111 モントリア帝国編 part1
マリア
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アリスたちがレンブラン王国から次の島に行く準備をしているときであった。
突然、アリスの前に、北の魔王代理であるディアブロの秘書マリアが現れた。
アリス「あれ? マリアじゃん! 久しぶりだけど、どうしたの?」
マリア「突然、申し訳ございません。シエステーゼ国王が、アリス様をお呼びでございます。」
アリス「父上が! 何かあったの?」
マリア「おそらく、カンタレラ国王からの要請の件かと思います。」
アリス「カンタレラ国王からの要請?どんな?」
マリア「詳細は伺っておりませんけど、おそらくアリス様の協力の要請だと思います。」
アリス「私の協力の要請? カンタレラ王国で何があったの?」
マリア「現在、カンタレラ王国の西にあるモントリア帝国が、カンタレラ王国に侵略しようとしています。」
アリス「カンタレラ王国に侵略? でもカンタレラ王国は強力な軍事国家だよ! あそこには強い冒険者もうじゃうじゃいるし、侵略なんてできないでしょ!」
マリア「誰しもそう思っておりました。ですが、今まさに、モントリア帝国がカンタレラ王国に攻め込もうとしております。まだなんとか国境で持ち堪えておりますが、破れるのも時間の問題かと思います。」
アリス「なんでこんなことに! バーストエンドミラージュからの報告はあるのか?」
マリア「もちろんバーストエンドミラージュから、逐一報告を受けておりました。ですが、まさかカンタレラ王国を侵略するような無謀な暴挙に出るとは思っておりませんでした。」
アリス「なんでこの状況になったの?」
マリア「話しは長くなります。」
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モントリア帝国周辺地域
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数ヶ月前のモントリア帝国。
モントリア帝国は、広大な砂漠を抱える国である。その砂漠は黄金色に輝く昼と冷たく静寂に包まれる夜を繰り返す、過酷な地形である。
しかし、この地の深くに眠る鉱物資源は、この国に計り知れない富と力をもたらしていた。
鉄鉱石や金、さらに稀少な魔力を帯びた「星鉄」と呼ばれる鉱石は、モントリアの工匠たちの手によって伝説の剣や鎧、機械仕掛けの兵器へと生まれ変わっていた。
その一方で、モントリアは人が生きるための糧を得るには外の世界に頼らざるを得なかった。
砂漠ではほとんど作物が育たず、国民が必要とする穀物や果実、さらには日常品に至るまで、すべては遠く海を越えた地から運ばれてきていた。
広大な港町の一つ、サーベランは、海運貿易の心臓部であり、帝国の富が集中する場所でもあった。
その港では異国の商人たちが絶え間なく行き交い、取引のたびに宝石や香辛料、そして魔法の品々が山積みとなっていた。
だが、アリスも深く関わっている海運国家トルネキア帝国の騒乱によって、商船の運航が乱れてしまい、世界中で物流が滞ってしまった。あるところには凄い量の商品があるが、別なところでは物資が全くないという差が出てしまった。
その影響で、モントリア帝国の港町サーべランに商船が全く来なくなった。
いつも山のように積み上がっていた商品もすっかり無くなり、人通りも無くなってしまった。
海の近くの町では沿岸漁業のおかげで、食べる物にはありつけたが、内陸部では食糧が入って来ないため、住民の怒りは頂点に達していた。
そんな折、モントリア帝国のある村に一人の旅の黒マントの男が現れる。名をアルティエルと名乗るその男は、住民を前に演説をしはじめた。
アルティエル「みなさん。この村にはもう食糧はありません。このままではみんな飢餓で死んでしまいます。このままでいいのでしょうか?
まだ、隣の村には食糧が残っています。今こそ、武器を持って隣の村を襲って、食糧を奪いましょう!
みなさん!生きるのです。そのためには闘うしかありません!
さあ!武器を持って、隣の食糧を奪いましょう!」
黒いマントの男アルティエルは、帝国の色々な町や村に現れて、民衆を扇動した。
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モントリア帝国の首都パザールの宮殿の謁見の間に、皇帝ディオールがいた。そこへ腹心の宰相クレメンテールが現れた。
宰相クレメンテール「ディオール皇帝陛下。一大事でございます。」
ディオール皇帝「どうした?」
クレメンテール「国中で食糧を求めて、暴動が起きております。」
ディオール皇帝「そんなもの軍隊を出して鎮めてしまえ!」
クレメンテール「それが最初は北東部の村から始まり、それから北西部、南東部と、次第に広まり、今では国中のほぼすべての町や村で起きているのでございます。最初のうちは国軍を出して治めておりましたが、今ではとてもすべてを鎮圧することはできません!」
ディオール皇帝「なんということだ!クレメンテール!なんとか鎮めろ!」
クレメンテール「皇帝陛下!
そこで、この事態を鎮める方法があるという人物が、皇帝陛下に謁見したいと来ておりますが、いかがいたしましょう?一度会っていただけませんでしょうか?」
ディオール皇帝「ほう!この事態を鎮める方法があるだと!おもしろい。会って話しを聞こうではないか!」
クレメンテール「御意。少々お待ちください。」
クレメンテールが黒マントの男アルティエルを連れてきた。
アルティエル「皇帝陛下。お目にかかれて光栄でございます。魔道士のアルティエルと申します。」
ディオール皇帝「アルティエル。よくぞ参った。ところで、この国内の暴動を治める良い方法があると聞いたが、言ってみよ。」
アルティエル「はい。そもそもこの暴動は食糧不足に端を発しております。そこで、自国を優先して食糧の輸出を制限した隣国サクミリア共和国の食糧を狙うように誘導するのです。サクミリア共和国では農業と漁業により、豊富な食糧を持っています。その食糧をすべてモントリア帝国の物にするように誘導すれば、暴動の矛先がサクミリア共和国に向かいます。そうなれば、サクミリア共和国をモントリア帝国の支配下に置くことができ、領土が広がり、食糧の問題もすべて解決します。」
ディオール皇帝「なるほど、すべての矛先を隣国サクミリア共和国に向けて、しかも我が帝国の領土を増やそうということであるな。それは名案である。
クレメンテールよ!すぐに国民を誘導して、国軍を率いて、サクミリア共和国を侵略しろ。」
クレメンテール「皇帝陛下。かしこまりました。」
アルティエル「皇帝陛下。宰相様。国民を誘導することに私もご協力させていただきたいと存じますがよろしいでしょうか?」
ディオール皇帝「おう!それは心強い!ぜひ頼む!」
アルティエル「承知しました。それではすぐに取り掛かります。」
クレメンテールは、将軍グスタフに軍を率いてサクミリア共和国に攻めるように命じた。
アルティエルは、帝国中を周り、国民に対して、サクミリア共和国が食糧を独り占めしている。許せないと思う者は、食糧を奪いに行くべきだと誘導した。
こうしてモントリア帝国によるサクミリア共和国への侵略が始まった。
クレメンテールは、将軍グスタフに軍を率いてサクミリア共和国に攻めるように命じた。
モントリア軍の総司令官、グスタフ将軍は、クレメンテールからの命を受け、砂漠の兵士たちを率いてサクミリア共和国へと進軍を開始した。グスタフは砂漠での戦いに長けた老練な将軍であり、砂漠の過酷な環境を利用した戦術を得意としていた。
軍はまず、サクミリア国境付近の小さな村々を占拠していった。これらの村々は、共和国の中心部へとつながる補給路を担う重要な拠点だった。兵士たちは迅速に動き、反撃の暇を与えなかった。村々からは大量の食糧が押収され、それはモントリアの民衆への供給として後方に送られた。
こうしてモントリア帝国によるサクミリア共和国への侵略が始まった。