、肥沃な川沿いの平原となっていた。

その地では、モントリア軍の砂漠の戦術は通用しにくく、地形に慣れたサクミリア軍が優位に立つ場面も多くなった。

それでもグスタフは戦略を練り直し、夜襲や奇襲を駆使して共和国軍を徐々に追い詰めていった。


一方で、アルティエルは戦場の裏で新たな策謀を巡らせていた。

アルティエルはサクミリアの占領地を回り、民衆の前で熱のこもった演説を繰り返した。


アルティエル「皆の苦しみを目にして、私は心が張り裂けそうです。だが、この状況を生み出したのは誰なのか? 本当にモントリアのせいなのでしょうか?」


彼の演説は、巧妙に民衆の心を揺さぶる内容であった。

彼は意図的に民衆の怒りを現政権に向けるよう誘導した。


アルティエル「サクミリア政府は豊かな土地と食糧を手にしていながら、皆さんを守ることすらできなかった! 彼らはこの戦争が始まる前から、皆さんを搾取し、貴族たちの贅沢のために使い続けてきたのです。皆さんの苦しみは、彼らの裏切りの結果なのです!」


その後、彼はモントリア帝国を「解放者」として持ち上げた。


アルティエル「我らモントリア帝国は、皆さんに再び平和と繁栄を取り戻すためにここに来ました。我々は支配者ではなく、友であり、助け合う仲間です。今こそ立ち上がり、腐敗した政府を倒し、新しい未来を築く時なのです!」


アルティエルは演説だけに留まらなかった。彼はサクミリア国内の不満を抱える者たち――特に農民や都市労働者の中に潜む反政府勢力を探し出し、彼らに接触した。


その中でも、彼が目を付けたのは、政府に対して反旗を翻していた秘密組織「影の民」であった。この組織は、サクミリア政府の腐敗と貴族の特権に長年反対してきたが、その活動は地下に追いやられていた。


アルティエルは彼らにこう語りかけた。


アルティエル「あなた方の正義と我々の正義は同じです。サクミリア政府を打倒し、民衆のための新しい秩序を作る――それが私たちの目的なのです。力を合わせましょう。そして、この機会を逃さず、自由を勝ち取りましょう!」


影の民のリーダーたちは疑念を抱きながらも、アルティエルの言葉に引き寄せられた。

彼の持つカリスマ性と、莫大な軍事力を背景にした説得は、彼らにとっても魅力的だった。


アルティエルの策略はすぐに効果を現し始めた。

占領地では、民衆が政府の役人に暴力を振るい、地方都市では役所が焼き払われる事件が続発した。

さらに影の民は、アルティエルの支援を受けて大規模な蜂起を計画した。


その結果、サクミリア政府は自国内の反乱に対処するために軍を割かざるを得なくなり、前線の兵力は大幅に削がれた。モントリア軍はその隙をつき、次々と新たな領土を占領していった。


一方で、アルティエルは反乱が過激化しすぎないよう、巧みに状況をコントロールしていた。

彼の目的はサクミリアを完全に破壊することではなく、その統治構造を弱体化させることにあったからだ。


アルティエルの「モントリアの正義」は、徐々にサクミリアの民衆の間で浸透していった。

彼は食糧や医薬品を分配する際も、「これはモントリアからの贈り物だ」と繰り返し強調し、モントリアへの感謝と忠誠心を育てていった。


さらに彼は、反政府勢力の蜂起を「民衆自身の力による革命」と位置づけ、モントリアの占領を正当化した。


アルティエル「これは皆さんの選択です。我々はその選択を尊重し、共に新たな国を作り上げるつもりです」


だが、アルティエルの本当の狙いは、単なるサクミリアの占領に留まらなかった。

彼は民衆を煽動し、内部から共和国を崩壊させることで、サクミリアを「利用可能な国家」に変えようとしていたのだ。

次なる目標――カンタレラ王国を攻めるための足場として、彼はこの国を完全に自分の掌中に収める計画を進めていた。


こうしてサクミリア国内に混乱の火種を撒きながら、アルティエルは着々と次の戦争への布石を打ち続けた。

彼の策略は、民衆の心を操り、国家そのものを動かすものであり、その冷徹さと周到さは誰もが恐れるものだった。


サクミリア共和国は、モントリア帝国の侵攻によってその豊かな大地をほぼ失いつつあった。

モントリア軍は共和国の首都を包囲し、主要な補給路を制圧していたが、その代償はあまりに大きかった。

兵士たちは疲労困憊し、幾度となく繰り返される戦闘の中で士気を失いつつあった。

モントリア国内もまた、長引く戦争に疲れ果て、戦利品として運ばれる食糧で辛うじて飢えをしのぐ状況だった。


その状況下で、国民の中には「次は我々が侵略される番だ」という不安が広がり始めた。

アルティエルはこの空気を敏感に感じ取ると、巧みにその矛先をカンタレラ王国へと向けた。


アルティエルは、モントリア兵士と民衆、さらにはサクミリアの人々を前に、扇動の演説を繰り返した。


アルティエル「カンタレラ王国はどうだ? 奴らはただ見ているだけだ。我らが疲弊するのを待ちながら、この機会に帝国の富と土地を奪おうとしている。だが、このまま奴らに自由を許すわけにはいかない! 奴らの城壁を打ち破り、我らの正義を示す時が来たのだ!」


彼の言葉は、戦争に疲れた者たちの間に新たな敵意を生み出した。

カンタレラは確かに強大で、周辺国に恐れられる存在であった。

その巨大な軍事力と膨大な資源は、モントリアの兵士たちにもよく知られていたが、アルティエルの言葉は彼らに再び目標を与えた。


そして不思議なことに、サクミリアの民衆の中にも、アルティエルの言葉に賛同する者が現れ始めた。


サクミリア人にとって、カンタレラはモントリア以上の脅威だった。彼らの土地は以前からカンタレラ王国の圧力を受けており、侵略の危機にさらされていた。

そのため、「共通の敵」としてカンタレラを指摘するアルティエルの言葉は、彼らに希望を与えたのだ。


だが、アルティエルは冷静であった。モントリアとサクミリアの疲弊した軍だけでは、カンタレラ王国を打ち破るのは不可能だと彼は理解していた。

そこで、彼は新たな計画を打ち立てた――それは世界最強の聖騎士団を擁するミリス王国を味方に引き入れることだった。


ミリス王国は、パブロフ正教の総本山として知られ、神の意志を掲げる強大な宗教国家だった。

その聖騎士団は無敵と評され、その一撃は戦場の流れを変えるほどの力を持っていた。

しかし、ミリス王国はこれまで戦争には慎重な態度を取り続けており、簡単に同盟に応じるとは考えにくかった。


アルティエルはミリス王国に赴き、聖騎士団を率いる騎士長セレナスと対面した。

彼はカンタレラ王国を「全ての国を脅かす野心の象徴」として語り、ミリス王国の神聖な正義の名のもとに立ち上がるよう説得した。


アルティエル「カンタレラは今や神の意志に背く存在です。

彼らが力を増せば、やがて聖なるミリス王国にも侵攻するでしょう。

しかし、今ここで共に立ち上がれば、神が与えし平和を取り戻すことができます!」


セレナスは一瞬考え込んだが、アルティエルの熱意と論理に心を動かされ、最終的にミリス王国の参戦を承諾した。

こうして、モントリア帝国、サクミリア共和国、そしてミリス王国の連合軍が結成された。


連合軍が結成されたという知らせは、モントリア全土を駆け巡り、民衆に新たな希望を与えた。

連合軍の規模は、カンタレラ王国に匹敵するほどのものとなり、砂漠の帝国とその同盟国たちが、ついに世界最強の軍事国家に挑む準備が整ったのだ。


しかし、この戦争の行方は誰にも分からなかった。

カンタレラ王国は、その防衛の要である「鉄壁の城塞」に兵を集結させ、侵略軍を迎え撃つ構えを見せていた。

その城塞を打ち破るためには、単なる軍事力だけではなく、卓越した戦略と奇策が必要だった。


同時に、アルティエルの真の目的もまた謎のままだった。

彼がこの戦争の先に何を見据えているのか――それは、連合軍の兵士たちの誰もが知らぬことだった。


こうして、全ての舞台が整った。

荒涼たる砂漠を越え、豊かな大地へと進軍する連合軍。

そしてその前に立ちはだかる、無敵の力を誇るカンタレラ王国の軍勢。

世界の未来を決する戦いが、いま始まろうとしていた。



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