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折れた親指に涙!血塗られた独占インタビュー!④

「えっと、その……ケンドーマスクって、もしかして窃盗で厳重注意を受けていた、あのケンドーマスクですか?」


「ええっ!そんなことしてたのあいつ!?」

「は、はい、コンビニからお酒を持ち出して、神の使いが払ってくれるんだって店内に犬を入れようと大騒ぎしていたとか……」


「マジかよ……」

「んっ、そうですよ……って、やめてくださいよ!あいつのどこが真の正義の使者なんですか!?あんなのただのバカですよ!?」


「ああ、そりゃまあそうだろうけど……でもさ、いい年こいて正義の味方に憧れたってあんな風になるのがオチだろ?そもそも正しいことがやりたいなら警察官にでもなればいいじゃねーか。なんだって不死身のヒーローだの無敵の正義の味方だのが出しゃばらないといけねーんだよ?」


「そっ、それは……んっ、んんっ……確かに……い、いや、でも、この街の警察は……」


「腐敗してるって話だろ。それは知ってるよ、でも警察官になる以外にも身近な人の助けになってやるとかさ、人を守りたいってだけならいくらでも方法はあるだろ」


「それは、そうかもしれませんが……」


門戸はしばらく黙っていたが、意を決したように言葉を続ける。


「では、ボッキマンさんにはその力を使ってやりたいこととかはないんですか?120ミリ徹甲弾が数千発直撃してもかすり傷すらつかない体を持っていて、タングンステンの重装甲を軽々と握りつぶして、数十トンの武装車両を持ち上げて高層ビルより高く放り投げることができるほどのパワーがあって……それでも、あなたは何かをしたいとは思わないんですか?」


「さあな、俺はボッキマンじゃねえけど、何もないんじゃねーの。逆に聞くけど、そんな力にどういう使い道が思いつくわけ?俺に教えてくれよ」


「そ、それは、法で裁けない悪を討ったり……正しいことをするために、より大きな……」


俺は思わず門戸の言葉を遮る。


「言っておくけどな。正しいことがしたいなら力なんていらないし、法で裁けない悪なんてものは世の中にはないんだぞ」


「えっ……?」


「正しいことがしたい、なら自分の力の範疇でできることをやればいいだろ。お前が力が欲しがってるのは自分が正しいことをしたいんじゃなくて誰かに何かをやらせたいんだろ?」


「……」


「それからな、法の裁きっていうのは合法かどうかってことであって、善やら悪やらをどうこうしようってもんじゃないんだよ。そういうのは法律じゃなくて宗教の話でそもそもお角違いだ」


「じゃ、じゃあ、その力で社会を!たくさんの人々を!んんっ、正しい方向へと導くとか!そういうことだってできるでしょう!?」


「導くだの方向がどうだの、そんな信号や交通標識みたいな真似をするためにどうして力が必要だと思うんだ?信号が暴力を振るうか?標識が何かを壊したりするか?」


「んっ、んんっ、それは……その、それは……僕が言いたいのはっ!」


俺は埃を払いながら立ち上がると、腰に手を当てて軽く伸びをする。門戸は何か言いたげに口を開いているが言葉にならないようだ。


門戸の目尻には涙が浮かんでいるように見えるが、おそらく気のせいではないだろう。こいつが人に期待するのは勝手だが、俺はそんなものに付き合ってやるつもりはない。


「もういい加減帰るわ。なんか疲れちまった」


「まっ、待ってください!」

「……なんだよ……?」


「この街を見てくださいよ!みんな苦しんでるんですよ!企業やシステムに雁字搦めにされて死ぬまで身動きできないでいでいるんです!でも彼らは救いを求めているんです!」


「……知らねーよ、選挙にでも行け」


「彼らは生活を人質にされて団結できないんです!これはこの社会がおかしいってことです!社会は人間の集まりのはずなのに社会がその人間をばらばらに分断している!だから彼らを救えるのは政治じゃない!けど、あなたのような人がみんなのために戦ってくれれば彼らだって……!」


「なら教えてやる。こんな力なんてあっても何も変わらねーよ、俺がその生きた証拠だ」


「なんでそんなこと言うんですか!?あなたはそんなに強いのに、もっと大きなことができるのにどうしてそんな、まるで、自分の価値を否定するようなことを言うんですか?そんなのおかしいですよ!」


「うるせえ!何も出来ねーくせにくだらねえことばっかガタガタ言ってんじゃねえ!」


俺は門戸の腰を抱えるようにして持ち上げると、奴の体を背負い込んだまま屋上の縁に足をかける。


「んっ、なっ、な!何をするんですか?!」

「お前、その足でこのビルから降りるつもりか?それとも不法侵入で逮捕されるつもりか?降ろしてやるから静かにしてろよ」


「えっ、ちょっ、ちょっと……!んぐ、ふうっ……!」


門戸を背負ったまま飛び降りると、膝で衝撃を殺しながらふわりと着地する。


いや、そこまで華麗にはいかず結構な衝撃があったと思うが、流石にそのまま飛び降りて地面に激突するより遥かにマシだろう。


「ほれ、着いたぞ……ちゃんと病院に行ってこいよ」


「んっ、ぐっ……はあっ、はあっ、ありがとうございます……」

「なんだよ、その顔は」


「いえ、まさか僕のことを助けてくれるとは思わなかったんで……あの、ボッキマンさん……失礼なことばかり言って……すみません」


「え?俺はボッキマンじゃないから一向に気にしてないけど?」

「は、はあ……あ、あの、取材のお礼のお話なんでけど……」


「おい、雑誌の現物支給だけとかはやめてくれよ!」

「ま、まさか、でも……今は何も持ち合わせてなくて、お渡し出来るものがないということを忘れてて……」


「…………」


俺は指をそっと曲げ、門戸の額を軽く弾いてやる。


門戸は発砲音のような音と共に、勢いよく後方へと吹き飛ぶと額を両手で押さえながら地面をのたうち回った。


「ぐあああっ!痛い!痛いですよ!な、なっ、何するんですか!?」


「ぐああじゃねーだろ、人様の貴重な時間をタダで使おうとか、お前は親御さんから何を教わって来たんだよ」


門戸はしばらくじたばたと悶えていたが、ようやく痛みが引いたのかゆっくりと起き上がる。


「はあ、はあ……い、いえ、僕の親は……いや、違うんですよ!次にお会いした時に必ずや今回の分も含めてお渡ししますので、どうかお願いしますよ!ボッキマンさんのお話をもっと聞かせていただけないでしょうか!?」


「もう話すことなんかないっての……てかさ、俺からも聞いていいか?」

「んっ、は、はい?なんでしょうか?」


「お前が作ってるっていう雑誌の読者って誰なんだよ?その、身内の人間って言ってたけど」


「ああ、それは僕の父さんですよ!」


「は、はあ……??」

「よろしければ会ってみませんか?ボッキマンさんが相手なら父さんは絶対に、どんな犠牲を払ってでも時間を用意してくれますよ!」


……なんだそりゃ、完全にイカれてるな。

もう付き合ってられない。


「あのなあ、会うわけねーだろ!それに俺はボッキマンでもない!じゃあな!」


俺は門戸に背を向けて、その場から走り出していた。

門戸は何か大声でわめいていたが、幸いにも後をついて来ることはなかった。

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