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15歳編④

やがて夜になり、スコーンにある港町に、3隻の大きな船が停泊する。1隻はシュガトピア王国からやってきたばかりの船で、20人ほどの乗客が船を降りる。その中にはマフィン魔法アカデミーへ入学予定の者も含まれ、その中には勿論、ジュリアの妹・シンシアがいる。

「カルにぃっ!!!」

シンシアはブランシュ領にいる時の姿のカルマンを見つけるや否や、自分の前を歩く入学希望者の少年に飛び乗り、元気に手を振る。普段はカルマンの弟と妹の世話をよくするため、2人の前ではお姉さんぶることが多いシンシアだが、カルマンの前だとまるで本来のポジションに戻ったかのような態度をとる。

「シンシア、とうとう修行開始だな?」

「うん、でもね…修行に立ち会ってくれる人、お姉ちゃんじゃないみたいなんだ。」

そう言いながら、シンシアは修行の立会人の名前が書かれた羊皮紙をカルマンに見せる。魔法文字ではあるが、字の雰囲気からジュリアの名前ではない事が、カルマン達からも読み取れる。

「んでね、さっきの緑髪のナルシストが持ってた羊皮紙に書かれた名前がさぁ…」

シンシアの目線に合わせるようにしゃがむカルマンに、シンシアはカルマンの右耳に両手を添えて、少年の羊皮紙に書かれた名前を告げる。その名前を聞いた瞬間、カルマンは目を皿のように丸くしてしまう。


「ドナウヴェレ行き、お乗りの方は速やかにご乗船ください!!!」


案内人のアナウンスを聞いたカルマンはすっと立ち上がり、シンシアの頭を優しく撫でる。

「じゃあな、シンシア…ジュリアと肩を並べられるような、立派な魔法使いになれよ…」

その表情はシンシアには見えないが、涙交じりの声にシンシアは何かを察した。シンシアが帽子のつばを上げると、カルマンは既にドナウヴェレ行きの船に乗船しており、シンシアに向かって元気よく手を振っている。


無邪気に手を振り返すシンシアの背後に、ヨハンとセレーネ、そして精霊ヘーゼルがやって来る。船がシンシアの視界から見えなくなると同時に、シンシアはすんと表情を変える。

「シンシア!!!カルマンは…」

「フルーティアの港町に行った…」

妹分の言葉に、ヨハンは持っていた羊皮紙をぎゅっと握りしめ、咄嗟にカルマンを叱責しようとするが…


「ねぇ、どうしてカルにぃは勇者の恰好じゃなかったの?どうして…カルにぃは泣いてたの?」


突然の彼女の言葉に、ヨハンは思わず言葉を詰まらせる。

「答えてよ…カルにぃに何があったの?」



一方、フルーティア連邦に向かう船の甲板で、カルマンは壁に寄りかかりつつ夜空を見上げていた。そんな彼の右手には、アクセサリーの状態の大剣が握りしめられている。その大剣は本来の真紅の色ではなく、まるで冷たい石のように仄暗い色に変わっている。

「これで…よかったんだ…勇者でなくなった以上、もう…俺には、あいつらに会わせる顔はねぇ…」

「これで、あの巫女からイタズラされなくて済むんだ」…そう思った刹那、カルマンの目から大粒の涙がこぼれ、彼は誰にも気づかれぬように顔を伏せてしまった。


それはまるで、嫌いだと豪語していた相手に対して、密かに抱き始めた想いから反発するかの如く…

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