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天の網は逃さない!現れたのは鋼鉄の蜘蛛!④

「ラブラドル・レッドリーパー!大丈夫か!?」


地面に転がったままケンドーマスクは声を上げる。


一撃を避けただけでラブラドル・レッドリーパーは体勢を大きく崩し、肉球からはわずかに出血していることが確認できた。


あの犬が不思議な力を持っているのは間違いないだろうが、技術者たちの悪意の結晶のような戦闘兵器を相手をするには分が悪すぎるようだ。


ロボットは地上で伏せているラブラドル・レッドリーパーに追撃をかけるべく空中で方向を変え、背中からジェットを噴射しその推進力をどんどんと……このままではいずれラブラドル・レッドリーパーはやられてしまうだろう。


「ぼ、ぼぼ、ボッキマンじゃないそこのあなた!頼む!あの子を助けてくれえっ!」


ケンドーマスクが悲鳴のような叫び声で俺に助けを求める。

どこまでも勝手な奴だ、俺の知ったこっちゃないのに。


(……)


だが、気がついた時にはすでに俺は飛び出していた。


今まで座っていたベンチが粉々に砕け散り、巻き上がる風で辺り一帯の雨粒の流れが逆になる。俺は「軽く跳び上がったつもり」だが、無敵の力をみなぎらせた周囲の大気は瞬時に熱されて炸裂していた。


その爆発的な推進力の中で空気のベールに囚われたまま、俺はまるで天を貫くようにロボットの装甲に激突する。


どうという衝撃もなく痛みも一切感じてはいなかったが、ロボットの方はそうもいかなかった。


俺に衝突したロボットの全身の装甲の大半は耐え切れず一瞬で砕け散り、背中に装着されていたジェットパックはでたらめに蒸気を噴射しながらバラバラに吹き飛んでいく。


沼のようにぬかるんだ地面に転がっていた銃身の曲がった機関銃を踏みつけてへし折り、ロボットの残骸を片手で鷲掴みにすると、俺はラブラドル・レッドリーパーに呼びかける。


「もう大丈夫だ」


ラブラドル・レッドリーパーは嬉しそうに俺の側に駆け寄ってくると、しっぽを左右に振りながら元気よく吠えてくれた。


「ボッキマンではない人!やったな!流石は伝説の超人だ!」


ケンドーマスクが嬉しそうに声を上げる。


装甲を失って剥き出しになったロボットの骨格から筋肉を模した繊維が剥がれ、雨に濡れた小さな電子機器がジジジジと死にかけたセミの鳴き声のような音を立てながらバラバラと落下する。


「おっと!ボッキマンではない人、気をつけるんだ!奴はまだ動いているぞ!」


ケンドーマスクの言う通りだった。


こんな状態でもロボットはまだ稼働を続けており、光学センサーの成れの果てをぎちぎちと動かしながら状況を把握しようとしている。


このまま湖に投げ捨ててやろうか、と考えていたところで話かけられてしまい思わず手を離し、落としてしまった。


「あなたは、何者なんですか?」


その問いかけを無視し、コードやチューブやアクエーターやらが剥き出しにされたロボットの胸を踏みつけたまま口を開く。


「お前さ、やっぱどっかおかしいんじゃねーの?」


「どういう意味でしょうか?」

「そこの犬だよ。なんで犬なんか殺そうとしたんだ?」


「それはあなたも見ていたでしょう。普通の犬じゃなかった。異常な力を持った……」


「バカだなお前も。それで犬を殺すのに夢中になってて俺の動きに気がつかなかったなら本末転倒じゃねーか」


「おっしゃる通りです。ですがこの失敗は次に活かされるはずです」

「ねーよ」


次なんてないんだよ、お前には。


そう言いながらロボットの内臓を潰そうと足に力を込めようとした瞬間、ロボットの体が青白く光り、ばりばりと破裂するような音を立てながら大量の蒸気と共に電流をまき散らし始めた。


「はあ?」


不死身の俺にとっては攻撃ですらない、ただの呪いのような電流を浴びながら少し考えてしまう。


こんなことになんの意味があるんだ?


せめて服でも焼いてやろうとか、びかびかと光って驚かせてやろうかという最後の悪あがきなのか?


(……電流?)


こんな濡れた地面に電流が流れたらどうなる?


ふいに全ての音が止まってしまったかのように感じ、俺はロボットの胸から足を離し、慌てて奴の胴体を引きずり起こした。


「おい、ケンドーマスク!危ない!ラブラ……」


奴らの名前を呼びながら振り返ったと同時に俺は言葉を失う。


ラブラドル・レッドリーパーを持ち上げたケンドーマスクが、足を踏ん張りながら必死に電流に耐えていたからだ。


「うぅおおぉおっ!!わ、わ、私だってやる時はやるんだぞ!こ、この子は、わ、私の大切な仲間なんだ!」


頭の天辺や肩からもうもうと蒸気を吹き出しながらも、ケンドーマスクは一歩も引かなかった。


だがそんな奴の姿を目の当たりにして安堵したところで突然、喉元に刃物を突き立てられたような感覚が走る。


「はあ……?」


それは刃物ではなく、ただのひしゃげた金属片だった。


見るとロボットはぼろぼろになった腕から飛び出した装甲の一部で俺の首に突き刺そうとしていた。


「ガラクタが……」


こんなゴミで俺を……そう思った瞬間に血液が沸騰する程の激しい怒りがこみ上がる。


気がつけば俺は奴の残った腕を力任せに引き千切り、数百キロの重量はあるであろう機械の体を持ち上げ地面に叩きつけ、蹴りを入れ、何度も踏みつけていた。


地面に叩きつけられた衝撃で骨格はぐにゃりと歪み、内側の構造が露出する。


外部のシンプルな形状とは裏腹に内部はコードやパイプが複雑に入り組んでおり、まるで生物の内臓のようだ。


俺はロボットの体から内臓を引きずり出すと、もはや何も見えていないであろう奴の目の前でこれみよがしに握り潰してやる。


(何やってんだよ……)


断末魔のようにシステムの異常を告げる警告音が次々に発せられる中で俺は我に返る。


悪あがきのような放電などもうすでに停止している。


ロボットはバラバラになっていてすでに動かないが、おそらくまだ体内にある電子機器と電気系統は少なからず生きているのだろう。


かろうじて原型をとどめている頭部の残骸を放り投げると、泥の中に落ちてぐちゃりと湿った音を立てた。


ラブラドル・レッドリーパーはケンドーマスクの腕の中で悲しそうな顔をしながら俺のことをじっと見つめていた。


少し気が咎めるような思いに俺は顔を背ける。


「……聞いてください」

「ん?」


足元から聞こえる声に視線を下げる。


ロボットの頭部だった残骸がチカチカと小さな光を放ちながら声を漏らしていたのだ。


「聞いてください」


確かにまだ話している。

ここまで壊れてしまった物がどうして話せるのだろうか?


俺は一瞬その言葉に耳を傾けてしまいそうになったものの、すぐにその判断を「どうでもいいだろう」という結論に変えてしまい、踏みつぶそうと足を上げる。


しかし、悲しげなラブラドル・レッドリーパーの声にその考えを遮られ、俺はロボットの残骸に片足をのせたままで立ち止まった。

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