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折れた親指に涙!血塗られた独占インタビュー!①

「何をやってんだよ……」


思わずため息をつく。

俺はまた知らない内にビルの屋上を走っていたのだ。


ビルの上の不審者に気がついたのか、監視用のドローンがハエのように追いかけてくる。


不死身の体は疲れを感じていなかったが、頭は妙に重く、思考は鈍っていた。


(鬱陶しいな)


足に力を込めると、俺の体は瞬間的に加速し、ぬるっと滑るような感覚と共に重力の拘束から解き放たれる。


靴底のゴムが摩擦の熱で溶けてしまったんだろうと思った。


そしてそのまま床を蹴ると俺の体は空気を引き裂きながら跳び上がり、あっと言う間に視界が開けた。

風圧だけでドローンは回転し、周囲の雑居ビルの窓が揺れ、看板が軋む音が聞こえた。


空には雲一つなく、遠くには高層ビル群が見える。


先ほどまでいた屋上は小さくなり、ドローンが困惑したかのようにぐるぐると旋回しているのがわかった。


搭載しているカメラの性能では俺を捉えることが出来なかったんだろう。

俺はそのままビルからビルへと飛ぶようにして移動していく。


だが目的地は特にない。


ただ人気のない静かな場所を目指して走っていた。


「何でこんなことになってるんだろうな……」


俺は誰に向かってというわけでもなく、そう呟いていた。


‥‥・*・‥‥………‥‥・*・‥‥………‥‥・*・‥‥


俺の住んでいる街はいくつかの地域に分けられている。


……まあ、どこの街だって普通はそうだろうが、この街は複数の都市が合併した超過密巨大都市というだけあって、地域といってもその広さは尋常なものではない。


その中にはショッピングモールなどの商業施設が集中した便利で治安のいい地域もあれば、農業試験場が立ち並びドローンがトンボのように飛び回るのどかで自然豊かな地域もある。


もちろんすべての地域がそんな風にはっきりとした特色を持っているわけではないし、開発がうまく行っている場所とそうでない場所があるのも事実だった。


特に治安の悪い地域では、銃火器や薬物の売買が公然と行われており、たまに爆弾や対戦車砲か何か使ったヤクザの抗争なんかがあればちょっとした騒ぎになるくらいで、基本的には銃撃戦さえニュースでも扱われないような混沌とした状況になっているところもある。


(今日はもう帰ろうかな……)


正直なところ、俺にはこの後の予定は何もない。


人通りの少ない裏路地を歩きながら考える。

俺が今いる場所は無法地帯とまではいかないものの、かなり複雑に入り組んでいて迷いやすく、その意味ではあまり安全とは言い難い場所だ。


もっとも俺にはその方が都合がよかった。


なぜならこういう場所なら監視を撒きやすく、さっきみたいな頭のおかしい奴に絡まれても簡単に逃げられるからだ。


俺は適当に選んだ薄暗い道を歩いていく。


道の両脇には安っぽい飲食店や風俗店が立ち並んでいるが、客の姿はまばらで閑散としている。


(こいつら、何が楽しくてこんな所で生きてんだろうな……)


俺は心の中でそう思った。


もっと人のいる場所に行けばいいのに、もっと稼げる仕事を見つければいいのに。

別に間違っているとまでは言わないが、なんとなく不思議に思う。


「ん……」


しばらく歩いていると、背後から誰かがついて来るのがわかった。


(さっきのあいつに尾けられているのか……?)


またあのケンドーマスクかとうんざりしたがどうも違うようだ。

少し気になったが、無視を続けたまま人通りの少なく、入り組んだ路地へと誘導するように先へ進む。


治安当局の可能性はないだろう。


戦車を押し倒せるほどの力を持ったパワードスーツを素手でズタズタに引き裂いてしまう俺を単独で尾行しようだなんてバカな真似をするはずがない。


だとすれば身の程知らずの犯罪者か?

それともヒーロー気取りの頭のおかしいヤツか?


俺は振り向かずに走り出す。

すると相手は慌てたように追いかけて来た。


「んっ、あっ、ちょっ!ちょっと、ま、待ってください!」

「えっ……」


俺の想像とはまったく違う、救いを求めるような声に思わず足を止める。


そこにはどこかの軍隊が使っていそうなガスマスク型のフェイスガード付きのヘルメットのような物を被った妙な男が立っていた。


身長は180センチ近い俺よりも低いが、平均以上はありそうだ。


痩せ型で、顔はよく見えないが、声からするとそれなりに若いかもしれない。

スピーカーのフィルタか何かでノイズを取り除いてから出力しているのか、フェイスガード越しでも男の言葉ははっきりと聞き取ることができた。


「んっ!あ、あなたはぼっ、ボッキマンさんですよね!?」

「いや違うけど」


俺は即答し、走り出す。


「ちょっ!?ん、うわぁ、はっ、は、速い!?!」


俺は男の悲鳴を無視し、素早く壁を駆け上るとスピードを上げる。

街並みが一瞬にして置き去りにされ、雑居ビル群を飛び越えると眼下に広がる街の景色が流れていく。


ケンドーマスクといい、なんでバレてしまうんだろうか?

街に出る時はフードを目深に被っているので、顔は知られていないはずなのだが。


「ひぃい!ち、ちょっと!待って!待ってください!」


しかし、驚いたことに男は俺の動きに食らいついてきたのだ。


「だ、だって、そのパーカーも!そ、その身体能力も!ボッキマンさんの特徴と一致してるじゃないですか!」

「へえ、そうなんだ」


「いえあのボッキマンさんでしょ!?」


「違いますね」

「ほ、本当ですか?」

「ああ」


もちろん俺は全力で走っているわけではない。


それでも男は高低差のある建物の上を百キロの超える速度で飛び回る俺の動きにぴったりと張り付いているのだ。


こいつは何らかの方法で身体能力を強化しているのかもしれない。

どうでもいいけど。


「はあっ、はあっ、ま、待って!待ってください!待って……」


しかし、わずか数秒で男のヘルメットから漏れる吐息は荒くなり、呼吸は乱れてしまっていた。このまま走り続けていたらこいつは倒れてしまうかもしれないな。


どうでもいいけど。


「はあっ、はあっ……!お、お願いです……しゅ、取材を!しゅざい……たすけて……」

「しゅざい……?」


男は走り回る俺に死に物狂いで食らいついてくる。

そして何とか声を出そうとしているのか、途切れ途切れになりながらも必死に言葉を絞り出す。


「こ、こないだ、殴られそ、おっ、おんなの人を、たすけてくれた、でしょっ、そ、それを、んっ、ネットで、み、見ました、はあ、はあ、あ、あなたの、ど、動画……」


「……」


そうこうしていると男はビルの屋上に這っていたパイプに足を取られ、顔面からコンクリートに激突しそうになる。


しかし、気がつくと俺は男の体を抱きかかえて立ち止まっていた。


……何をやってるんだろうか。


「あ、ありがとうございます、あ、あ、あなたが、はあ、はあ、ボッキマンさんで間違いないですね……はあ、はあ……」


「だから違うんだけど」

「はあ、はあ、はあ、す、すみません、もう、動けない……です……」


そう言うと男はずるりと崩れ落ち、へたり込んでしまう。


「おい……」

「はあ、はあ……」

「大丈夫かよ、それ」

「え……?」


男のブーツの足先が破れ、折れた足の指が露出している。


どうやら先ほどパイプに引っかけた時に怪我をしたようで、親指の爪が真っ二つに割れて血塗れになっていた。

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