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天の網は逃さない!現れたのは鋼鉄の蜘蛛!③

「って、おいおい、なんでそうなるんだ?」


俺の問いかけをわざとらしく無視し、ロボットは抑揚のない無機質かつ聞き取りやすい声で続ける。


「ケンドーマスク様、我々は正義の側でありたいというあなたのような人々の情熱に対して、あらゆる種類のバックアップを検討しています。今回の指示はそれに先立っての当局からの試験だと考えてください」


「しっ、しし、試験だと……!?」


「はい。我々がもたらす秩序に対する姿勢を総合的に分析し、あなたに適切な対応が行えるかどうかを確認するためです。もしあなたがこの犬を殺してでもこの街を守ろうという行動を示したなら……」


その瞬間、ケンドーマスクは感情が爆発したかのような大声でロボットの言葉を遮った。


「ふっ、ふざけるなよ!!そんな真似をしてたまるか!この子は私のような者のことを信頼し、ずっと側にいてくれたんだぞ!!」

「……」

「誰に何を言われようと私は絶対にこの子を見捨てたりはしない!それが私の正義なのだ!!」


「……」


ケンドーマスクは愛犬を抱き寄せると、その体を力強く抱きしめる。

ラブラドル・レッドリーパーの方も相棒の気持ちに応えるように短く鳴いた。


「……そうですか」


ケンドーマスクの言葉にそう呟いたきりロボットはしばらく沈黙していたが、すぐに強烈な電光を散らしながらブレードを振りかざすと冷酷な口調で告げた。


「もう結構です」


もちろんこのまま見ていてもよかった。


しかし、どうしてだかケンドーマスクたちの脳天にブレードが叩きつけられるよりも早く俺の手は動き出し、手のひらに溜まった水を指で弾丸のように撃ち込んでいた。


俺の指の圧力から解放された水の弾丸は空気の壁を貫きながらロボットの右肩に着弾すると、水飛沫と共に奴の腕を猛烈に切り裂いていく。


「へっ、えええ……?」


ケンドーマスクが呆然と呟いた時には怪物のような奴の巨体は大きくぐらつき、ブレードのついた機械の腕は湖に向かって旋回しながら弧を描いて飛んでいく所だった。


「……!」


ロボットは光学センサーをあちこちに回転させながら損害の状況をモニタリングし、ぐらつく体を懸命に制御しようと試みていたが、どうやら上手くいかず膝をつくように後ろ脚を畳み込む。


腕の付け根から血飛沫のような火花を上げたまま光学センサーをキョロキョロと動かす様子は、まるで動物のような混乱ぶりだ。


「お、おい!ボッキマン!!ななな何をして……ここ、こ、これはいったい!?」


ケンドーマスクは狼狽しながらベンチに寝転がる俺の顔とロボットの切断された痕跡を交互に見つめる。


「何もしてないけど?この雨だから水でも入ってぶっ壊れたんじゃね?つか、俺はボッキマンじゃねえしな」


「そ、そうか、雨のせいだったのか……まったく、治安当局のロボットとやらも大したことはないな!どうだ!私を見ろ!この土砂降りの中でもビクともしないぞ!」


ケンドーマスクはロボットに対して挑発的に拳を突き付けてから、雨をたっぷり吸いこんだシャツを絞り出す。


「ま、まあ、私とて命まで取るつもりはない!だが……次はないぞ?今回はこれで勘弁してやるがな……」


「…………」


「ボッキマンではない善良な一般の人よ!さあ、今のうちに逃げよう!」


いつの間に俺はこいつの仲間のような立場になっているんだろうな。

まあそれはいいとして、ロボットの様子を見る限りこのままでは終わらないだろう。


「では、急ぎ隠れ家に向かうぞ!ラブラドル・レッドリー……」


ケンドーマスクの言葉を遮るようにロボットは再び立ち上がると、左腕を素早く展開させて大型の機関銃のようなものを俺たちに向ける。


それは警告ではなかった。


「オーバーザビーチとは海を越えての射撃戦を実現するための設計原理であり、それはすなわち厳しい環境下でも確実に作動するという信頼性を表しています」


「はあ?」


ロボットの意味不明な言葉に俺とケンドーマスクは思わず動きを止めてしまう。


その唐突な解説になんの意味があるのか俺にはわからなかったが、あるいはロボットなりに考えた俺の虚を突くためのものだったのか、だがいずれにせよ次の瞬間にはロボットはためらいなく射撃を開始していた。


「ど、どど、あうおぅおおおっ!!?」


遠雷のような激しい銃声と共に大量の血と体組織の欠片が宙に舞い飛ぶ……ように思われたがそうはならなかった。


銃口から撃ち出された弾丸はケンドーマスクとラブラドル・レッドリーパーを避けるようにして、ぬかるんだ地面に小さな水柱を無数に立てるだけに終わった。


もちろん俺は何もしていない。

ロボットの射撃の腕が下手だったというわけでもない。


俺の予想とは違い、黄色いレインコートを着たゴールデン・レトリバーは無力な存在ではなかったのだ。


「ラブラドル・レッドリーパー!?!」


ケンドーマスクの驚きの声を耳にしながら、俺はベンチから体を起こす。


「はは、おい……マジかよ……」


次の瞬間、ラブラドル・レッドリーパーは大きく息を吸い込んでその体を数倍に膨らませると、耳をつんざくような咆哮と共に口から衝撃の波を吐き出し、ロボットを爆発的な勢いで吹き飛ばした。


「あひっ!」


強風に煽られたケンドーマスクが転倒し、破れたレインコートがコウモリのようにばさばさと宙を舞う。


少し緩やかになった雨の中で、花火のように空高くに打ち上げられたロボットが湖に向かって落下していくのがわかった。


俺は感心する。


「……すげえな、お前ちゃんと強かったんだな」


ラブラドル・レッドリーパーは俺に振り返ると、尻尾を振りながら嬉しそうに吠えた。ロボットが湖に落下し派手な水飛沫が上がる。


だが、ラブラドル・レッドリーパーの攻撃はまだ終わらないようだ。


彼が高らかに遠吠えすると、ずどんと爆弾が炸裂したかのような音を立てて湖面から大きな水柱と共に巨大な竜巻が姿を現したのだ。


ロボットを飲み込んだ竜巻は猛烈に風を巻き上げ、その体を蛇のようによじりながら上空へと昇っていく。


「ははは……こりゃすげーわ」


どうやらラブラドル・レッドリーパーはあの偉そうなロボットをどこか遠いところまで竜巻で飛ばそうと考えているようだ。


なんて滅茶苦茶なんだろう、俺は思わず笑ってしまった。


(だが……)


竜巻がそのまま空へと駆け登って行くかと思われたその時、爆音と共に竜巻が破裂し、大量の泥を含んだ水飛沫を撒き散らしながらロボットが姿を現した。


そして空中で体をぐるりと回転させると、背中のバックパックから蒸気を噴射し、俺たちに狙いを定めてミサイルのように急降下を始める。


「!」


これまで竜巻が巻き上げていた降り注ぐ泥水を切り裂きながら、ロボットは地上にいるラブラドル・レッドリーパーへと急加速しながら突撃する。


ラブラドル・レッドリーパーは激突の寸前で体当たりを回避したものの、ロボットの動きは想像以上に素早く機敏で、見るからにギリギリだ。


鋼鉄の巨体が地面を掠めるその衝撃と風圧は、それだけで爆撃でもされたかのようなものだった。

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